第十話『探索終了』
「……早川修也だ。もう二層に行ったのか」
金髪の男に向かってそう聞いてみる。
目の前の男の雰囲気は異様なものだった。例えるならば、研ぎ澄まされた刃のような……。
「ああ。二層目も同じ洞窟だよ。今引き返して来たところだ」
そう言って、男は階段から修也の上まで跳んだ。
「な……」
地面に着地すると、男は振り返って、
「途中まで一緒に行かないか。疲れているのは君も同じだろう」
一緒に迷宮を出て行こうと、そう提案してきた。
その言葉の響きには、友好的というより打算的な物が多く含まれている。
だが、男の提案は願ってもない事だった。修也も疲れていたし、迷宮の第二層から帰ってきたという男の話が本当なら、男の実力は相当なものだろう。
考えが頭を巡り、やがて修也はその提案を受け入れた。
「……分かった。一緒に行こうか」
前にいる男にそう言うと、男は軍服についている黒いマントをバサリとはためかせて、
「道は覚えている。ついてくるといい」
迷宮の中を、歩き始めた。
コツコツコツと、二人分の足音が迷宮内に響き渡る。
この地点に来るまでに、2回ほどモンスターとの戦闘があった。
そこでの男はまさに鬼神の如き強さで、ゴブリンも、スケルトンも、あっと言う間に斬り伏せていた。
男の名前はエドワードと言うらしい。何故か名字は教えてもらえなかった。
得物は修也と同じショートソード。だが修也の我流剣術とは違って、エドワードの剣術は真っ当なものだった。
驚いたのは、エドワードがモンスターとの戦闘中に飛ぶ斬撃を放ったことだ。と言っても、魔力を使っているようだったが。
青白い色合いの斬撃に刺突。魔力がそんな形を取ってエドワードの剣から放たれていた。
どうやるのかをエドワードに聞いたところ、一応答えてくれた。
「君も探索者なら、空気中にある魔力を取り込み、身体能力の強化に使うことくらい出来るだろう?」
「ああ」
「なら簡単だ。体内にある魔力を操作し、それを剣に縫わせて、魔力に形を取らせればいい」
と、いうことらしい。剣に魔力を縫わせるなど考えもしなかったが、アカゲラの村に戻ったら挑戦してみることにしよう。
ともかく、エドワードがいるだけで、迷宮探索が非常に楽になった。
――それからしばらくして、初めての迷宮探索は終わりを告げる。
「……外だ」
修也は感慨深そうに言った。
迷宮の外は夜の帳が降りて、周りの光源が篝火だけな為か、星空がよく見えていた。異世界の月は、元いた世界と同じく金色に輝いている。
「じゃあ、私はこれで失礼する」
エドワードはそう言って去ろうとしたが、それを修也が呼び止める。
「ちょっと待った」
「……何だ」
「魔道具屋ってどこにある。この街に来たのも、この迷宮に入ったのも初めてで分からないんだ」
「道具屋があるだろう。その隣だ」
「ありがとう。悪いな」
修也はその後、道具屋の隣にあるという魔道具屋を目指した。
★★★
魔道具屋の扉を開ける。
隣にある道具屋と同じく、扉につけてあった鈴が鳴った。
店内はそこら中にある蝋燭の光に照らされている。
「いらっしゃいませ」
男の声だ。声の聞こえた方向を向くと、珍妙な道具が棚の大部分を占めている光景の中、カウンターと思われる場所に、青い髪の男がいた。
「一人ですか?」
男にそう問いかける。
道具屋と違い、店員の人はいなかった。それ程遅い時間でもないだろうに、1体何故人がいないのか。
理由は、すぐに男が答えてくれた。
「ああ。魔石の買い取りは一人でも出来るし、魔道具の販売も昼間までで済ませてるからな。この時間帯は魔石の買い取りしか受け付けてないのさ」
客に敬語を使わないところを見ると、相当気が抜けているらしい。
なら、こちらも遠慮なくタメ口で話そう。
「……魔石を買い取ってほしい」
「あいよ」
