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ビクトリア帝国戦記 改 【完結】  作者: 桒田レオ
第四章「ビクトリア帝国の事情」
18/24

二話


 早朝。

 ビクトリア城の玉座の間にて。


 ビクトリアはウィルから受け取った資料を見ていた。

 ウィル、ソフィア、アリシア、カルロスは片膝を付いて、ビクトリアからの指示を待っている。


「朧衆、か……最近噂になっている忍集団だな。雇い主は……ふむ、まさかあの同盟国の領主とはな。懇意にしていた分、此度の鼠がパスポートや結界を素通りできたというわけか」


 同盟国から暗殺者を差し向けられたのにも関わらず、ビクトリアは眉一つ動かさない。


「……やむなし」


 資料を横に置き、ビクトリアは四人に視線を向ける。


「カルロス」

「ハッ」

「戦士団を連れて件の同盟国に向かい、領主を連行してこい。抵抗するなら武力を行使しても構わん。だが殺すな。生かして連れてこい」

「承りました」


「アリシア。帝国に他国の諜報員、または暗殺者がいないかどうか、騎士団総員で洗い出せ」

「かしこまりました」


「ソフィア。城に設置したトラップを再チェックしろ」

「わかりました」


「そして、ウィル」

「ハッ」


 ビクトリアは瞳を閉じて言う。


「朧衆を滅ぼして来い。女子供、老人、一人残らず殺せ」

「お待ちください、ビクトリア様」

「何だ、アリシア」


 騎士団長アリシアは進言する。


「滅ぼすのは些か性急かと。彼等は金で雇われた傭兵に過ぎません。まずは様子を見て、有能であれば雇用するというのも」

「朧衆には同盟国も手を焼いている。実際、被害届が数十件ほど届いている。……奴等、大金さえ積めばどんな存在でも暗殺しようとする。極めて危険だ。取り返しのつかない事態になる前に、潰しておかねばならない」

「……」

「それに、我を暗殺しようとした。……奴等は、超えてはいけないラインを越えた」

「……女子供、老人だけでも」

「駄目だ。新たな火種となる」

「……かしこまりました」


 アリシアは下がる。

 しかし、今度は戦士団長カルロスが進言した。


「ビクトリア様」

「何だ、カルロス」

「朧衆の討伐、俺達戦士団に任せてはいただけないでしょうか? 代わりにウィルが領主の身柄を確保すればいいかと」

「駄目だ」

「何故でしょう?」

「理由を話す必要があるか?」

「是非お聞かせ願いたい」


「僕もカルロスの意見に賛成です。カルロス戦士団が武力を行使、ウィルが領主の身柄を確保する。そちらのほうが効率的かと」


 魔導団長ソフィアが割って入ってくる。

 ビクトリアは眉を顰めた。


「確かに、効率的ではあるな」

「では……」

「お前達、己の役割というのを今一度考えろ。此度の案件は戦ではない、暗殺だ。暗殺は暗殺者に任せるのが筋というもの。戦士は戦で活躍するものだ」

「「……」」

「ウィル……引き受けてくれるな?」


 ビクトリアの言葉に、ウィルは恭しく頭を下げる。


「皇帝陛下のご命令とあらば」

「「……っ」」


 カルロスとソフィアは悔しそうに唇を噛みしめた。


「以上だ。各々、自身の職務を全うするように」

「「「「ハッ」」」」


 四人は頭を下げ、玉座の間を出て行った。



 ◆◆



 玉座の間から出ると、ソフィアはウィルの手を握った。

 ウィルが視線を向けると、ソフィアは頬を膨らましていた。


「にぃ。どうして断らなかったの?」

「断る理由が無いからだ」

「……にぃだって嫌でしょ? 女子供、老人を殺すなんて。たまにはカルロスや僕達に任せたって」


 ウィルは苦笑して、ソフィアの頭に手を置く。


「気にするな。暗殺者ってのは、そういうもんだ」


「兄貴……」

「兄様……」


「お前達も、自分の仕事を全うしろ。……じゃ、行ってくる」


 ウィルはこの場を去って行く。

 三人はその背中を見て、複雑な表情をしていた。

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