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むつのはな  作者: あみか
第三章
75/102

行先

 司馬が一旦休憩しませんかと提案し、皆それに同意した。重い話もあり、一回頭を休ませないと話を続けられそうにもない。

 陸奥は一階にある簡易的な食事場に水を飲みに行く事にした。宿に着いた時にはあんなに疲れていたのに、今は全く寝られそうにない。重い足取りで階下へと向かう。

 水差しから湯呑に水を汲んで一息ついていると、遅れて司馬が降りて来た。陸奥を見止めると破顔して近付いて来る。陸奥はもう一杯湯呑に水を汲んでそれを司馬へと渡した。司馬は礼を言ってそれを受け取る。

「話が難しくって、途中から? 最初から? さっぱりですよ」

 陸奥と司馬は並んで長椅子へと腰かける。

「それよりも、陸奥さんは何処で剣術をお習いに?」

「王宮の人にさん付けやら敬語やら使われると滅入ります。……我流ですよ、我流」

「はー。それであんなに強かったら、天賦の才ってやつかな。羨ましい……」

 世辞だろうが、本当に羨ましそうに言うので陸奥は思わず笑ってしまう。

「芥は……いつもあんな感じなんですか?」

 司馬は声を上げて笑った。

「本当、いつもああだから青鞣様も心労が絶えなくて。でも、悪い人じゃないから」

 そう言って遠くを見るような司馬の目は、とても温かかった。

「芥が一番若そうに見えるのですけど、司馬様も青鞣様も芥よりも位が低いのですか?」

 ずっと不思議だった。どう考えても青鞣が一番上で、司馬、芥が下に見えるのに、王宮の仕組みが分からない。芥が出世が速いようにはどうやっても思えない。

「あー……そう、そう。そろそろ戻ろうかな」

 これ以上聞かないでくれという空気を撒き散らし、慌てて司馬は階段を昇って行った。芥も青鞣もいかにも食えない感じだと言うのに、司馬だけは真逆で陸奥の方が心配になる。

 陸奥も司馬を追うようにして芥達の部屋へ戻った。


「何処まで話が進んだんだったかな」

 乾いて固くなった筆を硯に寝かしながら芥が進行を再開した。

「えーと、ああ。何故その謎の人間達は勾玉を欲しているのかだな。場合によってはそれを阻止する必要があるかもしれない」

 陸奥もそれを考えなかった訳ではない。あの下劣な男が欲する物など碌でもない事のためとしか思えなかった。だが、人質を取られている以上従うしかない。

「……呪具と言ってた。その札以上に強力な物だと。あいつは、欠けた勾玉のもう一方を持ってる。煉は、他に何か聞いてる?」

 力なく首を横に振った煉に、陸奥はただ頷いた。

「呪具、ねえ……。その紙よりも強力なのだとしたら、君達全滅しちゃうんじゃないの?」

 素朴な疑問ながら、それは皆が一番最初に思う事であった。

「その勾玉入手は、煙羅から言い渡されて逆らえないって事? だとしたら少し説得してその任を解いて貰う他ないのかな」

 陸奥と煉は暫し見詰め合って、やがて煉は何かを決意したようだった。

「煙羅様はあまり強くそれを言っていない。これは俺と陸奥の意志だ」

 約束の期日まで残り一ヶ月しかない。芥達を欺いて勾玉を入手するよりも、洗いざらい話して協力して貰うのが最善だと、煉はそう考えたようだ。

「人質を取られている。勾玉を完成する事で良くない事があったとしても、俺には勾玉を差し出すしか道がない……」

「随分あくどい奴だな。誘拐だけじゃ飽き足らず、人質作戦かあ」

 間の抜けたような芥の話し方で、いまいち緊張感が出ない。

「じゃあまあ正面突破は難しいだろうな。よしんばその人質を奪還出来たとして、今度は誘拐した方を盾にされたら元も子もないし。――何にせよ情報が欲しいな。誘拐犯じゃなかったとしたらもう少し話が簡単になるし」

