-第1話- 村が襲われたので旅に出ます。
どうもこんにちは、太刀魚と申します。
異世界冒険ものは初めて書くので評価、感想などよろしくお願いします!
此処は“ユーリア大陸”にあるちっぽけな村、“ココシ村”。僕の名前はコルト・ピート。
この村で羊飼いとして働いている。
「おーい!コルト〜!」
「ああ、シエルか。おはよう」
10匹の羊を連れて山歩いているとやってきたのは幼馴染であるシエル・アーデルハイト。
「はい、今日のお昼」
「ありがと、今日のパンは?」
「今日はね、出来立てのパンで作ったバタートースト!
シエルの家は代々、自作農パン工房をしている。村1番のおいしいパンで有名だ。
「お母さんが作ってくれたんだよ!」
「へえ、ミラおばさんが。味は期待できそうだね」
「どうゆう意味よ」
「シエルは料理下手だからね」
「なんだと〜!!」
「羊たち、逃げるぞ!」
皮肉が癇に障ったようでシエルは僕を追いかけ回した。
追いかけるシエルに逃げ回る僕、それについてくる羊たち。
「はぁ、はぁ……。もう走れないや」
「はぁ、はぁ……。あんたが、あんなこと言うからでしょ!」
二人とも肩で息をしながら野原に寝そべる。
「お昼、食べよっか」
「うん、お腹すいた」
シエルが包みを開けると茶色い長方形が現れる。
「うまそぉ!」
「はい、どーぞ」
シエルは僕に二枚のトーストを渡す。
「じゃあ、頂きます」
もぐもぐとパンを咀嚼する。バターが効いている。
「さすがミラおばさん。カリッとしててバターの染み具合も絶妙だ!」
「でしょ!ママのパンは世界で一番美味しいの!」
ふふん、と胸を張り自慢気に言った。
「無い胸張ってどうするのさ」
「こんの!」
「あ、二枚目いただきまーす!」
10歳にも満たないのだから胸がないのは仕方ないが僕は呼吸をするように皮肉を言ってしまう特異能力者なのだ!知らないけどね……。
シエルの拳骨を喰らう前に二枚目のパンを口に放り込んだ。
「モグモグ……、んん、バターの風味と塩味がなんとも言えないコントラストを奏でて……。って塩!?しょっぱっ!」
「汗かいて塩分足りないかと思って……。美味しくないかな?」
「まあ不味くはないかな〜」
さすがに美味しいとは言えない出来映えだったので僕は濁すように答えた。
「よかったぁ〜。私、もっと料理上手くなれるよう頑張るね!」
シエルは少し暴力的で凶暴だが根は優しく誰にでも好かれる女の子だ。
正直、僕みたいな捻くれ羊飼いと仲良くするのは相応しくない。
「じゃ、羊たちも寝てきたことだし少し昼寝でもしよっか」
「うん!」
僕達は羊たちが眠りについたところを見計らって昼寝をした。
目を瞑るとすぐにシエルの寝息が聞こえてくる。
暖かい太陽と心地よいそよ風、隣には可愛い幼馴染。
これが僕の日常で僕らの日常。小さな村で1日仕事をしてみんなそれぞれの1日を終える。
平和な1日、この代わり映えのない生活が一生続くとそう思っていた。
→→→
「そろそろ下山しよっか」
「そうだね、日も暮れてきたし」
青かった空は日が暮れ橙色に染まっている。
「平和だね」
「うん、“魔獣”も出ないし“魔人”もいない。いいところに住んだよね、私たちのご先祖様はさ」
魔獣とは体内に“魔石”と呼ばれる核を持つ獣で僕達人類にとっては一部の例外を除いて害獣のように扱われている。
まあ普通の猪や熊なんかとは比較にならないほどに強いから魔力を操る“魔導師”や剣術を扱える“剣士”でしか討伐できないってゆうんだから本当に怖い。
魔人も魔獣と同じように心臓が魔石で出来ている。まあ共存できている種もいてそれらを“亜人”と呼ぶ。
といってもそれはほんの一部だけだし友好関係を結びたくても迫害されている亜人もいるらしい。
「シエルはさ、18歳になったら村を出るの?」
「え?んん……」
この世界では18歳になれば成人として認められ教会で“職業”を得ることが可能だ。
ちなみに僕の羊飼いは正式な職業ではない。
僕はシエルに質問すると低い声で唸る。
「私はこの村で結婚して生活して平和に暮らせればいいかなぁ」
「そっか、僕と一緒だね」
村を出て旅をしてみたい、という想いはある。けど村を出るには山を越えなければいけないしとにかく遠い。それに死なない、と言う保証があるわけではない。
なら強くなれば?と言われるかもしれないがそれは無理だ。
僕は自分で言うのもなんだが力も弱いし足も遅い。痛いのも嫌だしそれに才能もない。
まあ頭はこの村でこの年代でなら1番賢いかもだけど。
「あ、村が見えてきたよ」
「え、ちょっと待って……」
下山を始め数分が立ちようやく村が見え始めシエルが指さす。
いつもなら「おかえり!」と村の人たちが手を振りながら帰りを迎えてくれるのだが今日は違った。
「村が燃えてる……!?」
