表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビクトリア帝国戦記 改 【完結】  作者: 桒田レオ
第五章「死神の想い」
21/24

一話



 翌日。

 ウィルは玉座の間へとやってきた。


「……よし、城下町を散策しに行くぞ」

「かしこまりました


 ビクトリアは暇さえあれば城下町をぶらつく。

 ウィルは護衛として御供する。

 二人で城下町を歩いていると、さっそく領民達に囲まれた。


「ビクトリア様、これ、とれたてのリンゴです!」

「今日は新鮮な魚が入ったんです! よかったらどうぞ!」

「ビクトリア様~!」


 領民から貰いものを受け取りながら、ビクトリアは街の活気を観察していた。

 ビクトリアは暇さえあれば城下町の雰囲気をチェックする。

 そして違和感があれば、すぐに改善する。


 ビクトリアの元に子供達が寄って来た。

 その手には、花束を持っていた。 


「ビクトリア様、これ……」

「ん?」

「花束です……あの、何時もありがとうございますっ」


 子供達が礼をすると、ビクトリアは一人一人の頭を優しく撫でた。


「ありがとう、大切にする」

「えへへ~♪」


 子供達は笑顔で去っていった。

 ビクトリアは嬉しそうに瞳を細める。


 ビクトリア帝国は三千世界でも随一の安泰を誇る。

 ビクトリア帝国の本土、ウィスペルから離れた区域にも、ビクトリアの庇護は届いている。

 犯罪を侵せば、即座に厳しい罰を課せられる。


 目には目を、歯には歯を。


 ビクトリア帝国は基本、犯罪に対して厳しい。

 秩序を乱すものは、厳格に粛清する。

 帝国外では無期懲役クラスの犯罪も、帝国内では死刑になる可能性がある。

 特に麻薬、人身売買、殺人に対しては厳しく、大抵は死刑判決を下す。

 無論、相手の事情を加味した上で判決を下すが……

 大方、麻薬や人身売買を行っている者にロクな者はいない。

 犯罪組織マフィアやヤクザの弾圧にも積極的だ。


 他には、子供の教育に熱を入れている。

 優秀な教育法であれば帝国外のものでも取り入れる。

 何より、教員達に軽度の体罰を行うことを許可している。


 子供が火に手を近づけたら、その手を叩いて止めるのが指導者というもの。 


 殴打などは無しだが、平手打ちなどは許可されている。

 これにより、やってはいけないことを痛みと共に理解させることができるのだ。


 また、教育の際、親が必要以上に出しゃばることを禁止している。

 教育の場に親の庇護は不要。

 社会への自立を促すために、親は必要以上に関わることができない。

 無論、行事などの際は話が別だが。


 苛めに対しても厳しい。

 ビクトリア帝国は多種族が混じって構成されているので、苛め問題は深刻だ。

 なので、苛めをした者を再教育する施設が存在する。

 苛めっ子が見つかれば即刻施設に放り込まれる。

 子供に限らず、大人でも収容される。

 そこでは苛めを受けた者達の精神状態を精神魔導で直接脳内に流される。

 その後、規定の教育プログラムを受けた後、解放される。

 結果、大抵の者達は二度と苛めをしなくなる。

 勿論、苛めを受ける側にも問題がある場合があるので、そこもしっかり対処する。


 そして大人……特に仕事をしないフリーター、ニート。

 彼等を公正させる専用の施設もまた存在する。

 フリーター、ニートが見つかり次第、強制的に放り込む。

 この施設では低賃金で重労働を行わせる。

 所謂ブラック企業だ。

 ここから抜けたければ、他の場所に就職するしかない。

 なので皆、必死に就職活動に励む。

 この施設以外のブラック企業は一切認められておらず、微細な労働基準法に基づき、休日はきっちりと作られている。

 また精神的に病んでいるのであれば、精神病院へと連れて行かれ、事情を聞きだし、適正な対処を施す。


 徴兵制度もなく、有事の際はカルロス戦士団とアリシア騎士団が出る。

 最強の暗殺者「死神」の存在もあり、民達は争いから遠い平和な日常を送っている。


 その他、病人に対する厚い手当、老後の年金など、上げていけばキリがないが、基本的に厳しいところはとことん厳しく、優しいところはとことん優しいというのがビクトリア帝国の政策方針だ。


