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ビクトリア帝国戦記 改 【完結】  作者: 桒田レオ
第三章「ビクトリア帝国の日常」
10/24

一話


 翌日。

 ウィル、久遠、朝陽は親子水入らずで幸せに過ごしていた。


 昼下がりになって。

 朝陽は遊び疲れて寝てしまった。

 朝陽を寝室で寝かせたウィルは久遠と二人、自宅の庭で寛いでいた。

 草原の上で、ウィルは久遠に膝枕してもらっている。


「今日は楽しかった。この幸せな時間が永遠に続けばいいのに」

「ふふふ」


 久遠は微笑みながら、ウィルの髪を優しく撫でる。


「でも、この平和な一時はビクトリア帝国あってこそだ。……仕事、頑張らなきゃなぁ」

「……」


 久遠の表情が途端に険しくなる。


「……旦那様」

「なんだ?」

「旦那様はビクトリア帝国の死神、最強の暗殺者じゃ。ビクトリア帝国の領民達を影から守る、最も忌避される仕事を引き受けておる。立派じゃ。妾は誇りに思っておる。だがな……」


 久遠の表情は悲痛に歪んでいく。


「妾は心配でならぬ。旦那様が死んでしまったら……そうと思うと、夜もおちおち眠れない」

「久遠……」

「旦那様は妾に約束してくれた。絶対に死なないと。だが、もしも……そんな事を最近よく考えるようになった。旦那様は最強の暗殺者じゃ。だが、人間じゃ。死ぬ時は呆気なく死ぬ」


 ウィルは苦笑し、久遠の頬を撫でる。


「やめて欲しいか? 暗殺者」

「……ああ、やめてほしい」


 久遠は本音を吐露する。

 ウィルは罪悪感で表情を曇らせた。


「悪いな……もう暫くはやめられそうにない」

「ッ」


 久遠の頬に、透明の滴がこぼれる。

 それはウィルの頬に落ちてきた。


「俺が抜けたら、ビクトリアや他の奴等が無茶をする。アイツ等、俺がいないと駄目だから」

「旦那様……っ」

「でも、安心しろ」


 ウィルは指先で久遠の涙を拭う。


「俺は一番大切なのはお前達だ。……だから、今は無理でも、早めに引退するよ」

「本当か……?」

「本当だとも」

「約束じゃぞ?」

「ああ、約束だ」

「それまで絶対に死なぬと、重ねて約束してくれ」

「心配性だな。……俺がお前達を置いて逝く筈ないだろう?」


 ウィルが微笑むと、久遠は安堵の笑みを浮かべた。


「旦那様は約束を必ず守る。……妾は信じているぞ」

「ああ、だから泣くな。……お前の泣き顔は、胸が痛む」


 久遠が不意に、ウィルへ唇を重ねる。

 ウィルは瞳を閉じて、それを受け止めた。


 初夏の晴天。

 青空の下で、夫婦達は大事な約束を交わした。


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