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むつのはな  作者: あみか
第三章
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捜索

 順調に思えた芥探しだったが、実際は全く思う通りに運ばなかった。道が芥を認識していた時間は一日もなく、そして離れてからかなり時間が経ってしまっていた事、そして清陳によって一時瀕死状態になってしまった事などが原因と考えられるが、道は芥の場所をぼんやりと掴める時と、全く分からなくなってしまう時があった。

 道はとても申し訳なさそうにぺこぺこと頭を下げるが、道に過剰な期待をかけてしまったと陸奥は後悔した。道のおかげで、この広い国の中で大体この辺りだろうと目星を付けられたのだから、それだけでもう十分だ。すっかり気に病んで落ち込む道を励ましつつ、陸奥らは徒歩で芥を探す事にした。

 煉は芥の顔を知らないので(向こうは知っているが)、陸奥は単独で、煉は道を連れて目ぼしい辺りを捜索した。それはウト州にほど近い地域であったため、もしかしたら芥はウトへ行きたいのかもしれない。そうとなれば比較的すぐに見付かるであろうと踏んだ。

 それでも、芥を見付けたのは清陳との約束であった三ヶ月を半分も過ぎていた時だった。一週間、二週間、そして一ヶ月と時間だけが無情に過ぎていく中で、焦燥感だけが募っていったが、漸くその姿を視界に捉えた。幸運な事に見つけたのは煉と道で、そして芥も煉も外套のフードを纏う中、顔が分からなくても判別可能な道のおかげだった。相手は煉に気が付いていない。煉はこっそりと芥を見張り、道は別の街を捜索中の陸奥のところへと急いだ。これで芥が移動しても、煉を追いかければ陸奥とも合流する事が出来る。


「煉」

 誰もいないはずの路地裏で、煉は後ろから声をかけられ文字通り飛び跳ねた。それは正しく言い換えれば、後ろ斜め上からの声だった。慌てて煉は振り返って見上げるが、逆光でよく見えない。否、それは影などではなく黒い物体だった。

 滑らかに地面に飛び降りると、煉の足元へテトテトと近寄って来る。知らぬ者が見れば、それはただの猫だ。

クロじゃないすか。吃驚したっつの」

「相変わらず年上への言葉遣いがなってないね」

 胸を撫でおろした煉は、芥を見失っていないか急いで路地から顔を出す。

「そんなに慌てなくとも大丈夫だよ。ずっと見張ってきたから」

「ずっと?」

 そもそも黒は何故こんなところにいるのだろうか。

「ユリハラで糊と遠を撃退したのはあいつらさ」

「!」

 当初二人がユリハラでやられたと報告を受けたときには耳を疑った。糊も遠もかなりの手練れで、油断する様な性格でもなかったからだ。煉と太知がカグリで相対した魔法使いも火が殆ど効かなかったが、それでもあの二人が倒されるという事はにわかには信じられなかった。

「あの三人組で一番でかいやつ。あいつが異常なのかあのデカイ剣が異常なのかは分からないが、あの本気の糊を砕いちまったよ」

「そんな莫迦な……」

「だから後をずっと追いかけて来たんだが……まだよく分からん」

「……そうすか」

「で、煉の坊主は何でここに?」

 黒はいつも煉の事を子ども扱いするのだが、正直いい気はしない。不機嫌になったところでやめてはくれないので、ここ数年は突っかかるのをやめた。

「黒に連絡は行ってないから知らないかもしれないし、噂で聞いてるかもしんねえすけど、あの真ん中の奴が勾玉を持っているらしいんで……」

「ほお」

 黒は塀、そして屋根へと飛び乗った。人を追跡するのであれば上から覗くのが一番良い。黒が歩き始めたので煉も追いかける。

「ウトへ連れてくのであれば、私ももう追いかけっこはしなくて済む訳だ。まあ精々頑張りな、坊主」

 そう言うと黒は屋根と塀を器用に渡り歩いて向こうへと行ってしまった。おかげで危うく芥を見失うところだったのだが、文句を言う相手は疾うに姿が見えなくなっていた。



 陸奥と合流出来たのはそれから一週間程経ってからだった。その間に芥達は街を一つ移動した。彼らは馬で移動しているので、乗馬するのを見た時に煉はかなり焦ったのだが、有難い事に全速力で走らず、そして陸奥がいる方向にある街へと移動したので助かった。

 合流した後、煉は運び屋と連絡を取るために何処かへと消えた。陸奥は、芥以外の二人が誰なのか全く分からず、そして煉の話によるとかなり手強い魔法使いなのではないかとの事だったため、まずは芥への接触の前に情報収集から始める事にした。


「おじさん、糖芋の十日花蜜漬けと、爾見ニミ茶ちょーだい」

 芥達が去った後の飲食店に入り、陸奥は甘味を注文する。この国ではどこにでもある一般的な甘味だったが、陸奥の故郷にはなく割と気に入ってよく好んで食べている。お世辞にもきれいとは言えない店内に、ごちゃごちゃとした小物が所狭しと置かれた棚。壁にも日に焼けて黄色に変色したメニューやら謎の格言やらが沢山飾られており、正直なんの店なのかよく分からない有様だ。椅子も卓も石で出来ており、薄い布一枚が申し訳程度に敷かれた椅子に座ると、少しひんやりとした。

