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むつのはな  作者: あみか
第二章
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かくれんぼ

 爆風が陸奥の体を襲う。熱くも冷たくもない風が吹き荒れ、目を開けていられない。立っているのもやっとで、足元がふらつく。ただ嵐が過ぎ去るのを耐えるしかない。息が、うまく出来ない。


 どれくらい強く目を瞑っていただろう。そよ風が足元を撫ぜる。ゆっくりと目を開けた陸奥は、ひとまず周りを見渡した。まだ煉には見付かっていないようだが、それも時間の問題だ。遠くではまだ風の吹き荒れる音がしたが、兎に角陸奥は何処かに隠れられる場所がないかを探す。

 だが、姿を隠せそうな場所が見当たらない。木の陰や家の床下えんのしたに潜ったとしても、すぐに見付かってしまうのではないかという思いがどうしても捨てられない。

 幼い頃にやっていたかくれんぼという遊戯で、自分が得意だったのか不得意だったのか、全く記憶にない。もう誰の家だったのかもうろ覚えだが、庭から家の中から、よくもあんなに隠れるところを見付けられたものだ。

 そして、はた、と思い出す。陸奥の今住んでいるような都会ではありえないが、こんな集落全てが顔見知りのような場所であれば、恐らく――。


 陸奥は横にあった家の扉という扉に片っ端から手をかける。そしてそのうちの一つが、するりと横に動いた。

 やっぱり。

 ここの人たちには、それほど施錠する習慣が身についていないのだ。陸奥はしめたとばかりに家に侵入しようとし、いつものくせで一歩土足で入ってしまってから、慌てて靴を脱いだ。

「お邪魔します……」

 小声で家に一声かけて、隠れられそうな場所を探し出した。


 煉は椿を探して、じりじりとした背中の痛みに耐えながら、手当たり次第にうろうろとしていた。最早敗戦は濃厚だ。本当はこんなはずではなかった。思い描いていた脚本シナリオとは、もう随分とかけ離れてしまった。途中までは確かに優勢だったはずなのに。ユリハラにて糊と遠がやられたという話を聞いたあたりから、少しずつ歯車がうまく噛み合わなくなってきたように感じる。

 主様が何を考えているのかは正直なところ煉にはよく分からない。よろしくない連中ともつるんでいるといったような話も聞く。

 それでも、主様がどんな方法であれ、自分たちの未来のために何かをしてくれることが重要なのだ。自分は、それに応えなければならない。ならないはずだった。

「くそっ」

 あの人間の女、どうなっているのか。人間界には、あんなのがうじゃうじゃといるのだろうか。聞いていた話と違う。このままでは、まずい。


 「――」

 微かに、女の声が遠くから聞こえる。驚いてきょろきょろと見渡す。一体何が起こったのだろうか。そして視線がやや上を向いた時、空中の二人が目に入る。

 二人があそこにいて、そして女の声は別の所から聞こえてきた。あの女は、二人から離れて単独行動をしているのか。

 そうだとすれば、今しかない。

 椿がやられたとして、仮に太知がやられたとして、それでも勾玉さえ手中に収められれば最終的には自分たちの勝利である。

 僅かに聞こえた陸奥の声の方向へ、勘を頼りに煉は走り出す。これで失敗すれば、里の皆の迷惑になる。今、今しかないのだ。煉は走りながら一度跳躍し、くるりと前に一回転すると、獣の姿へとその容姿を変え、強風の中一目散に駆けて行った。


 獣の姿の方が鼻が利く。その嗅覚は犬に近く、人には嗅ぎ分けることが出来ない僅かな匂いでも、感じ取ることができる。本物の狐ほどではないが、今はこれに頼るしか方法がない。先程の強風でにおいが入り混じっていてよく分からない。陸奥の匂いもそれ程覚えていない。それでも、人間の匂いがあるとすれば、陸奥以外にあり得ない。

 そして、それはすぐに見付かった。匂いは薄いが、恐らくここの家の近くにさっきまであの女がいた。何処に……。早くしなければ、逆にこちら側が狩られる可能性が高くなる。椿を倒したという蛍とかいう小娘、そしてこの里の主。もし太知が――考えたくはないが――やられたとすれば、烈と砂がやってくるだろう。

 早く見付けなければ、自分たちの里が死に絶えてしまう。

 煉は人型へと戻ると、手をかざす。一瞬火花が散って、戸が爆発したように燃え上がる。戸はあっという間に真黒く焦げた木材となり、煉が一発蹴りを入れると、ぐしゃと崩れ落ちた。

 昼間だが閉め切られた家の中は暗く、煉が壊した部分から陽が差し込む。

 煉は、焦げた匂いのする空気を吸い込んだ。

「いるんだろ! とっとと出て来いよ!!」


 その声はしっかりと、小さくなって隠れている陸奥の耳まで届いた。

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