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むつのはな  作者: あみか
第二章
25/102

 芥は「降参」というよう手を上げた。

「参った参った。恐れ入ったよ。僕が悪かった」

 ばつが悪そうに後頭部を掻いた。

「というかね、既にあなた方が常ならざる者なのは疑ってなかったんだ。魔法では説明できないものを、まざまざと見せ付けられることが既にあったからね」

 はぁ、とひとつため息をつく。カグリでの謎の襲撃。烈が使役する炎。これまでの旅路で目の当たりにした光景が目に浮かぶ。


 燭台の灯りが揺れる度、壁に移る影も揺れる。今はここにいる者の影しか映し出してはいなかった。

「だけども。人間と一括りにされても困るんだよね。そっちがそうするなら、こちらとてそうするよ」

 芥は相変わらず笑顔を崩さなかったが、目は笑ってはいなかった。

「先日カグリという街が妖怪と思われる奴らに襲撃され、人にも街にも甚大な被害が出た。今はまだ公にはなっていないかもしれないが、カグリは大きな街だ。目撃者は大勢いたし、人の口に戸は立てられないからね」

「待て。その襲撃というのはいつの話じゃ」

「六日程前だよ」

「……それは本当に妖怪だったのか?」

「あなたのような髪色をして、火の玉を操る魔法使いがいるのだとしたら、今すぐにでも紹介して欲しいよ」

 主は眉間に皺を寄せ、険しい表情のまま考え込んだ。

「その火の玉を使う者の他にもおったか」

「変な鎌みたいに曲がってる剣を使う子がいたけど、特に不思議な力は見てないよ」

「そうか……」

 主は先程、燭台に火を灯した時と同じように、手を軽く前に出し、掌を広げその上に火を浮かべた。

 ややあって、パタパタという足音と、廊下が鳴く音が近づいてきた。


「主様、お呼びでしょうか?」

 戸の奥から声が入ってきた。この声は、蛍のものだ。

「すまぬが客室を用意してくれるか。それと寝食の用意もじゃ」

「えっ。えっ。は、はい畏まりました」

 来た時と同じように、パタパタと足音を立てて去っていった。声だけで蛍が大慌てしているのが分かるのが、なんともかわいらしい。

「すまぬがこの話の続きは明日にしてほしい。少し確認したいことができた。この里からは出られぬように細工をしておるから、抜け出そうなどと考えぬことじゃ。みなには手荒なことはせぬように言い含めてはあるが、風当たりがきついことは許してやってくれ」

「手荒な真似がないだけで十分だよ。あと荒くなくても、影だけで現れたりするのもできれば勘弁してくれると有難いかな」

 先ほどの影だけの女の姿には、流石に竦むものがあったようだ。主は声を出して笑う。

「了解した。ではまた明日声をかける。何もない所だが、寛いでくれ」

 主は立ち上がり、衣装の裾を持ちくるりと反転し、消えた。広い部屋にぽつんと残された二人は、何が起こったのか全く理解できなかった。


「さて、陸奥」

「ん?」

 芥は目を輝かせながらこちらを向いた。

「探検しよう」

「えっ」

「折角普段立ち入ることのできない挟間の国に来たのだから、探検しないなんてありえないだろう?」

 せっかくの間にだいぶ溜めがあった。今すぐにでも行きたいのかうずうずしている。

「だ、だめ!」

「何で?」

「人の家を探検するなんて非常識だよ! 芥だって自分の家探検されたら嫌でしょう?」

 非常識と言いながら、この人に常識が通じるかどうかは甚だ疑問だ。

「別に僕は家探検されてもなにも思わないけど」

「兎に角、だめなものはだめ。さっき来た蛍って子が色々準備してくれてるだろうし、大人しくここで待つこと!」

「えー」

 王宮に侵入して、あまつさえ物品をくすねて来るような泥棒を、うろつかせるわけにはいかない。

 ふてくされる芥を宥めつつ、陸奥は目を離さないようにせねば、と意気込んだ。


 ところが夜中陸奥が目を覚ますと、芥は忽然と消えていた。陸奥は思わず布団に突っ伏した。


――泣きたい。

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