そう、家は燃え家畜は殺されている。辺りには赤い液体、血のようなものが付着していた。
「早く行こう!」
「うん!」
シエルを連れ僕達は村に向かって走り出した。
「シエル!コルト!」
「ママ!」
「こっちに来なさい!」
シエルの母、ミラおばさんが急かすように僕らを呼ぶ。いつもは優しく朗らかな笑顔見せる人なのだが、やはり只事ではないらしい。家の中へ迎えられミラおばさんは話し始めた。
「いいかい?今、この村には魔人が攻めてきてるの」
「え、魔人が!?」
「大声出さないで、気づかれるかもしれないから……」
人差し指を唇に当て静かにするようミラおばさんは伝えてくる。
「どうして魔人が?」
「わからないわ、けど姿を見せたら連れ去られるし反抗しても腕を千切られるか足を千切られるか、どちらにしても捕まるわ。
だから、あなた達は隙を見て村を出なさい」
ミラおばさんの瞳からは強い意志を感じた。
「待ってよ、それじゃミラおばさんや村の人、僕の父さんと母さんも置いてけって言うの?」
「…………コルト。あと一つ、伝えてなかったことがある」
溜め込んでいた秘密を吐き出すようにしてミラおばさんは言った。
「あなたの両親はすでに連れ去られてるわ、村の人たちも殆どね。だからこの村には私達3人と3体の魔人しか居ないの」
————なんで!?と叫びそうになったところを僕は飲み込んだ。
「良い?魔人は五感が鋭い、匂いや音に過剰に反応するわ。だから私が引きつける。その間に逃げて」
ミラおばさんはリュックに干しパンや水筒を入れ僕達に一つずつ渡す。
「ママ………。私、嫌だよ!ママと離れたくない!」
「シエル……。私はね、コルトや村の人、シエルのことも大好きなの。けど村の人たちはもう助からない。でもあなた達はまだ助かるの……。だから、逃げて」
シエルが叫ぶとミラおばさんはぎゅっと優しく抱きしめた。
「…………うん、」
「良い子ね……」
ミラおばさんはシエルの頭を撫で額にキスをする。この村では安全のおまじないのようなものだ。
「コルト、この子は少しワガママだけどしっかり守ってあげて」
「はい………」
「泣かないのね、偉いわ。あなたも辛いのに」
「男ですから……」
シエルと同じようにミラおばさんは僕の額にキスする。
「じゃあ、気をつけて」
壁に掛けてある鉈を持ってミラおばさんは走り出した。
「こら!魔人ども!私は逃げも隠れもしない!かかってきな!」
「キシャシャ!オイ、マダ生キ残リガイタゾ!」
「捕マエルゾ!」
カーテンを少し開け窓から魔人の姿を見る。
「あれは、“ガーゴイル”……」
以前に図鑑で読んだ魔人に酷似していたことから僕は推測した。
ガーゴイルは黒い翼と黒い角、そして鋭い牙、右手には赤く血で染まった剣を持っている。
ガーゴイルは厳密には魔人ではなく魔人の“使い魔”、魔獣のようなものだがどちらにせよ僕たちのような村人では歯が立たない。
「シエル、早く逃げよう」
「でも……!」
腕を引っ張り逃げようとするもシエルは踏みとどまった。
パチンッ!!と僕はシエルの頬を叩いた。
「なにすんの——」
「ミラおばさんは僕たちを助けるために出て行ったんだ。僕だってミラおばさんのことは気になる。けど僕の父さんと母さんも連れ去られてるんだ。
頼むよ、ミラおばさんとの約束なんだ。君を守るって約束したんだよ……」
シエルは潤んだ目を擦った。
「わかった……」
「裏口へ」
僕らは黒地のフードを深く被り家を出たが……
「キシャシャ!コレデ全員カ?」
「クンクン、大人ノ匂イハモウシナイ」
二匹のガーゴイルは既にミラおばさんを気絶させていた。
「イヤ、待テ。子供ノ匂イガスルゾ。主ハ捕マエルノハ大人ダケト言ッテイタ」
「ッテコトハ……」
「我ラノ馳走ダ!」
ガーゴイルは牙から涎を垂らし僕らを追ってくる。
「シエル!走って!コレでも喰らえ!」
シエルの背を押し僕は拳ぐらいの大きさの石をガーゴイルへ向けて投げた。
「キシャシャ!痛クモ痒クモナイ!」
「ヤハリ子供!我ハ右ノ男ヲ!」
「俺ハ左ノ女ダ!」
石はガーゴイルの剣によって無残にも散ってしまった。2体のガーゴイルは品定めをするかのように舌なめずりをして僕たちを見据える。
「頂キマースッ!!」
「ごめん、ミラおばさん!」
迫る二匹のガーゴイルに僕は恐怖ゆえにギュッと目を瞑ってしまう。
ここで死んでしまう、僕は一つの約束も守れず、最愛の幼馴染も守れずに。
ドサッ—————
大きな石のようなものが二つ、地面に落ちたような音がした。
「やはり使い魔に性格を与えるのは失敗だったな」
目を開けるとそこには白銀の髪に深紅の瞳、漆黒のローブを纏った男が宙にいた。
「魔人……族!?」
「子供か……。まあ良い、“魔王様”への奴隷の数は充分揃った。見逃してやろう」
魔王?奴隷?まさか村のみんなを奴隷にする気か……!?
