二話
城門で警備をしている騎士達に軽い挨拶をし、城内へと入るウィル。
そのまま玉座の間を目指した。
玉座の間へ入る。
豪華絢爛な玉座の間にいるのは、たった一人の女性。
圧倒的な威圧感を放つ女王が、玉座に腰かけていた。
獅子の鬣の如き金髪を腰まで流している。
金色の甲冑、緋色のマント。
有無を言わさぬ暴力的な美の権化は、ゆっくりと瞳を開いた。
ウィルは玉座の前まで歩み、片膝を付く。
「只今帰還しました。ビクトリア様」
「うむ」
獅子の如き女王は鷹揚に頷く。
「結果は既に聞いている。よくやった。褒めて遣わす」
「ありがたき幸せ」
そう――彼女こそビクトリア。
「金髪の魔獣」「金獅子」「魔王」「暴君」
数々の異名と共に恐れられる、ビクトリア帝国の皇帝だ。
「顔を上げよ、ウィル」
「ハッ」
顔を上げるウィル。
ビクトリアは瞳を細め、穏やかな声音で告げる。
「お前はここ最近、働き過ぎている。よって数日の休暇を与える。ゆっくり休め」
「……ですがビクトリア様、俺がいない間、暗殺業務は」
「お前の部下達にやらせればいいだろう。休め。三度は言わん」
「……」
「お前の帰りを待つ妻子がいる」
「……わかりました」
ウィルはもう一度頭を下げる。
「下がってよい」
ウィルは立ち上がり、玉座の間を出て行った。
ビクトリアは、ゆっくりと瞳を閉じた。
◆◆
玉座の間を出たウィル。
すると、入り口に二人の女性が佇んでいた。
一人は白銀の甲冑に身を包んだ騎士。
ウェーブがかかった桃色の長髪をふわりと揺らしている。
柔和に輝くエメラルドの瞳。
彼女を初めて見た者は「天使」もしくは「女神」と錯覚してしまうだろう。
それほどの美しさだった。
二人目は、だぼだぼの魔女帽子を被った魔導師。
緑色の髪はツインテール、紫苑色の双眸は眠たげに半開き。
年の頃十代ほどか。
その幼い容姿に似合わず、纏う雰囲気は大人のそれだ。
「お疲れさまです。兄様」
「にぃ、お疲れさま」
二人からの労いの言葉に、ウィルは頭を掻いた。
「ビクトリアから休暇貰っちまった。お前等には苦労をかける」
「いいんですよ。あなたには働き過ぎです。休息も必要ですよ」
「そうだよ。愛しい妻子がいるんだろう?」
桃色の騎士は柔和に微笑み、緑色の魔導師は肩を竦める。
騎士の名はアリシア。
魔導師の名はソフィア。
皇帝ビクトリアを含め、惑星ビルドの孤児院で育ったウィルの妹分だ。
「……ま、それもそうだな。これを機にしておきたいことがあるし」
ウィルは表情を緩める。
「兎にも角にも、愛しい妻子達に会いたい。休暇貰ったって通知入れとかなきゃ」
腕を組み、ウィルは悩みはじめる。
「んー、プレゼントはどうしよう。妻には……んー。娘はもう決まってるんだよなぁ」
早くもデレデレなウィルの様子を見て、アリシアはくすりと笑い、ソフィアは仏頂面になる。
「僕達の前で惚気ないで、さっさと行ってあげたら? 時間は無限じゃないんだよ」
「おっとそうだ。悪いな、じゃ、また今度」
「あっ、ウィル」
「ん?」
アリシアはウィルに告げる。
「明後日の晩、カルロスが帰ってくるんです。もし時間があれば、酒場に寄ってあげてください。彼も喜びます」
「わかった。明後日だな」
カルロスは最後の義兄妹だ。
ウィル、ビクトリア、アリシア、ソフィア、カルロス。
孤児院で約束を交わした五人は、約束通りの大人になった。
ビクトリアはビクトリア帝国の皇帝、三千世界最強の王に。
ウィルは三千世界最強の暗殺者に。
アリシアは三千世界最強の騎士に。
ソフィアは三千世界最強の魔導師に。
カルロスは三千世界最強の戦士に。
彼等はビクトリア帝国の要。
誰一人欠けてはいけない存在だ。