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むつのはな  作者: あみか
第二章
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鬼ごっこ

 まさかこんなに早く当たりをつけられるとは思わなかった。こんなに容易く家の中まで入って来るとは、考えが甘かった。相手は妖怪、人知を超えた存在なのだ。ここを見付けるのも、そう時間はかからないだろう。

 寝具がしまってある収納部屋の中で、陸奥は息を押し殺す。

 どうしたら、逃げ切れるだろうか。逃げ切るのは無理だろうか。そう言えば、烈と砂は、どうなったのだろう。

 真っ暗な空間で、陸奥は考えるが、相手の動きが全く予想できない。この場所がばれているとして、着火されればそれまでだ。文字通りここから炙り出される。もう少し風通しのよい、相手の動きが見えるようなところに隠れて、近寄ってきたら場所を変えた方がよいのか。そんなことが自分に出来るとは思えない。遠距離で炎出せる相手に、距離を取る事に意味を感じられない。

 そう言えばさっき烈に背中を焼かれていたが、もしかしたら全力で走れば逃げ切れるかもしれない。

 そう思った後、陸奥は首を振った。そんな幸運な事が起こるはずがない。煉も烈や蛍同様に狐の妖怪なのだから、恐らく火耐性があるのではないだろうか。そうでなければ自分の炎が熱くて堪らないだろう。


 そんな事を考えているうちに、戸の向こう側で音がして、陸奥の心臓がばくんと跳ね上がる。耳をそばだてれば、足音がする。

 この足音は一体誰のものだろう。煉か、それとも烈や砂か。

 陸奥の隠れている場所の目の前で、その者が立ち止まったことが気配で分かる。

 お願いだから、気付かずに何処かへ行って欲しい。

 陸奥は誰ともなく祈りを捧げる。この国ではイーリアス神に祈れば少しくらい願いを聞き届けてくれるだろうか。残念ながら陸奥は信仰した事がないので、そもそも開闢の話すら詳細を知らない。

 この場をどうにかしてくだされば、聖書を買って読みますから、イーリアス様。

 芥を初めこの国の人たちが聞いたら怒り出しそうだが、今はそれどころではない。救ってくれれば誰でもいい。

「大人しく出て来いよ!」

 最悪な事に、その声の主は一番来て欲しくない、煉のものであった。意味はないと思うが、一応陸奥は居留守を決め込む。

「おい! ここにいるのは分かってんだぞ!」

 絶対に応えてはいけない。物音も呼吸音も出来るだけさせないようにひたすらに気配を消す。

「無視すんじゃねえ!」

 苛立った煉が思い切り戸を横に開けると同時に、陸奥は寝具を思い切り蹴りだし、煉の鼻を押しつぶして飛び出した。足の裏から、煉が声にならない声を上げているのが伝わって来る。


 この収納部屋は、中で二段に仕切られており、陸奥は上の段に潜んでいたので、煉よりも高い位置に陣取っていたことになる。

 火をつけられれば打つ手なしだったが、有難いことに馬鹿正直に戸を開けてくれたので、陸奥は遠慮なく顔面に蹴りをいれたのだった。膝蹴りの方が効果はあったかもしれないが、寝具を蹴りだすのでは勢いがあまり得られないと思い、とりあえず顔を踏み台にここから一目散に退散することにした。何処に隠れても見付かってしまうのであれば、どうにか烈たちか主と合流するのが無難だろう。全速力で陸奥は走り出した。


 虚を突かれた煉は、その場に一旦倒れる。まさか、反撃してこようとは。鼻を一拭きすると、手の甲にはべっとりと鮮血が伸びていた。それを見た煉は、頭に血が上る。

「てめー! 人が下手に出てれば調子に乗りやがって!!」

 立ち上がって陸奥を追いかける。狐の姿の方が足は速いが、火を使えないし戸も開けられないので人型のまま駆け出す。何処へ逃げても、絶対に見付け出す。


 陸奥は無我夢中で外へと飛び出した。何処にいるかわからない主よりも、烈たちと合流するべきであろう。もし主がまだ蛍を看病しているのであれば、むしろ合流しない方がよい。もし万一烈と砂が太知にやられてしまったのであれば、それはもう投降するしかないだろう。


 全速力で膨らみながら角を曲がり、ついでに後ろを確認する。煉の姿は見えない。この距離であれば、ぎりぎり烈たちと合流出来るかもしれないが、足に自信のない陸奥からすれば、難しいかもしれないという思いもあった。どう転ぶか分からないが、それでも今は走り続けるしかない。

 隣接する家の瓦が粉々に砕けて、木の葉やら枝が散らばっている辻を曲がった瞬間に陸奥は何かにぶつかって尻もちをついてしまった。

 ここでの時間消費はかなり痛い。陸奥は慌ててぶつかったものを見上げ、そして絶句した。


「よお。鬼ごっこは終了だな」

 それは、後ろにいるとばかり思っていた煉であった。

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