第十二話『アルデス山脈①』
修也はその後、徒歩でアルデス山脈を訪れていた。
いや、正確にはアルデス山脈の前か。
ここまで山道を登ってくるのに少し時間がかかり、アカゲラの村を出た頃はそれほど登っていなかった太陽が真上に位置していた。
荷物は一応確認してきた。背にはバックパックを背負い、その中には様々な道具が入っている。
中には念の為にと一週間分の携行食にポーション、水筒。そしてバックパックの横には、クルトに貰ったランタン型の魔道具が吊るされている。ついでに、ある鉱石が1つ。
ここに来る前に会った、クルトの発言を思い出す。
『いいかい、アルデス採掘場は山の中腹にある。そこには採掘するための道具が大量に放置されているらしい。君にはアドミウム鉱石をやるよ。それを見て、それと同じ色の鉱石を、そのバックパックに大量に詰め込んで持ってくるんだ』
一文一句、はっきり覚えている。
「……よし」
と、視界の端にあるものが写り込んだ。
そこには、《この先迷宮、探索者以外は立入禁止》と書かれた看板があった。
ああ、それくらい知っているとも。でも行くんだ。
修也は、土から岩に変わっている地面に足を踏み入れた。
★★★
足を踏み入れた途端に感じたのは、世界が切り替わるような、別の世界に入り込んだような、そんな違和感だった。
だが、その違和感はすぐに消え去り、修也はすぐに歩き出す。
アルデス山脈は全体が巨大な迷宮であり、山の中にはモンスターが生息している。そんな情報を思い出した途端、早速モンスターが出現する。
灰色の毛を持った狼だ。
獰猛な鳴き声を上げて、修也に向かって噛みつこうとする。
「はっ!」
修也は、向かってくる狼を真っ二つに斬り裂こうとしたが、ショートソードの刃は、狼の体を浅く斬っただけだった。
剣の勢いが狼を退けた。少し対空した狼はその後きれいに地面に着地して、また向かって来た。
修也は続けざまに剣を振った。左右に剣を振って、狼の体に傷を作る。
狼の動きが鈍くなった直後、狼の首に剣を振り下ろす。修也の剣は狼の首の肉を深く抉り、狼は動かなくなった。そのまま狼は光の粒となって消える。
その場には、魔石だけが残された。
「……なるほどな」
アカゲラの村にある、名も無き迷宮とは訳が違うようだ。たった1体でもこれほど手こずるとは。
ここに来て、《魔力物質化》の重要性を改めて理解する。ここのモンスターを斬るのに、《魔力物質化》を使えばどれほど楽に斬れるだろうか。
「まあ、戦っていくうちにだんだん習得出来るだろ」
自分の中でそう結論づけて、修也は先に進んだ。
すると、奥からまた狼が現れる。今度は3匹だ。
「……ふぅ」
ショートソードに魔力を込める。
この作業をもっとスムーズに行うことにしよう。戦闘中にこれが出来るだけでもだいぶ違う。
正面から狼の内の1匹が迫ってくる。修也は狼を剣で斬りつけようとした。先程と同じ流れだ。だが修也が剣を振った瞬間、奇妙なことが起きた。
剣から、衝撃波が放たれたのだ。
衝撃波は剣から地面に、そして、地面から狼に向かって、下から放たれた。
「グラァッ!」
1匹の狼が宙を舞う。
バギっ!という骨が砕けるような音がしたのと同時に、狼は光の粒となって消えていった。
カラン、と魔石が転がる。
「今のって……」
剣に込めた魔力が消えた代わりにこの現象が起きたのだから、魔力が原因と見て間違いないだろう。
魔力とは、何と不思議な物なのか。
「いや、今はそれより……」
2匹の狼を見る。
先程と違い、すぐに襲ってくる様子はない。警戒しているのが見て取れる。修也が一歩前に出ると、狼は一歩後ろに行く。
このままでは埒が明かないと思い、修也は足に魔力を込める。
足に力を込め、修也は地面を踏みしめて、そのまま跳んだ。右手に持つ剣を振り抜き、狼の目を深く抉る。続けて剣を斬り上げて、狼の腹を斬った。
何故か血は流れなかったが、そこで狼は動きを止めた。
その隙をついて、修也はがむしゃらに狼を斬り続ける。たくさんの裂傷を作ったと思ったら、狼は光の粒となって消えていった。
残り1体。
真っ直ぐに向かってくる狼を尻目に、修也は剣に再び魔力を込めて、今度は先程の衝撃波を自分の意思で放った。
剣を振り、魔力が剣から抜けて地面に行ったと思ったら、下から衝撃波が放たれる。
先程の狼と同じく宙を舞った狼は、光の粒となって消えた。
「はぁ……はぁ」
修也の中の魔力が少しだけ無くなっている。第2の心臓の鼓動を停止させ、周りにある魔力を体内に取り入れた。
なんとなく、修也の体内に取り入れられる魔力の量が満杯になった気がしたので、修也はすぐに第2の心臓を起動させる。
その後、一息ついて、修也は剣を抜いたまま歩き始めた。
「ん?」
それからすぐに修也は足を止めた。
視界の端に何かが写ったような気が来たからである。
「なんだ?」
剣を構えて辺りを見渡してみる。だが、見えるのは岩肌のみ。狼などは見受けられない。
気のせいかと思い、修也はそのまま進もうとした。
「……ッ!」
弾かれたように下を見る。
すると、修也の下の地面が揺れだして―――地面から飛び出して来た何かに、腕に傷を付けられた。
「いっ……くそっ!」
手に持つ剣で、それを斬る。
「キイッ!」
それはモグラのような姿をしたモンスターだった。剣でその肉を斬ったのは良いものの、モグラのようなモンスターは、すぐに地面を掘って消えてしまった。
地面を掘る音だけが聞こえる。
背後にガラッ、という音が聞こえた途端、修也は剣に魔力を込めて、素早く剣を振っていた。
衝撃波が地面から出ている頭に直撃した。
「ギッ」
そんな断末魔が聞こえた直後、モグラのようなモンスターは魔石に姿を変えていた。
「痛ってぇ……」
修也は、ガントレットの無い所に付けられた裂傷を見ていた。
どうやら、先程のモグラのようなモンスターは爪で攻撃してくるらしい。
あれが一体だったから良かったものの、複数体で襲ってきたらまずいことになりそうだ。
修也はバックパックの中からポーションを取り出した。道具屋の少女曰く、これを飲めば傷の治りが早くなるらしい。
フラスコについている栓を取り外し、中身を飲み込む。なんというか、元いた世界で言うエナジードリンクを思い出す味だった。
修也の体に変化が訪れる。傷口から流れている血が止まり、新しい肉ができた。それと僅かな開放感が訪れる。
腕を動かしてみるが、傷の痛みは無い。ポーションの効果はどうやら本当のようだ。
ポーションの入っているフラスコはあと10個。バックパックの中に入れても何故か壊れないフラスコは非常に便利だ。
使用済みのポーションの入っていたフラスコは捨てた。
「……走ったほうがいいかもな」
今のようなことが無いように、走って移動したほうが良さそうだ。
そんな事を思いながら、修也はその場から走り出した。
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