 真昼の拉致、妖怪達の誘拐、勾玉の価値。何一つ仮説の域を出ないまま話は進んで行く。この仮説に狂いがあるとしたなら、話は全く別のものになってしまう。

 そんな恐ろしさを皆充分に承知しながら、それでも芥の話を否定できる程の根拠を持ち合わせない。

 芥は筆を手に取り、地図を一撫でする。

「煉、君んち……と言うかその謎の人間とやらの根城は何処だい?」

 煉は地図の東方を指差し、街の名前を告げた。

「イモン、ねえ。東のようだけど街の状況はどうなの?」

「ぎりぎりと言った感じだな。土嚢が山と積まれてるけど、果たして何処までもつか……」

海湖かいこが近いな。最悪水害に巻き込まれる可能性もある訳か」

 イモンの街に印を付けながら、芥は独り言のように呟く。

 蛍がふいに烈の袖を引っ張った。烈はしゃがみ込んでどうした、と優しく尋ねる。蛍は烈の耳元に顔を近付けそっと耳打ちすると、烈が笑った。

「そうだな。お前は山育ちだから知らないのか。……ま、俺も見たことはないがな」

 折角耳打ちしたというのに烈の方が小声で返事をしなかったので、蛍は二回程烈の肩をぽかぽかと叩く。

「海湖は、まあ湖だよ。水が集まる場所だ。山から水が落ち、それがやがて小川となりそれが合流して大きな流れを作っていく。そしてその川が最後に辿り着くのが海湖だ。最南のミマ州だけは、海とか言う大きな水辺に流れ行くらしいが……。各州にはいくつか海湖があって、そこに辿り着いた水は地下深くへと流れて行き、そして龍の住む国を潤すと言われているな」

「龍……!」

 蛍が目を輝かせてしまったので、烈は苦笑しながら立ち上がる。

「それを確かめた者はいないけど」

 はたから見ても蛍があからさまにがっかりしたので烈は慌てて頭を撫でたが、蛍は気落ちしたままだった。


「じゃあ、さっきの弓使いの現在位置だな。道」

 蛍のおかげで場が和んだところで、再び芥が話を進める。

 名前を呼ばれ、陸奥の肩の上で話を聞いていた道はぴっと背筋を伸ばした。

「あいつの位置、分かるか」

 道はぴょんと卓上に飛び降りると、音も立てずに着地する。地図の上をぐるぐると回って、やがて一つの場所で立ち止まる。

「……ここ?」

 怪訝そうに聞く陸奥に、道はゆっくりと頷いた。

「おかしいな……」

 芥が発した言葉は、陸奥だけではなく皆感じた事だった。

 イモンにアジトを構えているというその一味の一人が勾玉を奪って行った。つまり、普通に考えればその足で真っ先にイモンへと向かって然るべきだ。弓使いがいるとすれば、今いる街からより東側、こことイモンの間と考えるのが妥当なのだが、道が示したのは異なる方向だった。

「南……」

 ここから少し離れた場所を示した道をどかしてから筆を入れる。それはこの街からそれ程離れてはいない。

「あの弓使いは、清陳の仲間じゃなかったって事……?」

「いや……可能性としては、なくもないが……」

 あんな術を使う者が、他にもいるのだろうか。それはそれで厄介な話である。

 青鞣に筆と硯を片付けるように指示した芥は、寝台に腰を下ろす。

「どうせ勾玉を奪い返す時に接触するんだから、その時に本人に聞けばいいだろう」

「そんな簡単に口を割るだろうか……」

「運が良ければ吐くだろう」

「そんな呑気な……」

 芥は足を組んで、自嘲するように笑った。

「呑気も何も、こちらには駒も鍵もないんだから、こんな状況をひっくり返すには博打しかないだろう。それとも、何か画期的な逆転方法があるのであれば教えてくれ」

 しん、と空気が重くなった。話が進んで事態の見通しが立ってきたためなんとなく好転しているような気になっていたが、窮地な事に変わりはない。

「一体、いくつ賭けに勝つ必要があるんだか」

 その独り言のような芥の言葉は、空気を更に重くする事にしかならなかった。

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