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むつのはな  作者: あみか
第一章
12/102

 少しだけ雨が強くなってきた。芥と陸奥はここぞとばかりに外套を纏いフードを被る。これくらいの雨であれば、外套を羽織ったとしても何の違和感もない。普通の旅人のように、何食わぬ顔でカグリの街に溶け込んでいく。

「例えば水。水使いと言えば、何もない空間に水を生み出すことが出来る」

「うん」

 二人は小声で話しながら歩く。

「絵本なんかでは、水を大量に生み出して、それを操り相手を水責めにしてるよね」

「そうだね」

「実際には、そうだね……どんなに手練れの魔法使いでも、片手で救えるくらいの水しか無理かな」

「そう、なの……?」

 がっかりというか、残念というか、もやもやと複雑な気持ちがこみ上げてくる。

「風使いはそよ風程度しか生み出せないし、こう言ったら失礼だけど、そんなものだよ」

 物資の補給をしながら、芥の話を聞き続ける。

「サラスヴァ様は、雨を呼ぶことができた。それでも、にわか雨で小雨しか呼べなかったみたいだし、実際には数日かかってたらしい。まあ、片手の水量に比べたら、桁外れなんだけどね」


 いつから、民衆の思い描く魔法と現実に、差が出来ていたのだろうか。人の目から遠ざけるように、一般家庭に生まれた魔法使いは軍へと入れられる。他国との戦争も内乱もなくなったこの平和の国で、それをお披露目する機会がないというのは、勿論喜ばしいことではあるが、このギャップを生み出す一因ともなっていた。

 街の秩序を保つ役割もある軍。諍いがあっても軍人が登場すれば敵うはずがないと皆その拳を下ろす。実際に街に常駐している軍人は、魔法の才のない一兵卒であることが殆どだが、それでも牽制効果は十分だった。治安維持のために教会か、王宮か、それともその両方が、ひた隠しにしているのだろうか。


「どうして芥はそんなこと知ってるの?」

「んー内緒」

 口に立てた人差し指をあて、かわいくウィンクする。

「私、芥は教会の関係者だと思ってる。教会の偉い人たちはほぼ魔法使いだって聞いたことがある」

 数軒の店を巡り、山越えまで見越しても十分に補給ができた。土砂降りにならなくて本当に助かった。雨が強ければ人通りが少なくなってこんなに簡単に物資の調達ができなかったかもしれない。周りを見渡せば、同じようにフードを被る者、傘をさす者、全く雨を避けない者、様々だ。

「芥も、魔法が使えるんじゃない?」

 数日前のあの森での出来事。いともたやすく川を見つけ、夜の森を颯爽と闊歩する、あれが魔法なのだとしたら。

「クズの魔法使いかあ。悪くないね」

 結局芥はくすくす笑いながらはぐらかすだけで、答えてはくれなかった。

 あなたは何者?

 雨の匂いが、やたらと鼻についた。雨はもう少しだけ、降り続けそうだ。

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