第十四話『アルデス山脈③』
――修也は走って移動している時に、ある物を見つけて立ち止まった。
今修也がいるのは、一歩踏み外したらアウトな断崖絶壁。狭い道を走り、その道の終わりに広い所に出ようとした時だった。
「うわ……でっか」
そこには、目測で3メートルはある、巨大な人型のモンスターだった。
顔は醜悪で、ブクブクと太っている。その手に持つ棍棒は大きく、あれで思いっきり叩かれたら一瞬で絶命するだろう。
戻ろうと思ったがすぐに思い直す。ここ以外に通れる道はないし、仮に通れる道があったとしても、すごく遠回りになるだろう。
「よし……」
鞘から剣を抜いて、人型のモンスターの前に出る。やはりでかい。近づいて行くだけでその大きさが如実に伝わって来る。
すると、修也には理解できない言語で何事かを喋った。
「■■■■■、■■■■■■? ■■■」
向こうに取っては、その言語が普通なのだろうが、今は単純に理解できないことが恐ろしい。未知とはなんと恐ろしいものなのか。
人型のモンスター。名付けるならトロールといったところか。そのトロールが、手に持つ棍棒を振り上げた時、修也は走ってトロールに向かっていった。
修也は振り下ろされる棍棒を紙一重で避けて、修也はトロールの足元に踏み込んだ。
剣に魔力を込めて、トロールの足を斬り落とした。
「ガアアアアアッ!!」
トロールが足を斬られた痛みに悶える。体制を崩して、ジタバタと暴れている姿は滑稽以外の何物でもない。
トロールが暴れているので、地面が揺れている。修也は一瞬体制を崩しそうになるもすぐに立て直した。倒れたトロールに向かって、修也は走る。
倒れたトロールの背に乗ると、その首を首を斬り落とした。
トロールはそのまま動かなくなり、光の粒となって消えていった。その場には棍棒だけが取り残される。
「ふぅ……」
そっと息を吐いて、剣を鞘に収める。
修也はそのまま走り出しだそうとした――が、修也はすぐに剣を抜いた。
岩の色に同化した何かがいる。修也の強化された視力は、胴体の長い何かをしっかりと捉えていた。
そこを見ながら、修也は先程よりは広い山道に向かう。
――ガラッ。
「くそっ!」
トロールと戦ってから少しして、すぐに新しいモンスターに遭遇した。
それは巨大な蛇のモンスターだった。
岩にその長い胴体を巻きつけて、しかも体色を偽装するという徹底ぶりで隠れていた蛇は、修也が広い空間と山道の境に来た瞬間に、その姿を現したのだ。
一歩立ち止まればそれだけでその巨大な口で丸呑みにされるという、純粋な恐怖が修也を襲っていた。
剣を抜いたまま走って蛇の様子を伺っているが、少し後ろを向いただけでも減速するので、どうしようもない。
「シャァッ!」
巨体をくねらせながら、蛇は修也の後を追ってくる。ここはそこまで広くもない山道。まだこのような道が遠くまで続いているので、戦おうにも戦えない。
だが、このまま追いかけられていては、先には進めないだろう。
修也は立ち止まり、剣に魔力を込めた。
立ち止まった修也に、蛇が大きな口を開けて迫ってくる。
「ッ!」
修也は剣を振り下ろして衝撃波を飛ばした。
下から蛇の頭を衝撃が襲い、進んだ勢いで、蛇はその巨体を浮かせた。
巨体が修也の上を通り過ぎて、前の道にその胴体を横たわせた。だが、蛇は頭だけをこちらに向けて、修也を睨みつけていた。
岩の壁を数歩走って飛ぶと、修也を見ている蛇の背に、思い切り剣を突き刺した。蛇の動きが止まり、その場で暴れだす。
修也は剣を蛇の背から抜いた後、その背を何度も斬りつけた。グシャリグシャリと言う音が何度も響く。
同じ場所を何度も斬りつけたことで、剣はだんだんと深く蛇の肉を抉っていった。
骨のような白い部分が見えた所で、蛇はその尾をしならせて、修也を岩の壁に叩きつけた。
肺の空気が、強制的に出される。
「カハッ」
叩きつけられた所から落ちて、少しの間その場に蹲る。
ここで止まったら殺られる。そう思って顔を上げると―――蛇は消え、代わりに魔石が落ちていた。
先程の攻撃は、文字通り最後の力を振り絞った物のようだった。
「痛っ……骨にヒビとかはいってんだろ、これ」
背負っているバックパックの中身が無事なのかを確認する。
「…………あー」
やはり、ポーション類はほとんど砕けている。無事なのは3本だけだった。ガラスの欠片が携行食に混ざっていて、とてもじゃないがこの携行食を食べようとは思わない。
恐らく骨が折れているが、ここでポーションを使うのは良くないと思い、立ち上がる。
「いっ……」
その後すぐにうずくまった。肺あたりの骨が折れたのだろうか。胸のあたりがすごく痛いし、呼吸しづらい。まだ痛みに慣れていない修也にとって、この痛みはすごく辛かった。
背に腹は変えられない。
3本ある内、1本のポーションを飲み込む。
その瞬間、胸の痛みが消えて、代わりに開放感が訪れた。ここにきて、ポーションの有り難みが身にしみる。立ち上がっても、先程の痛みは訪れなかった。
「すげぇな……次はもっと買い込むか、ポーション」
修也は剣を鞘に収めて、歩き出した。
★★★
――長い山道を抜けた先、遂に修也は目的の場所にたどり着く。
その洞窟の前には、『この先、アルデス採掘場』と書かれた看板があった。遠目でそう書いているのか見えたので間違いない。
今、修也は広い空間にいた。学校の校庭ほどの広さで、そこを歩いていくと、アルデス採掘場がある。
「……よし」
改めて、自分がここに来た理由を再確認する。
自分は今、クルトに頼まれてアルデス採掘場という所でかつて採掘されていた、アドミウムという金属をを取りに来た。
クルトの話では、それは修也の剣の素材として使われるということだから、出来るだけ多く採掘しなくてはならない。
そのために、わざわざ倒したモンスターの魔石を回収しなかったのだ。出来るだけアドミウム鉱石を持ち帰るために。
幸い、何故かモンスターはこの空間にいない。安心して、修也は先に進む。
不安要素があるとすれば、ピッケルなどの採掘に必要な物があるかどうかだが――と思った、その時。
修也の体を、唐突に巨大な影が覆った。
「え……」
弾かれるように上を見る。
そこには、修也が異世界に来た時に見た――グリフォンが、そこにいた。
「ピュロロロロロ!!」
そんな鳴き声を上げて、そのグリフォンは口から火を吐いた。元いた世界の火炎放射器だって、これほどの規模の火は放てまい。
「ッ!」
咄嗟に左に飛ぶことで、修也はグリフォンの吐いた火を躱した。熱波が修也を襲う。山と言うこともあり、少し冷たくなっていた体がその熱波で温まった。
バサッバサッと羽音をたてて、グリフォンは修也のいたところに着地する。
そのグリフォンは、とてつもなく巨大だった。修也の知る姿とは違って、その体毛は赤く、その巨体も相まって、ドラゴンを彷彿とさせる。
「―――は?」
――その時、修也は一瞬だが、確かに見た。
グリフォンの頭上。一瞬だけ文字が表示されたのだ。
『狂乱鳥 インフェルノ=レプター』、地獄の猛禽。
それが、目の前のモンスターの名前だった。
「これって……」
ネームドモンスター。
修也が呆然と呟いた途端、インフェルノ=レプターはデカい鳴き声を上げて、修也に襲いかかってきた。
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