はったり
妖怪たちに力を与えて、人を襲うのを看過する。または、何処にいるのか分からない芥を探し出して勾玉を奪う。そのどちらかに協力しなければならない。
前者は無理だ。当然そんな事出来はしない。むしろ可能であれば阻止したいくらいだ。かと言って後者も無理だ。何の手掛かりもなく、この広い国でどうやって人一人を探し出せばいい。どこの者かも、芥という本当かどうか分からない名前で、しかも今は国の何処かを彷徨っている人物など、奇跡でもない限り見付けようがない。
考えれば考えるほど、どちらも不可能に思える。
「今すぐ、答えを出さないと駄目?」
何処からか舌打ちが聞こえた。
「我々には時間がない。今すぐ決めて頂きたい」
主の重低音が広間に響く。
どうするべきか。他にやりようはないか。全員から注がれる感情のない視線が痛い。
唇を噛み締めながら、陸奥は苦渋の選択をした。
「勾玉は、無理」
勾玉探しに出掛けてしまえば道奪還は難しくなるが、まだここに滞在するのであれば道の側にいられると思った。隙あらば清陳から道を取り返しここから逃げ出す。今はそれしかない。
それでも、火の手が上るカグリを思い出すと胸が痛い。自分があれに協力するという事は、もっと悲惨な事になるのは確実だ。襲撃で人々が傷付く事も、家が焼かれて寝る場所にも困る様な事態になる事も起こってしまう。いや、起こしてしまう。他人を悲しませる手伝いをするなど、到底許される訳がない。陸奥は拳を痛い程握りしめた。
「妖怪の方を協力する」
「じゃあ、まずは紹介からだな」
あの後主と清陳は何処かへと出掛けて行った。陸奥から力を得るためには名と本質の理解が必要というハッタリを間に受けて、煉の仕切りでここにいる妖怪たちの自己紹介から始める事になった。
「どうして? どうしてあんな人に協力してるの?」
陸奥は聞くかどうか少し躊躇った。自らの意思で同盟を結んでいるはずなのに、どこかお互いが遠いように見えた。清陳は妖怪を軽んじているようにしか見えなかった。煉は先程あんな目に合わされて何も思わないのだろうか。
煉を始め、その場にいる妖怪たちは誰も口を開かなかった。どう見ても、あの男を支持しているようには見えない。この沈黙がそれを物語っている。
「……仕方ねえだろ。それが主様の意向だから」
「もっと他にやり方があったんじゃないの?」
「やり方ってなんだよ」
「手頃な街を襲って、それを妖怪のせいだって思わせるのって、ちょっと乱暴すぎない? 皆殺しにしちゃったら意味ないし、かといって騒ぎだけ起こしてもあいつら何者だって分かんないまま皆逃げ出しちゃうだろうし、歩留悪い気がするけど」
「それは……」
「うるさい!!」
部屋にバンと大きな音が響いた。驚いて卓を叩いたのは、先程煉を介抱した梁であった。
「あんたは黙って私たちに協力してればいいのよ!」
「考えるのをやめちゃ駄目だよ」
「私たちだって、散々考えて来たわよ! 急にやって来て好き勝手言わないでくれる!?」
「梁の言う通りだ。俺らは主様の命を遂行するだけだ。余計な事すんなよ」
空気が一層重くなった。部外者が知ったような口を聞くなといったところだろうか。明らかに陸奥に対して拒絶する態度を全員が取っている。ぴりついた空気の中に感じ取れる彼らの焦燥感。これを打破しようとする者はこの場にいなかった。
やがて陸奥がぽつりと呟いた。
「……でも、今ここに残ってるのって、大凡戦いに向いてない人たちなんじゃないの?」
見渡せば、その言葉に煉も梁も、その他の妖怪たちも俯いて唇を噛み締めている。そう、この場にいるのは煉を除けば人間に恐怖を刻み込める力とは無縁の者達だった。
カグリを襲撃したのも煉と太知だった。炎と、風の刃を自在に操る二人。なるべく人間側に衝撃を与えるためには、戦闘に向いている者を派遣するのは当然だ。現在も各地に派遣が続いているのであれば、この場にいるのは自ずと非戦闘員になる。
ここであのハッタリが活きてくる。
「さっきも言ったけど、私は会った事もないような人の力を引き出す事は出来ない。つまり今ここにいる人たちだけ。派遣されてる人たちを呼び戻すのにもそれなりに時間がかかる訳だから、他の方法を探すべきだと思う」
皆の視線は下に落ちたままだ。先程までは取り付く島もなかったが、今は陸奥の言った事を考える事が出来始めている。聞く耳を持たない者にはどれだけ正論や最善策を提示しても響かないが、これで漸く対等に話し合いが出来る状態に立てた。言いくるめるのであれば、今しかない。
「じゃ、じゃあ、どんな方法があるんですか?」
おずおずと、可愛らしい少年が小さく手を挙げながら質問して来た。陸奥はにっこりと笑顔で返す。
「それじゃあ、中断してた紹介から始めよう。皆さんの妖怪としての本質を把握してから、それを効果的に使う手段を考えます」
――もし。もしもこの方法がうまくいけば、人間を傷付ける事なく、妖怪を救う事が出来る。
陸奥はそう確信していた。




