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むつのはな  作者: あみか
第三章
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疑惑

「勾玉は王宮の物、サラスヴァ様の物だとの記事があった。なのにどうして芥がそれを持っているの? そもそも勾玉って何?」

 強く芥を見詰めるが、ただふわりと笑みを返された。

 そうだな、と言って少し考え込む。

「どこから話すか……」

 どこから、と芥は呟いたが、司馬と青鞣はそれが正確にはどこまで、である事を知っている。

「勾玉は、記事にあったように王宮と言うよりもサラスヴァ様の物だ。あの方がそれをどうやって、そして何処から入手したのか経緯は一切明かされていない。最初から欠けていたのかどうか、それすらも不明だ。そしてサラスヴァ様が崩御された後第一王子へと受け継がれた」

 第一王子と聞いて、陸奥の心臓が一つ大きく跳ねた。

 捕らえられた真昼を見たのが、遠い昔の様に感じられる。

「もう薄々感じているだろうが、僕達三人は元々の知り合いであり、そして所属は全員王宮になる」

 嘘ではないが、絶妙な言い回しをするものだと青鞣は小さく息を吐く。昔から悪知恵だけはよく回る人だった。嘘が嫌いな所だけは褒められる点なのだが。

「……これは他言無用で願いたいが、第一王子は現在行方不明になっている。まあそれは第三王子もそうなのだがそんな事はどうだっていい。問題は彼女が何者かに攫われた可能性があるという事と、そしてそれは王子本人ではなく勾玉の方が狙いであった可能性がある」

 陸奥の背中をひやりとした感触が這った。

 何故――何故自分は無条件で狐を信用してしまっているのだろうか。

 急に足場を失ったかのような不安感と焦燥が、じわじわと陸奥の心を支配する。


 陸奥はゆっくり烈へと視線を移す。

 芥の言うことが本当であれば、事実勾玉を欲しているのは狐である。

 陸奥は勾玉を持っているのが芥であると、そう狐に伝えてしまった。聞く限り、勾玉がどういう物であれ禍の元になりそうな性質の類であるのは明白である。一国の王になろうとしている者よりも重要な物。そんな物の在り方を、それを欲する者に告げてしまったのか。

 ひょっとすると妖怪の里に招いたのも、神隠しどうこうよりもそちらの方が目的だったのかもしれない。

 もし狐がそれによって、人間に害をなそうと考えていたとしたなら。いや、それ以上の何かを企んでいるのなら。

 烈達が芥といつの間にか合流していたのも、隙を見て勾玉を手中に収める腹だったのだろうか。彼ら自身は真昼の投獄を知っているのだろうか。

 狐に対して何の警戒心も猜疑心も持たなかった事に、今更ながら恐ろしくなる。

 真昼の事を芥に教えるべきだろうか。そしてはたと、あの時の彼女の台詞を思い出す。

 ――私がここにいたことは、誰にも言わないでください。

 誰にも、とは何処までの事を言うのだろうか。王宮の使いで捜索に当たっている者も含まれるのならば、芥達にも言うべきではない。

 陸奥が考え込む間にも、彼らの会話は続いている。

「要するに僕らの目的は、勾玉を欲しがってる誰かさんの解明と第一王子の奪還だ。あとは、神隠しの件」

 芥は蛍の方を見てウインクを飛ばす。蛍はそれを見てただ目をパチクリさせた。

「第一王子の方はもう即位まで数ヶ月とない。隠し通すのも限界だ。こちらとしては陸奥の方から近付いて来てくれて有難かったよ」

「……勾玉を手に入れようとする人が複数いた場合は?」

 陸奥は耐え切れずに質問した。

「それは虱潰しに当たるしかない。時間もないが手掛かりもないんだ。掛かった獲物から捌いて行くしか方法はない」

 陸奥はうまく言葉を繋げなかった。そう、とだけ返答して目を伏せた。

 一体誰を信用すればいいのだろうか。もうそれが陸奥には分からなくなった。陸奥の中にある正義感がこのままでは良くないと警鐘を鳴らすが、この中の誰の正義がこの世の道理にそぐうのだろう。

 この協力体制はきっと長くはもたない。瓦解するとすればそれは烈達からであろうと、陸奥はそっと目を閉じた。


「ところでさっきの宿屋の主人の話、覚えてるかい?」

 にやりと笑った芥は、蛍にそう問いかけた。

 急に話の矛先が向いて、蛍はしどろもどろで答える。

「え、えっと……三部屋しか空いてない?」

「残念!」

 陸奥の心中とは裏腹に、芥の声はいつだって明るい。

「正解は東からの客が多い」

「……それが?」

 半ば呆れたように芥を見る烈だったが、芥は全く意に介していない。

「こんな面白そうな情報、聞き漏らしては勿体ないと思うんだけどな。ともあれ、気になった僕は食事をしながらその東からの客人に理由を聞いた。だっておかしいだろう。首都州に行くならまだしも、行ける道もなくなったって言うのに東からの客が増えているだなんて」

 言われてみればそうだ。全員が漸く芥の顔を見る。

 待ってましたとばかりに芥は熱弁を振るった。

「ここで質問。ウトの異名は何だ」

「荒原の都……」

「そう。ウト州は首都州含め全七州のうち、気候上一番住みにく土地だ。水捌けも良くなく、雨も少ない。そもそも土地自体に水を溜め込む性質がないから、寒暖差も大きくなるし、放牧にも向かない。それでいつの頃からか荒原の都なんて呼ばれるようになった」

「流石に王宮の人は色々と詳しいんだね」

「いいや、執務をさぼって地図旅行をするのが趣味なんだ」

「ああ、そう……」

 芥の上司か部下か分からないが、苦労するだろうなというのがその場にいる全員の一致した意見であった。

 その苦労している部下である青鞣は、部屋の隅で硯に墨を磨っており、些かむっとしたような表情で筆を芥へと渡した。

「今僕達がいる場所はここ」

 広げた地図を抑えながら、首都州境にほど近い、やや北側に位置するこの街にあたる場所に芥は一つ印をつけた。

「ウト州のほぼ西端だ。これより東、州都。更に州都よりも東の先。行けば行くほどに土地が荒れているそうだ。その原因は、ここ数年雨量が多く、堤の決壊、山崩れ、農業地帯の崩壊、伝染病……兎に角水による害で人々が西へ西へと追いやられているという話だった」

 芥が顔を上げ、烈、砂、蛍を見る。

「ヒッサはかつて水の都と称される程に水に溢れていた。それは君達の仲間である雨降りと呼ばれる一族によって齎された恩恵だ。そしてそんな彼らは攫われた。ヒッサは涸れ、それと同時に雨量の少ない土地であるウトが水害に悩まされる様になった」

 蛍は口元を抑え、一歩下がって腰が抜けたかのようにぺたりとその場に座り込んだ。

「これはもう、答えだろう」

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