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むつのはな  作者: あみか
プロローグ
2/102

プロローグ2

 この国の老人たちが幼かったころは、もっとたくさんの魔法使いがいたという。年々その血は薄くなり、今では一般家庭での先祖返りの出生率は、千人に一人とも、二千人に一人とも言われている。近い将来この特別な能力は完全に失われるだろう。

 それ故、サラスヴァの桁外れた先祖返りには、民だけでなく、王族たちも、神官たちも驚きを隠せなかった。一方的に失われていくだけと思っていたこの力が、また勢いを取り戻していくのではないか、という淡い期待を、一瞬誰もが胸に抱いたものだった。


 イーリアス神の再来である、とまで言わしめたサラスヴァ。その政治手腕も目を見張るものであり、ここ首都だけではなく、自治の強かった六州も見事に束ね上げ、安寧時代を一代で築き上げた。戦禍や飢饉に見舞われることも少なくなかったそれまでの時代と比較して、その功績は実績以上の安心感を民たちにもたらした。


 国王としての素質と、才能が秀でていたことから、サラスヴァの五人の子供たちに誰一人として魔法使いが生まれなかったことは、国全土を落胆させた。期待が大きかった分、その反動は大きく、国民の中に不安が芽生えるのは致し方のないことだった。


 更に悪いことに、サラスヴァの子供たちには子供が、つまりサラスヴァから見て孫が生まれなかった。イーリアス史上これ程断絶の危機に晒された時代は記録には残っていない。その生を受けてから一心に祝福を受けてきたサラスヴァだったが、その桁外れた生命力は呪いだとまで囁かれるようになった。


 そんな折漸く末っ子に待望の女児が生まれ、歓喜に沸いたのが今から十七年前。


 生誕120年を迎え、サラスヴァは昨日のことのように思い出す。


「サラスヴァ様ー!」

「おめでとうございます!」

「愛しています!」

「これからもよろしくお願いしますね!」


 街頭からは口々に祝いの言葉をかけられる。民たちの笑顔が、彼女にとってなによりものプレゼントだ。普段は王宮からは見ることのない市井の暮らし。それが日常生活ではなく特別な祭典の日であったとしても、毎年この日だけは心から楽しみであった。


 サラスヴァは輿の御簾を右の手の甲で少し開け、左手で民たちに手を振り返す。民たちまで少し距離はあるが、それでも自分がこの街の一員になれたような気がした。


 最前列で、父親に担がれた小さな女の子。小さなブーケを一生懸命放り投げ、それは奇跡的に輿の、御簾の狭い隙間まで届いた。僅かに御簾の端に跳ね返され、地面に落ちそうになる前に、サラスヴァは無意識にそのブーケを握っていた。きっと野原で摘んだのであろう、小さな白い花と、黄色い花。根に近い葉には土がついたままだった。淡い紫色の和紙で包まれ、根本は麻で結んである。女児を担いでいた父親が驚いた表情を娘に向け、当の本人は父親が何に驚いているのかわからないといった様子でキョトンとした。

 その光景に思わず笑みが零れ、小さなブーケの匂いを嗅いだ。


 輿はちょうど街一番の大広場まで来ており、ここが折り返し地点だった。時刻も太陽が頂点を過ぎ、一日で一番暑い時間帯に差し掛かる。広場には溢れんばかりの人、人、人。そして割れんばかりの歓声。

 兵士たちが声を掛け合い、アイコンタクトを交わしながら左に旋回しようとした瞬間、大きな爆音が響いた。広場にいた人たちは一瞬何が起きたのか分からず、その熱と、音と、匂いだけが、脳裏に刻まれた。ややあって何が起きたのかを理解した次には阿鼻叫喚の光景が伝染した。悲鳴、泣き声、怒号が飛び交い、パニックがパニックを呼び、混乱が賑やかだった空気を一瞬で丸飲みにした。



国王暗殺。



輿から中心に爆発し、国王と兵士十二名、一般人三十余名が死亡。怪我人多数。


歴史に刻まれる暗殺劇の犯人が捕まることはなかった。


その日は本当に、よく晴れた日だった。

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