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蒼褪めた騎士の話

作者:カメラン
牙狼見て思いつきました
 レベッカ・ゴゥトは荒野のど真ん中でエンストしたキャンピングカーの窓からM4を乱射して奇妙な襲撃者らを追い払おうとした。

 襲撃者は刺々しい人骨で形作られ、厳めしい角が生えた山羊の髑髏を備えている。
 空いた胴体の中央に黒々と脈打つ心臓、双眸と口には赤々とした炎が燃え盛っていた。

 ぞっとするような一陣の風を前触れに、地平線の向こうから現れた3体の化け物は猛烈な速度でキャンピングカーに迫っている。

 銃弾は突撃の勢いを弱める効果もなかった。持ってきたマガジンを使い果たし、役立たずのM4を投げ捨てると次なる獲物に手を伸ばした。
 偏執的生存主義者である、この若く魅力的な小麦肌の娘は自衛のため、車内に違法なものも含めて多数の銃火器を隠していたのだ。それらは今、床に転がしてある。

「手榴弾ならどうかな?」

 レベッカは二つ、手榴弾を手に取り、ピンを抜く。赤毛を振り乱し、投擲した。
 狙いは一番近い化け物だ。足元で炸裂。

「くたばれ!」

 爆風と破片が災厄の一部を粉砕し、ちょっとした憂さ晴らしになることはなかった。一瞬動きを止める程度の効果はあったが、直撃を受けた化け物は無事だった。

「ちょっ、マジ!?」

 期待外れの成果に思わず声を洩らす。しかし手はイサカM37に伸びており、狙いを定め、引き金を引いた。散弾が忌々しい骨の化け物の胴体を中心に着弾する。衝撃が僅かに怪物を押し留めたように見えた。

 ハンドグリップを往復させた直後、キャンピングカーがひっくり返された。反対側から車に接近してきた化け物が軽々と持ち上げたのだ。天井と床が逆さになった車内を転がり、身を守るためにM37を手放す。

「畜生……!」

 痛みを堪えながらレベッカは窓から這い出した。骨折はなく、最小限の打撲で済んだのは、幼い頃から積んでた柔道と空手の稽古と幸運によるものだった。
 まだ腰のガンベルトにM1911がある。間近で見下ろしている化け物に全弾叩き込んでやるつもりでいた。例え意味がなくても最後の一瞬まで、抗ってやる。

 レベッカは顔を上げた。間近でみる燃え盛る双眸と口がレベッカに原始的な恐怖を呼び起こさせた。己を奮い立たせ、腰の拳銃に手を伸ばす。

 突如、雷鳴が轟き、その後、蹄の音が聞こえてきた。その音は遠く、しかしはっきりと耳にとどいた。

 化け物どもの動きが雷鳴と蹄の音に怯えるように止まった。風のような速さで駆けてきた何者かが、レベッカを見下ろす化け物を吹き飛ばした。

 レベッカは襲撃者を目にした。それは青褪めた異形の戦馬に跨り、鎧に身を固めた騎士であった。
 騎士の駆る馬が嘶き立ち、ギチロンめいた蹄が骨だけの頭部を粉砕する。頭部のなくなった奇怪な人骨は心臓から漏れ出した炎により灰と化した。


 騎士がマントを翻し、反転した。頭部は髑髏を模した兜で覆われている。騎士の姿は跨る戦馬とともに聖書に語られる、ある存在を想起させた。

「青褪めた乗りペイルライダー

 ヨハネの黙示録に記される四人の騎士のうち、最後に現れる者。黄泉を伴いやってくる死の大いなる化身の名がレベッカの口から独りでに紡がれた。

 馬を駆り立て、髑髏の騎士が次なる獲物へ踊りかかる。騎士はどこからともなく、中世の処刑人が振るったものに酷似した、巨大な剣を取り出していた。
 馬を巧みに操り、それを片手で軽々と振るってみせた。二匹目の化け物が振り下ろされた剣で叩き潰される。その剣は稲妻のように速かった。

 化け物どもは銃弾や手榴弾に耐えたときよりも遥かに脆弱に思えた。レベッカは、全ての化け物が騎士の剣に葬られるまで、戦いから目を離さなかった。

 殲滅を終えると騎士は馬から降りることなく、レベッカへと近寄ってきた。

 未だ握られている剣が振り下ろされ、己の命を刈り取るのではないかと身構えるレベッカに騎士が声をかけた。

「この広い荒野で亡者どもに狙われるとは不運な人の子よ」

 その声は鉄のように重く感じた。だが敵意はないようだった。

「彼奴らは憎悪を抱いたまま死した人の魂よ。卿もその一人にされるところであった」

「助けてくれてありがとう」

 とにかく、レベッカは救い主である騎士に感謝の意を示した。

「それで、私にできるお礼はある?」

 それが支払えるものであれば良いが。

「必要ない。人の子を護るは天の父なる御方より賜りし使命なれば。それよりも……」

「それよりも……?」

 レベッカは再び身構えた。

「卿の車はもはや使い物にならんであろう。付近の街まで送っていこう。荷物を纏めるが良い」

 騎士の申し出は親切なもので、レベッカにとって全く予想外だった。

 厚意に預かり、レベッカは荷物を纏めた。

 騎士が手を差し伸べ、レベッカが馬に乗るのを手伝った。レベッカがしっかりと掴まると、青褪めた馬が信じられない速さで荒野を駆け始めた。

「あなたって紳士なのね。いつもそうなの?」
「否。我が本分は神敵を滅する剣ゆえ、これは気紛れに過ぎんよ。人の子と言葉を交わしたのは久方ぶり故、舞い上がっているのかもしれん」
「ずっと独りであいつらと?」
「然り。神の子羊が磔刑に処されるよりも前からだ。だが、あれは雑兵ですらない。地獄より溢れた悪魔どもやベヒーモスが我が敵だ」

 騎士の語り口から彼がレベッカの想像している、存在であることは間違いなかった。聖書に語られているよりずっと穏やかであったが。

 街の近くでレベッカは下ろされ、騎士は颯爽と去っていった。
 別れ際、騎士は「卿に祝福があらんことを」とレベッカのために祈り、レベッカもまた同じく彼のために祈った。

 レベッカが生涯を終え天に召されるその日まである青褪めた馬とそれを駆る騎士に再開することはなかった。

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