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ビクトリア帝国戦記 改 【完結】  作者: 桒田レオ
第一章「最強の暗殺者」
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一話

 とある惑星にある王国、サーティス。

 治世の才に恵まれた三代目国王が敷く善政により、国民達の笑顔が絶えることはなかった。


 しかし大きな問題が発生する。

 数ヵ月前、地の底からモンスター達が溢れ出し人々を襲ったのだ。

 運悪く近隣にあった南方の王国は崩壊。

 噂では聞くに堪えない畜生の所業により、生き地獄と化しているとか。


 凶悪なモンスター達を統べているのは、魔王と呼ばれる強大な力を持ったモンスター。

 彼は廃墟となった王国を拠点にし、北にあるサーティス王国へと進軍を目論んでいる。


 サーティス王国国王はこの危機的状況を打破すべく、最大戦力である勇者一行に魔王討伐を命じた。

 国王の息子であり、類稀な才覚を持つ彼とその仲間達なら、あるいは……

 国王も領民も、大きな期待を寄せていた。


 しかし現実はそう甘くなかった。

 勇者一行は全滅。

 辛くも生還したが、皆重症で当分は戦えない。


 そして、この機会に乗じて奇襲型モンスターが王国を急襲。

 なんと、国王の娘であり勇者の妹、姫君を攫ってしまったのだ。


 無理を通して妹を助けに行こうとする勇者。

 彼を止めながらも、必死に自分を押し殺す国王。


 暫くして、国王は決意した。

 同盟を結んでいるビクトリア帝国に助力を要請しようと。

 傘下ではないので、必要以上の支援を求めることは本来できないのだが……

 事態は一刻の猶予も許してくれなかった。


 国王は皇帝ビクトリア宛てに手紙を出した。


「このままでは王国はモンスターの手に落ちてしまいます、どうかご助力を」と。


 すると、ほんの数時間もしない内に返信が届いた。

 内容は――


『そちらの現状は把握した。ビクトリア帝国の最大戦力「死神」を向かわせた。詳細は「死神」に説明してくれ』


 国王は総身を震わせた。

 安堵と、そして恐怖からだ。


「死神」

 ビクトリア帝国の誇る最強の暗殺者。皇帝ビクトリアの懐刀。どんな標的であろうが確実に殺すことから「死神」の二つ名で恐れられている。


 敵対勢力から最も畏怖され、忌避される存在だ。

 彼が、王国を救ってくれる。

 国王は絶対的な安心感と共に、ふつふつと沸いてくる恐怖心を抑えられなかった。


 数時間後。

 城へとやってきた。

 件の「死神」が。

 国王は玉座に座りながら、緊張を隠すため唇を噛みしめていた。

 有事を想定して近衛騎士団が。

 そして勇者も、重傷の身体を引きずって待機している。

 彼等の心境もまた、国王と同じであった。


「死神」

 一体どのようなバケモノなのか……


 玉座の間へ続く扉が開かれる。

 皆の視線が扉の奥へ集中した。


「……」


 佇んでいたのは、黒髪の美丈夫だった。

 歳の頃三十代半ばほどか

 身長190センチ、痩躯ながら筋肉質。

 服を脱いで貰えば鍛え抜かれた肉体を拝めるだろう。

 服装は白のシャツに上下黒のスーツ、その上から黒のロングコート。

 手には純白の手袋を着用している。

 黒髪はワックスでオールバック。

 双眸は鋭利ながら柔和な色を灯している。

 顔立ちがクッキリとしており、鼻、顎、その他のパーツが綺麗に纏まっている。

 目元と口元には小皺。

 顎の髭は整えられていた。


 ダンディな二枚目だ。

 おじ様が好きな女性なら、コロリと靡いてしまうだろう。


「「「「……」」」」


 国王を始めとした玉座にいる者達は、総じてぽかんと口を開いていた。


「この反応には慣れているんだが、んー」


 黒髪の男性は頬を掻き、苦笑する。

 国王はハッと我に返り、彼に喋りかけた。


「貴殿が、かの悪名高き「死神」か?」

「はい。俺が「死神」です」


 玉座の間にどよめきが走る。

 国王が手を上げると、どよめきはぴしゃりと治まった。


「すまない。私も、この場にいる者達も、まさか「死神」が貴殿のような男だとは思わなかったのだ」

「慣れています。気にしないでください。あと、俺の名前はウィルって言います。今度から「死神」なんて呼ばずに、ウィルって呼んでくれると嬉しいです」


 黒髪の男性、ウィルの微笑みに、国王の緊張が少し解れた。


「ではウィル殿。今回の件についてなのだが――」

「詳しくお聞かせ願いますか?」

「ああ」


 暫らく国王の説明を静聴するウィル。


「……という訳なのだ」

「つまり、南方の王国を拠点とする魔王を討伐し、姫君を救い出せばいいのですね?」

「その通りだ」


 できるだろうか? という言葉を、国王は飲み込んだ。

 それは駆けつけてくれたウィルに対しあまりに失礼な発言だからだ。

 しかしウィルは国王の心境を察したのか、精強な笑みで頷く。


「大丈夫です。俺に任せてください。必ずや魔王を討伐し、姫君を救い出してみせます」

「おおっ……」


 国王が感動のあまり声を漏らす。

 玉座の間にいる者達も、ウィルの心強い発言に安堵していた。

 そんな中、ウィルに近付く者が一人。

 勇者だ。


「ウィル殿……」

「あなた、重症じゃないですか……早く安静にしないと」

「私のことはどうでもいいんです。姫を、最愛の妹を、頼みます……ッ。どうかッ」


 ふらつき、ウィルに支えられながらも、声を絞り出す勇者。

 ウィルは強く頷く。


「はい。俺に任せてください。だからあなたは、自分の身体を労わってください」

「すまない……ッ」


 勇者は涙を流しながら、近衛兵達に支えられ、玉座の間を出て行った。

 ウィルも踵を返す。


「明日までには戻ってきます」


 そう言い残し、ウィルも玉座の間を出て行った。


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