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旅人剣士の異世界冒険記   作者: うみの ふかひれ
第一章 冒険の始まり
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第十五話『アルデス山脈④』

 インフェルノ=レプターは、その翼をはためかせて空を飛んだ。


 一瞬で遥か上空にその巨体を位置づけると、インフェルノ=レプターはその口から火炎を放射した。その火炎が持つ熱が離れている修也にも伝わって来る。


「ッ!」


 地面に着弾した途端に広がる火を、修也は必死に躱す。熱波が修也を襲い、全身に汗が流れた。


「くそっ!」


 修也は、上空にいるインフェルノ=レプターを睨みつけた。


 上空にいるのでは手の出しようがないし、その火炎を一発でも喰らえば、全身の骨や肉が焼けただれて即死だ。


 打つ手がない。空を飛べるというのはこれほど厄介な物なのか。今更ながらに、この状況の深刻さを知る。


 第2射が放たれる。先程と違うのは、その火炎の形態が巨大な炎ではなく、いくつもの火弾だということ。数で圧倒しようという魂胆だろう。


 隕石のような攻撃を、修也は紙一重で躱し続ける。着弾した所からその炎が弾けて、一瞬だけ高熱を発するのだからたまらない。


 常に視力を強化しているので、上空にいるインフェルノ=レプターも、迫りくる火弾の一つ一つも、何もかもが見えている。一つ一つの攻撃が即死級。修也はそれらを紙一重で避け続けた。


 永遠に続くと思っていた、火弾の放出が終わる。何事かと上を見ると――回転しながら迫る、インフェルノ=レプターの姿が見えた。


「ッ!」


 足に魔力を込めて、修也は高く跳んだ。ここから走って逃げても、とてもじゃないが攻撃を避けられるとは思わなかったからだ。


 ズンッ! と、着地した地面にそんな音が響いた。


 インフェルノ=レプターがその巨体を地面に勢い良く叩きつけた音だ。人間なら、まず間違いなく即死するであろう一撃。だが、インフェルノ=レプターは何事もなかったようにその巨体を起き上がらせる。


 その後、インフェルノ=レプターは再び空を飛んだ。


「……さて、どうする」


 今の修也には、空を飛ぶ(すべ)はない。


 したがって、インフェルノ=レプターが地面に降りてきた時にしか攻撃できない、と。

 

 なんともまあ恐ろしいものだ。なぜ自分はあんな化け物に目をつけられたのか。修也は笑みを浮かべる。


 ふと、元いた世界での事が頭を()ぎった。


 自分は学校では無口で、限られた人としか話さない。いわゆる陰キャだった。


 何故か物覚えが良かったものの、修也の性格はただ暗く、それでよくからかわれたものだ。

 

 部活にも入らず、ただ機械のように同じことを繰り返す日々。まさしく地獄のような時間だった。   


 冷静沈着を自称していたし、インフェルノ=レプターと対峙している今も、こんな思考を続けられているので、実際には間違いないのだろうが……。


 自分は、ただ無口だっただけだ。


 特に頭も回らず、この状況をどうにかする術も思いつかない。普通の高校生だった。

 

 異世界に来て、少し自分が強くなったと錯覚していたが、実際はどうだ。空を飛ばれただけでこのざまだ。


「…………」

 

 ギリッと歯ぎしりをして、その胸に悔しさを宿らせる。


 分不相応な力を持つ自分は、どうすればいい。


 考えろ、考えろ。今自分に出来るのはそれだけだ。


 そう――あの翼をどうにかすれば、勝てるはずだ。片翼でも斬り落とせば、それだけでインフェルノ=レプターは飛べなくなる。


 なら、あの翼を斬り落とすにはどうしたらいい。


 あの硬度から地面に体を叩きつけても、なお立ち上がれるその耐久力は圧倒的だ。魔力を込めた剣で斬っても、斬り落とすとまではいくまい。 

 

 斬り落とせる可能性があるのは、クルトの家で出した、あの青白い光の剣。


 もう一度、あれを出すしかない。

 

