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むつのはな  作者: あみか
第二章
21/102

迎え

 こんな不自然に霧が湧いてくることがあるだろうか、否。

あくた、引っ付いてて」

「抱きついていいってこと?」

「ふざけてないで」

「はーい」

 陸奥むつは小刀を取り出し握る。全く視界が利かない。悟るには、足音か、気配か。陸奥は神経を研ぎ澄ます。自分の心臓の音も、呼吸の音も、邪魔でしかない。しかも後ろには芥がいる。後ろから来られては対処のしようがない。万事休すか。

 緊張感が走る。前か、後ろか、それとも上? はたまた、本当にただの霧なのだろうか。


「陸奥、前から誰か来る」

「え?」

 すっかり忘れていたが、彼は魔法使いだった。その特徴の一つは、勘が良いこと。


――しゃん。


 遠くから、鈴の音が聞こえた。


――しゃん。


 今度ははっきりと。

 霧がゆっくりと晴れていく。陸奥は刀を強く握る。


――しゃん。


 陸奥は気付く。先程までいた山の中とは、景色が変わっていることに。

 そして前から現れたのは、白地に、黒と濃い赤で顔が描かれた狐面を付けた子供。年のころは十くらいだろうか。ゆっくりとこちらに近づいてくる。足元は草履で、ゆったりとしたその服装は山登りをするようなものではない。一体どこから現れたのか。


「お、お迎えにあがりました」

 その声は女の子のもの。緊張で震えている。緊張しているのはこちらだ。

「迎えって、どこに? 誰が招いてるの? 用事は何?」

 物怖じしない芥の性格が本当に羨ましい。こうも普通に接せられるものだろうか。

 話しかけられた方も、まさかこんなにズケズケと話しかけられると思っていなかったのか、両肩がびくっと跳ねた。

「ぬ、主様のところ、です……用件は、その、ただお連れするようにと……」

 女児は今にも泣きだしそうだ。

「いいよいいよ。行く行く」

「芥!」

「虎穴に入らずんば虎子を得ずってね。それに行かないと帰してくれないんじゃない」

 それはそうかもしれないが、なんの警戒もなく。これでは用心棒などいらないではないか。芥は狐面の子に接近し、手を伸ばす。

「ところで、お面とってくれない? 流石に顔も見せないような人、信用できないなあ」

 子供はびっくりして一歩下がる。お面を外されない様両手でしっかりと抑える。

「だ、だめです……」

「芥、それ以上やったら泣かしちゃう」

 陸奥はもうどちらの味方でいるべきなのか分からない。今見るからに悪者は芥の方だ。

「いいじゃないか減るもんじゃなしに」

「困る……」

「何が困るあっつ!」

 慌てて芥が女の子から離れる。芥が担いでいた荷袋に焦げた跡と、穴が開いていた。煙が出ている。荷物がバラバラと地面に散らばった。

ほたるに触るんじゃねえ」

れつにいちゃん!」

 現れた痩せ気味の男に抱き着き、さっと後ろに回る。

 その男、顔こそ違えど、カグリを襲撃した火使いと同じような茶色の髪色を有している。そしてその掌の上には、あの日見たものとそっくりの火がゆらゆらと揺れている。

「妹さん?」

 へこたれない芥は男に話しかけるが、蔑むような眼差しを投げつけてくるだけで、返事はなかった。


 へらへらした男だと思っていたが、ここまでとは。陸奥は呆れて物も言えない。とりあえず陸奥は地面に落ちた芥の荷を拾うことにした。穴が小さかったため、それほど荷は落ちてはおらず、小物が数点散らばっただけだった。

 最後に拾い上げた、小さな巾着。どう見ても女物だ。摘まむと固いものが中に入っているのが分かる。どうしようか迷ったが、念のため壊れていないか中を確認する。


 (嘘でしょ……)


 その袋に入っていたのは、欠けた勾玉だった。

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