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むつのはな  作者: あみか
第二章
45/102

ユリハラにて〈裏〉

 空が白んできた。ユリハラの長い長い夜が終わりを告げようとしている。

 事件のあった広場は今はとても静かで、悲惨な出来事があったとは思えないほどだった。動く人影は何処にもなく、揺蕩う土煙に、めちゃくちゃに破壊されつくした地面、建屋はごっそり崩れており、これを目の当たりにした人々が立ち尽くすのは詮無い事であった。


 恐る恐る戻ってきた人々が、漸く惨劇が終わったことを悟った後、兎にも角にも人命救助へと向かった。どういう訳だか、傷ついた人々は丁寧に広場の脇に並べられており、手当は一気に行われた。激しい衝撃を受けたのであろうその身体を見、医療従事者たちも眉間に皺を寄せたが、一通り応急処置が行われた後、とある事実がその場にいる全員を驚かせた。

 重体、重症多数――死者零。

 未だ予断を許さない者も中にはいたが、それでも広場の惨状を見れば、これが奇跡としか言いようのない出来事だと気付く。

 イーリアス像のある広場だったため、神のご加護があったのだと、民衆で囁かれ始めたのだった。


 大怪我をした司馬と、気疲れで死んだように眠る青鞣、同じく夜半が休む宿の近く、炊き出しの準備で大わらわな通りに紛れる一人の妖怪に、誰も気が付かない。

(真名解放してもやられちゃうとかある? 報告するのやだなあ)

 その姿は一人と形容するにはやや無理があった。その目線は人々の足元、人間ではおよそ入ることのできない建物と建物の間の隙間にするりと入り込んでいく。

 みゃあ、と一声発しややすると、わらわらと同じような姿をした者たちが集まってくる。ただし彼らは妖怪ではなく、普通の猫だ。

 糊と遠がやられた事、何処かへと去った事、何処かの妖怪が邪魔立てしてきた事、魔法使いの人間が真名解放した糊を倒したこと――昨晩起こった事を集まってきた彼らに伝え、解散する。

 猫の噂は速い。すぐにこの事は里に伝わるだろう。そして、糊と遠が何処に行ったかもすぐに分かる。彼らが処分されるのか、どうなるのか、それは主様が決める事だ。自分はただあった事実を報告するのが任務。

 そして、彼(彼女?)は、あの魔法使い一行を監視する事に決めた。

 真名解放は妖怪にとって最終手段で、それがただの魔法使いにやられたとあれば由々しき事態だ。直接対峙したことはなくとも、通常の状態でも魔法使いと張り合えると疑っていなかった妖怪側にとって、これは戦略の練り直しを考えざるを得ない重要な情報である。糊と遠がどうなろうと知った事ではないが、この情報を得られたことだけは有難い。

 それともあの大柄な人間が特別なのか、見定める必要がある。


 器用に壁や塀を跳躍し、宿の屋根の上で丸くなり、日向ぼっこの振りをして、三人組が出るのを待つ事にした。

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