表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビクトリア帝国戦記 改 【完結】  作者: 桒田レオ
第三章「ビクトリア帝国の日常」
16/24

七話


 ウィルは城下町の路地裏を歩いていた。

 路地裏は領民ですら滅多に寄り付かない場所だ。

 何故、そのような場所を歩いているのか。

 理由は、ウィルが向かおうとしている場所にあった。


 ウィルの目の前に立ちはだかったのは、大きな壁。

 行き止まりだ。

 しかし、ウィルが構うことなく足を突き出す。

 すると、ウィルの足がすっぽりと埋まった。

 ウィルはそのまま、壁の中へと入っていった。


 壁の中には、酒場があった。

 城下町にはない酒場だ。

 店内から数名の声が聞こえてくる。

 ウィルはその声の主達を知っているのか、微笑んで店内へと入っていく。


「だーかーらー! 折角のワインが不味くなるから端っこで飲めっつってんだよ。このブリキン女!!」

「喚くな、繁殖期の猿か貴様は」

「まぁまぁ」


 銀髪をオールバックにした美男と黒髪のボーイッシュな美女が罵詈雑言を吐きあっている。

 それを、茶髪の心優しそうな巨漢が宥めている。


 三名は店内に入ってきたウィルを発見し、即座に彼に駆け寄った。


「旦那ぁ!! 久しぶりじゃねぇか!! 元気にしてたか? ハハ!!」

「お久しぶりです、ウィル様」

「久しぶり、団長。一緒に飲もうよ」


 銀髪の美男、黒髪の美女、茶髪の巨漢が笑顔を見せる中、ウィルは両手を広げる。


「おう、お前らお疲れさん。さぁ! ウィル暗殺団、第一部隊の帰還を祝して、今日は盛大な宴をしようじゃねぇか!!」



 ◆◆



 ウィル暗殺団。

 通称「ビクトリアの毒」。

 主に同盟国の監視。

 もしも不穏分子が現れた場合は、極秘裏に処理するのが目的の集団だ。

 このことからビクトリア帝国の戦闘集団の中でも、最も畏怖されている。

 団長のウィル以外の詳細は、ビクトリア帝国の領民も知らない。

 団員の顔は勿論、性別、種族まで隠蔽されている。

 団員の顔ぶれを知っているのは、ウィルとビクトリアのみ。

 日陰者ながらビクトリア帝国の領民から厚く信頼されており、彼等への感謝の贈り物が絶えることはない。


 団員は普段、専用のマントを被っているが、今いる酒場は領民達も知らない隠れ家だ。

 故に、素顔を晒している。


 現在帰ってきているのは、第一部隊のメンバーだ。

 ウィル暗殺団は全部で十三部隊存在し、各隊任務を遂行している。

 暗殺という内容上、全メンバーが揃うことは滅多にない。


 ウィルは帰ってくる部隊に合わせて休暇を取る。

 ウィルも多忙な身だが、ビクトリアがわざわざ日程に合わせてくれるのだ。

 彼女の厚意に感謝しつつ、ウィルは今日数ヵ月ぶりに第一部隊の面々と再会した。


 銀髪の美男はロダン。

 軽薄な二枚目。賭博と女が大好きという駄目男だが、リボルバーの腕は超一流。


 黒髪の美女はクロエ。

 無口で冷徹。実は意思を持つ機械人形であり、体内は螺子や歯車でできている。


 茶髪の巨漢はタール。

 温和で子供好き。ハルバートを振るえば一騎当千の活躍を見せる。


 三名の顔を久々に見て、ウィルは大いに満足していた。


「お前らが元気そうで何よりだぜ」


 ウィルは空になったグラスにワインを注ぎ、ゆっくりと口に含んだ。


「旦那も活躍してるみてぇだな。仕事中にも噂を聞くぜ。いい意味でな! ビクトリア帝国の「死神」って聞けば、泣いてる子供も黙っちまうぜ!」

「あなた様の存在が、我々を奮い立たせるのです」

「あなたには感謝している。これからも、俺達の指標になってほしい」

「照れること言うんじゃねぇよ。俺が活躍できるのはお前達のおかげだ。感謝してる。……今日は全部俺の奢りだ。楽しんでくれ」


 ウィルの言葉に、ロダンのテンションが一気に上がる。