 領民達はイキイキとしている。

 ちゃんと学業や仕事に励み、ちゃんとした給料を貰え、ちゃんと休める。

 人として当然の人生を送っていれば、当然の見返りが返って来る。

 なので年々ビクトリア帝国の傘下に加わる勢力は増えており、またその政策を真似る同盟勢力も増えている。


 税金は20パーセントと高いが、安定した政策と安全な生活が保障されるので、皆文句は言わない。


 話は戻って。


「よし、次はあそこに行くぞ」


 ビクトリアが指したのは、病院だった。

 ウィルは彼女に付いていく。


 二人で病院に入り、挨拶回りをする。

 そして、ある一室に入った。

 そこは、余命幾ばくもない者達が集まる場所だった。


「ビクトリア様……っ」

「これはこれは……っ」


 病人たちは必死に立ち上がろうとするが、ビクトリアは手で制する。


「良い。安静にしていろ」


 ビクトリアは室内を巡りながら、病人達の中でも老衰で死にかかっている男性の元へ歩み寄る。


「ビクトリア様……」

「お前には、帝国創設時から尽くして貰ったな」

「ははは、しがない一市民の顔を、覚えてくださっていたのですね……」

「覚えているさ。……ありがとう。今まで帝国に尽くしてくれて。ゆっくりと休んでくれ」

「はい……ありがとう、ございました」


 男性はそのまま息を引き取った。

 ビクトリアはそれから、何人かの死を看取った。


 ビクトリア帝国で、不死は厳禁とされている。

 命を冒涜する行為であり、歩むべき生を蔑ろにする愚行だとしてだ。

 不老は許されるが、特例を得た者達だけだ。

 種族自体が不老不死の場合は許されるのだが……


 ちなみに、ウィルやビクトリアを含めた幼馴染面子は不老である。

 ウィルはこれ以上容姿的に歳をとらない。

 ビクトリア達も一緒だ。

 理由は、彼等はビクトリア帝国にとって重要な存在だからだ。


 だが、不死ではない。

 なろうと思えばソフィアの魔導でなれるのだが、皆拒否した。

 死ぬ時は死ぬ。 

 それが人間というものだ。


 ビクトリアは城下町から離れた山林地帯に、ウィルを連れてきた。

 目的地は、奥地にある小崖の上だ。

 ウィルが先日、仕事帰りに寄った場所である。

 ここはビクトリアにとっても憩いの場所だった。


「ここなら誰もいない。お前を……いいや、あなたを兄さんと呼べるな」

「そうだな」


 玉座の間では絶対に見せない柔和な笑みを見て、ウィルも頬を緩めた。

 二人して座ると、ビクトリアがウィルの膝を枕に寝そべる。


「おいおい、どうした?」

「昔は何時もしてもらっていただろう? 落ち着くのだ」

「そうか……」


 ウィルは優しく、ビクトリアの金髪を撫でる。

 ビクトリアは気持ちよさそうに瞳を細めた。


「お疲れさま。何時も頑張っているな」

「ふふふ♪」

「お前のおかげで、沢山の人が笑顔でいられる」

「当たり前だ。領民は王にとって至宝だからな」


 ウィルは微笑む。


「そんなお前だから、俺や他の幼馴染達が付いていくんだ。お前が、俺達にとって理想の王だから」

「うむ! 兄さんや他の幼馴染と幼少より関係を築けたのが、我の人生で一番の好運だな!」


 嬉しそうに言うビクトリア。

 しかし、途端に悲哀に満ちた表情をする。


「兄さん……」

「?」

「兄さんが暗殺者をしてくれているおかげで、我も、ビクトリア帝国も、大変助かっている。ありがとう」

「どういたしまして」

「……幼少の頃、何で兄さんが暗殺者になると言ったのか、今になってわかったよ」

「……」

「あなたの優しさに甘えてしまう我を許してくれ。でも、何時か三千世界を統一したら、この恩は倍にして返す」

「……じゃあさ」

「?」


 ウィルは頬を掻きながら、照れくさそうに言う。


「三千世界を統一して、平和な世界になったら……後のことは次世代に任せて、皆で引退して、楽しい余生を過ごさないか?」

「っ」

「皆で笑って、美味しいもの食べてさ。……平和な日常を過ごしたい」


 ウィルの言葉に、ビクトリアは静かに涙を流した。

 そして、強く頷く。


「ああ。約束だ……約束するとも」

「ありがとうな」

「……フフ。では、頑張らなければな」

「俺も頑張るぜ」

「一緒に頑張ろう。兄さん」


 ウィルとビクトリアは、二人で笑い合った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