 昼時も過ぎ、客は今陸奥(と道)しかいない。

「ねえ、さっきの三人組やたらとおじさんとかお客さんに色々聞いて回ってたけど、なんだったの?」

「見てたのかい? なんかよく分からないけど、ウトに渡りたいんだとさ。今じゃ橋も落ちて迂回路もないもんだから、空でも飛ぶしかないなって話になったよ」

 そう冗談を言っておじさんは笑った。

「空を、ねえ……。本当に迂回路はないの? どうしても行きたい場合は?」

「そうさねえ、俺にはちょっと見当付かないねえ。お客さんも皆そうだったよ。はいお待ち」

「ありがとうおじさん」

 やはり芥はウトへと行きたがっているのだ。神隠しに関する何かがウトにあると掴んだのか、それとも別の理由かは分からないが、こちらとしては渡りに船である。清陳との期限までもう一月しか残されていない。境から徒歩であれば一ヶ月近くかかると煉は言った。運び屋を使えば一瞬だが、もしそれに失敗しても徒歩でもギリギリどうにかなる距離だ。

 久々の甘味を堪能しつつ、勘定をしてその店を後にした。問題はどうやって接触し、どうやってイモンまで芥を連れて行くかだ。強盗の振りをするにも、あの両隣の長身の二人が邪魔だ。だが、ウトに渡る術は今の所例の運び屋しかないのも事実だ。もしかしたら教会は何か方法を知っているのかもしれないが、芥は教会に顔が利きそうな様子だったので、恐らくもう確認済みであろう。


 夜に宿で煉を待っていたが、陸奥は気になって芥のいる宿の外まで様子を見に行った。それは陸奥が寝泊まりしている粗末で簡易的な宿と違って、豪華でいかにもお金持ちが止まる様な絢爛な宿であった。それは彼本人のお金なのか、それとも誰かから奪ったお金なのかは分からない。造りがしっかりしていて、中の様子など伺えそうにない。あまり見ていると怪しまれるので、陸奥はその場を後にした。


「二日後に近くの森に運び屋が来てくれる」

「分かった。……どうにかして一緒には乗れない……よね?」

 戻って来た煉と陸奥、道は部屋で作戦を練る事にしたのだが、どう考えても敵側として認知されている煉は芥と同乗するのは難しかった。煉なしで、あれに乗って空を飛ぶなど陸奥には不可能にしか思えなかった。着陸するときのあの投げ出されそうな恐怖と浮遊感は思い出しただけで吐き気がする。

「獣型になれば乗れるっちゃ乗れるけど?」

「そういう事じゃない……」

 陸奥は備え付けの小さな丸い卓に突っ伏した。肚をくくるしかないのだと頭では分かっているのだが、どうしても他の方法を考えたい。だが結局どうやってもそれは無駄な抵抗であった。



「困りましたね。どれだけ聞き込んでも向こうに渡る方法は出てきませんね」

「蛇の道は蛇って言うのに、青鞣が夜の街での聞き込みを嫌がるからなあ」

「あんな危ないところに潜入されるなどもってのほかです。人の口に戸は建てられないものですから、そんな身を危険に晒されなくとも見付かるとは思いますがね」

「……急がないとヒッサが枯れるぞ」

「手は打ってありますよ。だから聞き込みは昼間だけにしておいて下さいませ」

 にっこりと笑って返す青鞣に、夜半もにこりとする。

「これだから仕事だけ出来る奴は恐ろしい」

 だけ、をやたらと強調するが、青鞣には何も響かない。

「お褒めに預かり光栄ですよ。この手腕一つで御身のお側にお仕えできるのですからね」

「じゃあ俺が行ってきましょうか?」

「司馬……そういう事ではないのですよ……」

 相変わらず何処か抜けたような司馬に青鞣は眉間を摘まんだ。

 だが、このままだと永久にウト州へと渡る方法が見付からない可能性があるのも事実だ。恐らく教会は何らかの方法を知っているのかもしれないが、今教会へ足を運ぶのは危険過ぎる。

 大通りから一本逸れた場所にある商店の前で、夜半は足を止めた。

「殿下……?」

 急に夜半が動かなくなったので、両脇を歩いていた司馬と青鞣は振り返る。夜半が見詰める先、丁度買い物を済ませ釣銭を受け取った女が、笑顔で店主に礼を言ってこちらを向いた。あちらはこっちに気が付いていない。

 夜半は徐にフードを外して女に近寄った。顔を晒すのが今の夜半にとってどれだけ危険な行為か。青鞣と司馬は驚いて夜半を隠すように並ぶ。

「陸奥」

 夜半にそう呼び止められた女は、夜半を見咎めて目を見開いた。その名前を聞いて、司馬と青鞣も内心驚いた。それは例の首都州から夜半を護衛していた用心棒の名前だった。

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