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むつのはな  作者: あみか
第二章
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爆風

「最初から真名解放して、八つ裂きにすればよかった。なまじ妖怪だからって情けをかけたのが間違いだった」

 太知は纏う風でその髪――今は毛と言った方が正しい――がなびき続けている。そしてその刃にも風を纏っているのか、舞い上がった木の葉や小さな石が、刃の傍に来ると一瞬で粉々に砕けている。火と異なり、風は目に見えないのが恐ろしい。

 太知が地面を蹴ると同時に烈の目の前に飛び込んできた。

 烈が速いと思った瞬間にはもう、その風を纏った刃が下から上へと払われる所で、何も判断する時間などなかった。烈は視界がぐるんと回転したかのような錯覚を覚え、地面に足をついている感覚さえ一瞬で失った。

 それもそのはず、烈の身体は空中にあったのだ。

「砂! 起きてたのか!?」

「煩い……」

 辛うじて砂が烈ごと空中に回避したのだった。太知が振り下ろす攻撃ではなく、振り上げる方向に攻撃してきたことが幸いした。

 だが、真名解放した太知にとって、空中の敵に風刃を当てることなと造作もないことだった。再度刃を上に振り払うと、烈の左肩から血が噴き出した。

 自由落下をする二人だったが、ぎりぎりで砂が軌道をずらしたため、致命傷には至らなかったが、浅くない傷だった。

「砂、俺の事盾にしてないよな!?」

「……」

「おい!」

 太知は、ち、外したかというような表情で、第二波の構えに入る。恐らく次は多少軌道をずらしたところで関係ないほどの大攻撃を仕掛けて来るだろう。


「砂!!」

 突然叫ぶ声が耳に入る。空から見下ろす家々の隙間に、その大声の主、陸奥の姿はあった。空に舞った事で、陸奥の視界に二人が入り、そして烈が攻撃を喰らっている事で戦況が変わった事が伝わったようだ。

 だがこれは諸刃の剣だ。これで恐らく煉に陸奥が一人だという事がばれてしまう。仮にこれで太知をやったとして、果たして陸奥の救出に間に合うか。

 だが、既にそんな事まで気を回せる余裕などない。

 砂が訝しみながら、陸奥を見詰め、そうして陸奥も見詰め返す。

 陸奥は両手を顔の前で合わせ、固く握り、目を閉じて強く願う。

 太知が刃に思い切り風を込める。

 烈は思い出す。先程感じた、あの感覚。「あれ」が今から砂にも起こる。真名解放にも近い、それでいて全く違う高揚感と万能感。雷に打たれたような、それでも命を削るような燃え方とは違う、たぎる様な衝動。あれが、来る。

 一瞬が永い。焦りと、高揚感で汗が滲む。

 掴まれている烈は、後ろに抱き着いている砂の肌が粟立っている事に気が付く。同時に太知が刃を思い切り振り上げる。

 間に合うか。間に合ってくれ!

 陸奥が何かを叫んでいるが、風の音で聞こえない。

「砂ぉ!」

 耐え切れずに烈が叫ぶ。嵐のような風が、空気を切り裂きながら近付いてくるのが分かる。一瞬が永遠のように永く感じられる。

 烈の耳元に、気怠そうな声が届く。

「……ほんと、煩い」

 錫杖のシャリという音がして、烈と砂は後ろに思い切り吹き飛んだ。二人だけではない。太知も後ろに吹き飛び、家の屋根の部品(瓦と言うらしい)が舞い上がって、地面に落ちたり壁に叩き付けられたりしてガシャンガシャンと音を立てて割れている。大分離れていた陸奥にも爆風が届き、思わず両手で顔を庇う。木々からは葉がごっそりと持っていかれ、旋風が地面から天空へと様々な物を巻き上げる。

 太知の風と、砂の風が思い切り正面からぶつかり合ったらしい。その衝撃が里を巻き込んでいく。


 最初に体勢を立て直したのは砂で、ゆっくりと地に降り立って烈を下ろす。吹っ飛んだ太知の体は向こうに転がっているが、足元に落ちている太知の剣を拾う。その瞬間に剣は小さな飾りへと戻っていった。

 太知が力尽きたのだ。

 無理もない。故郷から離れれば離れるほど弱まる力を、ここまで使えば当然の結果だ。むしろ自分たちの地でここまで押し込まれた事があり得ない。


 先にへばって座り込んでいた烈の隣に、砂も片膝から崩れる。自分でも限界を超えているのが分かる。

 疲労感は凄まじいが、気持ちはどこかすっきりとしている。幼馴染を奪われてから、ずっと己の非力さを恨んできたが、漸く自分たちの手で一つ守れたような気がする。

「ぼろっぼろだな」

「お互い様だろ……」

 二人は力なく笑って、烈は握った拳を差し出した。砂はいつも通り面倒臭そうに渋りながら、自分の拳を烈のそれに、コツンとぶつけた。

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