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むつのはな  作者: あみか
第二章
28/102

人型

 見てはいけなかった。聞いてはいけなかった。

 陸奥は足早に来た道を戻る。燭台の火が、消えそうに揺れる。


 第一王子、真昼様。そうすぐ、戴冠式だか即位式だかが行われるはずだ。サラスヴァ様を継ぐ者。ようやくその空白の治世が終わる。

 なのに、何故。行方不明なのは第三王子なのではなかったのか。

 本当に、あの男に会ってからは信じられないことばかりが続いている。


「しまった……」

 考え事をしながら歩いてきた陸奥は、恐れていた通り迷子になった。少し道を戻るが、見覚えのない道だ。どこで間違えてしまったのだろう。

 このまま誰にも見つからないよりは、妖怪に見付かって説教を喰らう方がましだ。陸奥は途方に暮れる。今、時間はどれくらいだろう。地下なので全く分からない。芥が通ってはくれないだろうか。何にしろそれっぽい言い訳を考えねば。


 ふと、何かに裾を引っ張られた。陸奥は足元を見る。暗くてよく見えない。しゃがんで、燭台を床に置いた。

 手のひらほどの、白っぽい何かがそこにはいた。子供が描いたような、簡易的に人を表す記号のような、人型。頭はただの丸。肘も膝も指もない、ただの長方形で表されたような手足。厚みもそれほどなく、顔もない。この里の妖怪ひとだろうか。こんなに早く見付かってしまうとは。

「ごめんなさい、物色してたわけではなくて……ん?」

 その子は陸奥の裾をくいと引っ張る。陸奥を見上げ、片手で道の奥を示す。陸奥はその子と指す道を交互に見る。

「もしかして、案内してくれるの?」

 こくこくと頷くような仕草を見せる。

「ありがとう」

 陸奥は片手でその子をすくい上げ、指し示す方へ歩き出した。分かれ道が来る度に、その子が道を指してくれるので、言われるがままにその方向へと進む。途中からは来た道に戻ったので自分でも行く方向は分かったが、念のため道案内は継続した。やがて、最初の階段まで辿り着いた。

「ここまで来たらもう大丈夫。本当に助かったよ。ありがとうね」

 顔の前で両手を、いえいえ、とでも言うように横に振る。言葉はないが、仕草が本当に愛くるしい。

 陸奥は床に降りられるように、乗せていた手のひらを床につける。だが、その子は降りようとしなかった。

「どうしたの? 降りないの?」

 何かを言いたげに、陸奥の方に体を向ける。顔がないので分からないが、恐らく目が合っている……ような気がした。

「一階に上がりたいの?」

 ふるふると首を横に振る。

「……私と一緒にいたいの?」

 まさかとは思いつつ、そう言うと勢いよく首を縦に振った。

 どうしよう。懐かれている?

 少し迷ったが、折角道案内もして貰ったので、暫し一緒にいることにする。

「よろしくね。私は陸奥だよ」

 コクンと頷いたその子に、口がないので名前を聞くことは出来なかった。


 手の上に置いておくのもあれなので、右の襟と左の襟が交差する、鎖骨のあたりにその子を入れることにした。厚みもなければ重さもないので、陸奥としては丁度良かった。

「しんどかったら知らせてね」

 陸奥はそう言って最初に来た階段を上る。木でできたその階段は急で、手を使わないと登るのが怖いほどだった。片手に燭台を持っているので、もう片方の手で手すりを掴んで登っていく。足元ばかり見ていたが、ふと顔をあげると、探していた人物とかち合った。


「芥!」

 一体何処に行っていたというのか。当の芥の方はにやにやしている。

「なんだ、陸奥も探検したかったんなら最初からそう言ってよ」

「違う!」

 小声で叫びながら否定する。勘違いも甚だしい。

「ほら、部屋に戻るよ」

「いやいや、まだ全部見てないし」

「いいから」

「怒ってる?」

「怒ってません!」

「怒ってるじゃん……」

 陸奥はぶつぶつ言う芥の背中を押して部屋へと戻す。外はまだ暗い。が、朝まで寝ずに芥を見張っておかなければ。と言うより、恐らく今日はもう眠れないだろう。先程牢で出会った人物のことが頭から離れない。穏やかで、朗らかな方だった。何故、妖怪の里の牢屋の中に閉じ込められているのだろうか。


 言わないで、とあの人は言った。本当にそれで、よいのだろうか。

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