「この……!」
「おっと、やめておけ。無駄な血は見たくない。しかし、立ち向かうと言うなら子供とて手加減はせんぞ」
ギロリ、と獲物を捕食するような瞳で睨まれる。僕は膝を震わせ投げようとした石を手から離した。
「よし、利口な判断だ。土産に私の名を教えてやろう。“魔王軍”《四天魔皇》が1人、《震滅》のエルデビュートだ。ではな……」
そう言って魔人は僕らの前から姿を消したのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
対して走ってもいないし動いてもいない、けど僕の心臓は人生で1番拍動しただろう。
「コルト……、大丈夫?」
「うん、大丈夫……だよ」
心配そうな目でシエルは僕を見る。怖かった、逃げたかった、死ぬかと思った。そう吐き出しそうになったところで踏みとどまる。
僕も怖いけどシエルだって怖がっているんだ。この気持ちは言っちゃダメだ。
「あの魔人が言ってた。魔王への奴隷にするって」
「奴隷って、まさかママたちを?」
「うん……。だからすぐに殺されることはないと思う。絶対的な保証はないけど」
「なら、私たちがママたちを助けに行こう。今はまだ無理だけど強くなって職業を貰って魔王を倒すの!」
自信満々にシエルは言った。正直、無鉄砲にも程がある。僕ら村人は代々遺伝子レベルで才能がない。
それはなぜか、職業は基本的に先祖の遺伝子とこれまで生きてきた経歴で決まるからだ。
「“職業遺伝の法則”……知ってるよね?」
「……ええ、剣士の子が剣士に適した職業を持つように村人の子は村人に適した職業を持つこと、よね」
僕らの村には小さな図書館がある。そこでさっきのガーゴイルや魔人たちのことを学んだり職業のこと、この世界のことを学んだりする。
僕が外の世界へ出ることを諦めている理由の一つがこれだ。
「けどまだわからないじゃない。18歳まであと8年、死ぬ気で剣や魔法の修行をすればもしかしたら……」
「無理だよ。職業に反映される年齢割合では10歳までが1番高い。今から8年間毎日やっても間に合わないよ……」
「……コルトがやらないなら、私一人でやるわ!」
シエルはそう言って図書館へと足を運んだ。
本棚から“剣術指南書”、“魔術指南書”や“武術指南書”など様々な職業の本を手に取り鞄へと詰め込む。
「無理だってば!シエルだってわかってるんだろ!?」
本を詰め込む腕を掴み止める。しかしシエルは僕の腕を振りほどいて言った。
「じゃあ、私は何をしたら良いの!
パパやママが連れ去られて村の友達や先生や大人たち、コルトのパパとママもみんな居なくなっちゃったんだよ?
なのに私たちは何もしないでみんながいつ帰ってくるかわからない、苦しい思いをしてるかも知れない、殺されるかも知れない、それなのに指を咥えながら待ってて良いの!?
ねぇ、コルト……。私は嫌。どんな小さな可能性でも1%でも可能性があるならやるわ」
涙をポロポロと垂らしながらも凛としたその表情は僕なんかとは比べ物にならないぐらいかっこよく、大人びていて、それこそ勇者のようだった。
「わかった、なら僕も付き合う。シエルだけじゃどこかでのたれ死んじゃうかも知れないしね」
「コルト…………」
シエルの想いに根負けし僕も考えを変えた。
「よし、じゃあまずは“王都”へ向かおう。あそこなら“王立図書館”もあるし“道場”や“魔術学校”もあるだろうしそれにお金も稼がないと」
「うん、そうね……。じゃあ向かいましょう。“王都ガレリア”へ!」
僕が提案するとシエルは涙を服の裾で拭いながら言った。
「まずは準備だ。山を越えなきゃいけないから保存食や飲み物。あとは衛生面も考えて着替えの用意。魔物の出現するかもだから護身用に鍛冶屋のラルドさんの家から武器を借りていこう」
「さすがコルトね。頭も冴えてて冷静。私なんかとは大違い」
「そんなことない、シエルみたいな考えは僕にはできないよ。さ、時間が惜しい。魔物が出づらい日が昇る前に出発したい。早く準備して今日は寝よう」
「わかった!」
僕たちは旅立つ準備を終えそして寝床に就いた。