「くぅぅ! 流石旦那! 太っ腹だぜ! よっしゃぁ! 今日は浴びるように飲むぜぇ!」

「ありがとうございます」

「じゃ、お言葉に甘えて」


 ロダン、クロエ、タールはワインを呷る。

 その様子を見て、ウィルは嬉しそうに微笑んだ。


「ほんと……お前達が無事で、安心したよ」



 ◆◆



「ほれ、これがビクトリア帝国の子供達の写真だ」

「ははぁん。平和ボケした面しやがってまぁ……」

「フフ……」


 ウィルから手渡された写真を、ロダンとクロエが凝視している。

 隣では同じく子供達の写真を、本当に嬉しそうに見つめるタールがいた。


「ありがとう団長。何時も一杯撮ってきてくれて」

「お前達は公共の場に顔を出せないだろう? 変装しても、子供達とは触れ合えない。だから、俺がこうして写真を提供するのは、団長として当然の義務だ」


 ウィル暗殺団は、ビクトリア帝国の領民に顔バレしてはいけない。

 それによる弊害は数多く生まれる。

 ウィルはそれをできる限り補おうとしているのだ。


「で、これが……俺のマイ・ハニーとマイ・エンジェルの写真!!」


 ウィルが満面の笑みで出したのは、愛する妻子の写真だった。


「うっはぁ……出たよ。旦那の妻子自慢」

「文句を言うな、ウィル様のあの笑顔を濁らせるな」


 ロダンとクロエの言葉が聞こえていないのか、ウィルは次々に写真を取り出す。


「これは公園に行った時の写真で~! これがプールに行った時の写真!」

「へぇ……」


 ロダンがウィルの手の中から、写真を一枚取る。

 ウィルの愛妻、久遠の水着姿の写真だ。


「ふっふっふ、相変わらず滅茶苦茶イイ女だよなぁ。旦那の嫁さん。旦那の嫁さんじゃなけりゃ、とっくに……」



「俺のハニーに手を出したら、半殺しじゃ済まねぇぞ……?」



 溢れ出る殺気は「死神」の面目躍如。

 あまりの冷たさに、ロダンは顔を真っ青にして頭を振った。


「じょ、冗談だって旦那! わかってる! わかってるから殺気を収めてくれ!」

「……お前は女遊びが過ぎる。洒落になっていないからな」

「俺も遊ぶ女は選ぶよ。……一応な」


 自信がなかったのだろう、最後に一言付け加えるロダン。

 ウィルがジト目でロダンを睨んでいると、タールが朝陽の写真を一枚一枚見て、頬を緩めていた。


「団長の娘、朝陽ちゃん、だったっけ?」

「ああ」

「本当にいい笑顔するねぇ。特に団長と遊んでる時、幸せそうな顔をしてる。こっちまで幸せになるよ」

「ふふふ……そうか。そう言って貰えると、嬉しいなぁ」


 本当に嬉しそうに微笑むウィル。


「よし、お前等、集合!」


 手招きされ、彼の近くまで寄る三名。

 ウィルは全員の頭を、くしゃくしゃと撫でた。


「ちょ! 何すんだよ旦那!!」

「っ」

「?」


「お前等、ウィル暗殺団の絶対の掟、覚えてるな」


 ウィルの言葉に、全員が頷く。


「死ぬな。絶対死ぬな。死にそうなら全力で生還して俺に任務を引き継げ」


「……わかってるよ、旦那」

「肝に銘じております」

「約束は守るよ」


「よし……」


 ウィルは三名を纏めて抱きかかえる。


「お前達ウィル暗殺団は、俺にとって久遠や朝陽と一緒だ。……家族なんだよ。だから、死んだら泣いちまうぜ? 大泣きだ」


 ウィルの言葉に、三名全員が嬉しそうに笑う。

 ウィルも、固い表情を崩し笑みをこぼした。


 ウィル暗殺団の団長に対する忠誠度は、他の集団と比べて圧倒的に高い。

 それは全員が訳ありの事情を持ち、ウィルがそれを理解しているからというのもある。

 しかしそれ以上に――


 皆、ウィルの人柄に惚れ込んでいるのだ。


 この人に尽くそう、この人のために頑張ろう。

 そう思わせるほどの魅力を、ウィルは持っているのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