修也はカウンターに行くと、革袋から大量の魔石を取り出した。
「……多いな。よほど頑張ったんだろう。少し鑑定に時間がかかるぞ」
「分かった。店の魔道具を見て、適当に時間を潰してるよ」
ルーペを持って魔石を鑑定し始めた男を尻目に、修也は店内の魔道具を見始めた。
全体的に、日常的に使う物を多く取り揃えている。ライター型の物や水を生成する物等が多い。
魔道具の動力源となる物が、モンスターから取れる魔石であり、それを売ることで探索者は生活しているということだが、まさか本当だとは思わなかった。
魔道具屋と探索者との密接な関係はクルトから聞いていたが、この光景を見たら信じざるを得ない。
「ん?」
修也の目に止まったのは、紫色の水晶玉の形をした魔道具だ。何故だか引き寄せられた。
手に取って、眺めてみる。
すると、
「痛っ」
水晶玉を持つ手に、静電気のような何かが流れた。それと同時に訪れる違和感。
「あれ……」
文字が、読める。
異世界の文字が、何故か読める。
「え、え?」
原因は恐らくこの水晶玉だろう。
水晶玉の置いてあった所にあった値札には書いてある。《大陸共通言語を習得出来る玉》と。
この水晶玉の値段は10000ゴルドと、ちゃんと書いてある。
「なんか不味い事しちゃったかな……」
そう呟いた直後、体に倦怠感か訪れる。
原因はすぐに分かった。何故か、体内に取り込んだはずの魔力がゴッソリ無くなっていたのだ。
修也に嫌な汗が流れた途端、カウンターの男が話しかけてきた。
「鑑定終わったぞ」
「え、あ、はい!」
歩いてカウンターに向かうと、大量にあった魔石の代わりに、革袋が置かれていた。
「ほれ、代金の20000ゴルドだ」
「……あざっす」
修也は素早く革袋を取り、魔道具屋から出た。
コンコンと、クルトの家のドアをノックした。
「クルト、入るぞ」
修也はそう言った後ドアを開けた。途端、カン……カン……と、規則的な音が聞こえる。
クルトは、白いシャツの袖を捲くって、額に汗をかきながら、熱せられた鉄塊を叩いていた。
「ああ、おかえりシュウヤ。お金とか荷物とかは奥の部屋においといてくれ」
「分かった」
修也は言われた通りに奥の部屋に行き、軽鎧やガントレットを脱いで、またクルトの様子を見に行った。
ガチャッとドアを開けた後、修也はクルトに問いかける。
「鍛冶をしてたのか」
「ああ。修也の剣を作る為に、色々イメージを固めてるんだ」
確かによく見ると、クルトの周りにはたくさんの剣か無造作に放られていた。
それらはなんというか――でかい。
でかいといっても、長さ自体は修也の持つショートソードより少し長いくらいだ。ロングソードと言ったほうがいいか。
だが、その幅が、ショートソードよりも相当広い。
置かれている剣を広い、それと修也の持つショートソードとの幅を比べてみる。
やはり広い。ファンタジー物で良く見る、両手剣と言ったほうが分かりやすいだろうか。だか広さはロングソード。柄の方の刀身が最も広く、剣の先になるとその幅は狭くなっていた。
そんな物が、何個も放られている。
クルトの足元にはもう一つ何かあった。
鞴だろうか。定期的にその中から空気を放出して、クルトの近くにある炉の温度を調節している。自動で動いているところを見ると、それが魔道具だと言うことが分かった。
と、ここまで見た所で、一区切り付いたのか、クルトが話しかけてくる。
「夜ご飯にしようか。新しい同居人の為に、兎の肉とサラダを作ってやろう」
そう言った後、クルトは奥の部屋に向かった。
「……楽しみだな」
その後を修也は追った。
――その後、鶏肉のような味がする兎肉とサラダを食べたあと、修也は鍛冶屋にあった藁の山を布団代わりに、ゆっくりと眠りに着いた。
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