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むつのはな  作者: あみか
第三章
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出立

「道!」

 再会した道は心なしか一回り小さくなっているようにも見えたが、それでも元気そうにぴょこぴょこと跳ねた。陸奥が掬い上げると、道は両手を広げたので陸奥は自分の顔に道を近付けた。その小さい小さい体を目一杯伸ばすと、一生懸命に陸奥に頬擦りをした。陸奥も指の腹で道の頭を撫でる。

「お帰り。私のせいで怖い目に合わせてごめんね」

 勿論道は返事などしなかったが、更にぐりぐりと頬を擦り付けて来た。


「さて、と」

 陸奥と煉が旅立つ前に色々と話し合っておかなければいけない事がある。

 皆が卓に集まるが、梁の首には呪具と思わしき枷が付けられていた。陸奥は思わず目を逸らす。

 こんな事態になってもここの主はあれ以来姿を見せてはいない。慣れているのか誰も主の話題を口にはしなかった。

「陸奥には悪いが、あと三日はここから出られない」

 思いがけない煉からの言葉に陸奥は驚いた。

「何で?」

「州境にある崖の橋は今はないから、首都州側に行く事が出来ない。そもそも州境まで行くのに徒歩なら一ヶ月くらいかかると思う」

「そんなに……」

 絶句するしかない。期限が三ヶ月しかないのに、まず首都州に行くまでに一ヶ月もかかるなんて、しかもそもそも橋がないから行く事が出来ないのであればどうしたらよいのか。

「あれ? じゃあどうやってここまで来たの?」

「運び屋がいる。定期的に外に散った奴らの情報やこっちからの伝令を伝える奴だ。次に来る予定は三日後になる」

「運び屋……?」

「まあ見たら分かる。とりあえずその運び屋が来る間に旅の準備と、あとはもう少し大きい街でまた昨日と同じ事をして欲しい」

 昨日、つまり妖怪達によって人間を怖がらせる事。陸奥も知らなかったのだが、一度力を与えてもそれは永続的な効果がある訳ではないらしい。真の姿になるなど力を消費すれば、たちまち元の状態に戻ってしまうようだ。

「何か必要なものがあれば俺の方で準備しておく。馬で二日くらいの所に街があるから、数人連れてまたやっておいて欲しい」

「分かった」

 そう言ってコクリと頷いた。

 芥が何処にいて、何処へ向かっているかは分からないが、どうにかして勾玉を手に入れなければならない。

 陸奥は気が重くなる。芥に出会えるかどうかと言えば、道次第で可能性はあるだろう。会えたら、彼から勾玉を借りる、または奪う。

――どうやって?

 結果陸奥も、煉がそうしたように芥ごと攫うのが手っ取り早いという考えに至ってしまった。

 彼は今も一人で旅をしているのだろうか。それとも……。


 なんだかんだとしているうちに、もう出立しなければならない時刻となってしまった。

 煉と街に行く事を許された妖怪だけは出る事が出来るが、他の妖怪達は清陳によってこの建屋から出る事が出来ない。

 皆建物の入口付近まで見送りに来てくれた。中にはきっとまだ陸奥を快く思わない者もいるだろう。

 それでもなんとか救ってやりたいと思ってしまったのだ。一度思ってしまえば、そうではないと思うのは難しい。

「陸奥!」

「梁」

 一歩前に出た彼女に、陸奥も歩み寄る。

「……巻き込んでごめんね」

「いいよ。そもそも別の人によって巻き込まれてたようなものだし」

 首を振りながら、芥の顔がついよぎる。

「あたし、陸奥と色々話してみたい事がいっぱいあるの。だから、ちゃんと生きて帰って来て欲しい」

 陸奥が帰って来ないという事はつまり梁も無事ではすまないという意味になる。

「任せてよ」

 本当は自信なんてない。でも今はそう言うしかない。人間の平和も、妖怪の未来も、これからの働きで大きく変わってしまうのかもしれない。

 そんな大それた事とは陸奥も思っていないし、ただ目の前に救いを求める者がいるのであれば、出来る事をしてやりたいというただそれだけだ。そんな誰しもが抱く当たり前の感情しかない。

「またね」

 陸奥は笑顔で梁の肩をぱしんと軽く叩いて、煉が用意した馬に跨った。

「三日後に迎えに行く」

「分かった」

 煉にそう返事をして、陸奥と数名の妖怪はこの妖怪が捕らわれた街――イモンを後にした。

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