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むつのはな  作者: あみか
第三章
81/102

目的

「私達を統率している者は清陳と名乗る者でございます。戸籍上は林非と記載されておりますが、本来の姓は朱だと言い伝えられております」

「朱姓……」

 芥はそれだけで何かを理解したようだが、陸奥には何が何だかさっぱり分からなかった。こういう異文化の話は頭が痛くなってくる。後で芥に聞けばいいかと、陸奥は考えるのをやめた。

 最早秘密が秘密でなくなったためか、双子の片方はもう語りを止める事はしなかった。二人とももう泣いてはいない。

「私達は開闢の頃より陰に生き、誰に気付かれる事なく淡々と使命を遂行する事に意義を見出してきたのですが、時代の変遷とともにそれに不満を持つ者も出て来るようになりました。誰にも気が付かれず大任を果たす事に我慢ならなくなり、認めて欲しいと思うようになったのです」

 気持ちは分からなくもない。成果には対価が必要で、それは金銭であったり、賛美であったりする。

「そこに立ち上がったのが清陳でございます。それまでは一族の中でもぱっとしない男だったのですが、忍んで生きて行く事に不服があった若者を取り込んでいきました。……恥ずかしながら、私達もそうでございます。他の者もそうだとは思うのですが、ちょっとだけ世間から認められたい、一目置かれたい、というただそれだけの願望程度だったのです。我々は開闢の頃より特命を帯びて来た、その事を使えばもしかしたら大夫……あわよくば爵夫が頂けるのではないかと夢を見ました」

 芥の腰に揺れる玉。それには人に道を外させる程の魅力がある。金銭と権力、賛美、尊敬――玉は万人が望む全てを示す。

「若気の至りと思われましょう。何の努力もせず地位を手に入れようとするとは、浅はかだったと今になって思います」

「自分の間違いに気付き、正そうとするにはもう手遅れなのかもしれません」

 一旦気持ちを吐露してからは止められなくなっていた。彼女達が深く後悔しているという事だけは強く伝わって来る。

「清陳はウト州を沈め、イーリアス神が封じた大妖怪を復活させ、この国を乗っ取るつもりなのです」

「私達はそこまで大それた事など望んでなかった……なのに……」

 また気持ちが溢れて来たのが、再び涙が零れた。

「大妖怪の復活に必要な呪具こそ、その勾玉なのです」

「私達は清陳の蛮行を止めたいと思い、恐れ多くも男夫より勾玉を奪い、破壊を試みたのでございます」

 項垂れた頭を更に深く下げ謝罪の意を示す。芥は陸奥の方に顔を向けて一つ頷いた。陸奥は意図を察して剣を鞘に収めた。

「お前たちの言っている事はよく分かった。それが真実なのであれば罰するつもりはない。だが、沈めるとは何だ」

「狐族を従える男夫におかれましては妖怪をご存知とは思いますが、雨降りの一族をご存知でしょうか」

 従えている訳ではないが、一々訂正はしなかった。烈も蛍も特にこの場で否定するような事はしない。もしかしたらここにいるのが煉だったら突っかかっていたかもしれないな、と陸奥は思う。

「まあ、それとなく」

「雨降りの者はその名の通り雨を呼びます。ですがこの族は数が少なくウト州にはおりません。ですから、清陳は他の土地より攫って来たのでございます。沈めるとは言葉通り、雨によってウトを水の底に沈めるという意味です」

「雨量が増えれば州候は治水工事をするし、なんらかの対策は取るだろう? だからここ数年雨量が増えても未だにウトは沈んでいないのではないか?」

 二人は揃って首を振った。

「清陳は数ヶ月以内にウトの殆どを沈めるつもりです。一部地域は実験のため既に水の被害にあっておりますが、次は全土を一気に飲み込む算段のようです。それと……清陳が手を回したのだと思うのですが、治水工事が遅々として進んでいないのです」

「……そんな事が出来る程の力があるのか、その男には」

「無位の彼に本来そんな力があるはずがないのですが……」

 その点については全く不明であると双子は答えた。芥が珍しく顔を歪める。

「誰か手引きしてる奴がいる――」



「――いるでしょうね」

 大宗伯が去った後も六長官は席を立たなかった。

「女中や警備が気付かないなんて不思議な事が起こるはずがない。冢宰の言う通り、誰か揉み消してる者がいるのだろう。厄介だな」

「王に立って欲しくない者など、数えたらきりがないな」

「一番怪しいのはあの若造だがな」

 若造とは大宗伯の事を言っているのだろうが、世間的に言えば全く若くはない。あくまで七首の中ではの話である。

「真昼王が座に着けば朝廷は荒れると思っていたが、まさか着く前に大嵐が来るとは」

「殿下が見付からなければ式典は延期にするか?」

「その後死亡が確認されたらどうするのですか」

「いっそ病に伏せさせたらいいのではないか? 病死が通じるかもしれん」

「恐れ多くも大司寇の前でよくそんな事が言えますな」

 円卓に笑いが起こる。大司寇は刑部の長、刑部は裁判を司る部署である。

「――兎に角、あの若造から報告が来るのを待つしかないな。それが死亡報告でないのを祈るだけだ」

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