「よし」


 考えはまとまった。後はインフェルノ=レプターが上空から降りてくるのを待つだけだ。


 少しした後、インフェルノ=レプターが口から火炎を放射した。今度は動きながら放っているので、火が地面を舐めるように進む。


 修也に火が近づいてくる。


 直前まで火を引きつけて、数メートル先に火が来た瞬間、修也は左に跳んだ。


 地面に体を投げ出して火を何とか避けると、インフェルノ=レプターは火を放つのをやめて、火の玉を連続で放つ。


 着弾した所が爆発して、巻き上げられた土埃が修也の視界を遮った。上が見えなくなったので、修也は土埃が舞っている範囲から出た。

  

 そこで見たのは、インフェルノ=レプターが空から落ちてくる光景。今がチャンスだと思い、修也は剣に魔力を込めて、光の剣を出そうとした。


 たが、出ない。明確なイメージを持つのに時間がかかるからだ。訓練すればこの時間を短縮できるのだろうが、今の修也にはそんな時間はない。

 

「ッ! くそっ!」


 やむを得ず、修也は落ちてくるインフェルノ=レプターを避けた。轟音と振動が修也を襲う。その衝撃で、修也は地面を転がりまわった。


 すぐに様子を見て、次の攻撃に備えようとした――が、ここであることに気づく。


 インフェルノ=レプターが起き上がるのに、少なくとも10秒以上はかかっているのだ。


 このタイムラグを利用すれば、修也の中で十分な光の剣のイメージを浮かべられるだろう。


 希望が見えてきた。次に落ちてきた時、インフェルノ=レプターの翼を斬り落とす。


 修也がそう思っていると、インフェルノ=レプターは再び空を飛んだ。一瞬で驚くほど高いところに行くと、再び火を吐き出した。


 修也はまたそれを避ける。


 気がつくと、周りの温度が少し前と違っていた。肌寒くはなく、むしろ暑い。


 それは、インフェルノ=レプターの吐く火の温度が高いことの裏返しだ。やはりあの火をまともに食らうのは避けた方がいいだろう。


 第2射が放たれる。修也はまたそれを避けた。


 ふと剣がどうなっているかが気になって見てみると、刃がだいぶ熱くなっていた。直撃したら一体どうなるのだろうか。


 考え事をする暇もなく、第3射が放たれた。首を動かして火を動かしている。修也は追ってくる火から逃げた。魔力を足に回して強化すると、とんどん火から離れていく。


 やがて火が収まると、修也は息を荒くしながら上を見た。


 インフェルノ=レプターの口から、火がチラチラと見えたと思ったら、無数の火弾を放って来た。一つ一つが即死級の攻撃力を秘めている。

 

 空襲でも受けたかのような威力だった。周りの地面を揺るがして、修也に襲いかかってった。


 強化した動体視力で、火弾が来ない地点を確認すると、修也は何箇所もあるそこを走り続けた。


 火が収まって、代わりにインフェルノ=レプターが空から降って来る。


「ピュロロロロロ!!」


 鳶のような鳴き声を上げた後に、地面に着地した。また轟音と振動が修也を襲う。


 残り、10秒。


 修也は走りながら剣に魔力を込めて、イメージする。青白い光の剣。インフェルノ=レプターの翼を断ち切るほど大きく、切れ味のある――。


 残り、5秒。


 剣から、青白い光の剣が生成された。それはとても長く、またきれいなものだった。


「ピイッ!」


 インフェルノ=レプターはその巨大な翼を広げて、再び羽ばたこうとする


 残り、1秒。


「おおおおおおッ!!」


 ――長く、大きく、切れ味のある光の剣が、インフェルノ=レプターの片翼を切断した。


 


 


 


 

 

 


 


 


 

読んでくださって誠にありがとうございます。良ければ感想、ブックマーク、ポイント等を入れてくれると嬉しいです。作者のモチベーションになるので……

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