プロローグ
貧困の惑星、ビルド。
森林地帯の砂漠化が深刻な問題になっている。
何時滅びてもおかしくないこの星にある孤児院に、四名の才覚溢れる子供達がいた。
「決めたぞ、お前達。よく聞け!」
外で遊んでいた子供達。
中でもリーダ格の金髪の少女が、天に拳を掲げた。
「私は王になる! この惑星……いいや、この世界の王となって、幸せを手に入れる!」
突然の発言に他の子供達は目をパチクリとさせた。
すると、一人の緑髪の少女がスッと手をあげる。
「なら、僕は世界一の魔導師になる。沢山勉強して、君をサポートしてあげるよ」
「うむ! 頼んだぞ!」
緑髪の少女の発言に、満足げに頷く金髪の少女。
彼女は他の子供達に視線を投げかける。
その意図を察した子供達は、我こそはと手をあげた。
「なら俺は世界最強の戦士になる! そんでもって、お前の敵を全員ブッ倒してやるよ! はっはっは!!」
銀髪の少年が豪快に笑うと、今度は桃髪の少女が恐る恐る告げる。
「なら、私は世界最強の騎士になります。……そして、皆を守ります」
「うむうむ! 皆素晴らしい目標だ!」
金髪の少女の瞳を輝かせる。
すると、遠くから少年少女達に声がかけられた。
「おーい、お前等。こんなところで何やってるんだ?」
現れたのは黒髪の青年だった。
歳は少年少女達よりもずっと上だ。
彼は孤児院で唯一の年長者であり、少年少女達の兄的存在だ。
「にぃ」
緑髪の少女がとてとてと黒髪の青年に駆け寄る。
そして、彼に抱っこをせがんだ。
黒髪の青年は微笑んで抱き上げる。
「兄貴!!」
「兄様」
銀髪の少年と桃髪の少女も、笑顔で彼に駆け寄った。
「お前等、何をしてたんだ?」
「おう! 将来の夢について語り合ってたんだ!!」
銀髪の少年が嬉しそうに言うと、黒髪の青年は興味深そうに顎を擦る。
「面白いな。俺も混ぜてくれよ」
「勿論いいぜ!!」
「兄様、こちらです」
二人に引っ張られ、黒髪の青年は金髪の少女の元までやってきた。
「ふっふっふ、兄さん。……今私達は、将来の夢について語り合っていたのだ!!」
「聞いたよ。で、皆の夢は何なんだ?」
少年少女達は彼に嬉しそうに夢について語った。
黒髪の青年は楽しそうに聞いていた。
「そうか~。皆ちゃんと夢を持ってるんだなぁ」
「僕、世界一の魔導師になって、にぃや皆を支えるよ」
「ありがとうな」
黒髪の青年に頭を撫でられ、緑髪の少女は嬉しそうに瞳を細めた。
「俺は世界最強の戦士になる!! そんでもって、兄貴や皆の敵をぶっ飛ばしてやるぜ!!」
「ハッハッハ、頼もしいな」
「私は世界一の騎士になって、兄様や皆を守ります」
「優しいお前らしい夢だな」
一通り聞いた後、黒髪の青年は金髪の少女に視線を向ける。
「お前は……王様になるのか」
「うむ!! 私が王となったからには、皆幸せにしてやるぞ!!」
「敵対する奴は?」
「ぶっ飛ばす!!」
「ハッハッハ、お前らしいや」
金髪の少女はにっと笑うと、黒髪の青年に問う。
「で、兄さんは将来の夢はあるか?」
「俺? 俺かぁ……」
「兄貴なら何でもなれるだろ!! 喧嘩強くて!! 勉強できて!! 優しいし!!」
「そんなことねぇよ」
銀髪の少年は瞳を輝かせる。
黒髪の青年は苦笑して、空を見上げた。
そして、少年少女達の顔を見比べる。
少年少女達は首を傾げた。
「……よし、決まった。俺は、暗殺者になるよ」
「「「「……」」」」
少年少女達はオーバーリアクションで引く。
「……物騒だな、兄さん」
「物騒だよ」
「物騒だ」
「物騒です」
「おいおいお前等、そんなこと言うなよ」
黒髪の青年は肩を竦める。
金髪の少女は怪訝な表情で彼に問うた。
「何で兄さんは、暗殺者になろうと思ったんだ?」
「んー、内緒♪」
「何!? 教えてくれてもいいじゃないか!!」
「駄目」
「ぶぅぅっ」
金髪の少女は頬を膨らます。
黒髪の青年は苦笑して、彼女の頭を撫でた。
金髪の少女は顔を真っ赤にする。
「ま、まぁいい!! よし、みんな! 集まって円を組むぞ! 肩を組み合うのだ!」
金髪の少女の指示を聞き、全員が肩を組んで円を作る。
「私はいずれ大帝国、ビクトリア帝国を作る!! そしたらお前達! 私の部下となって働け! これは命令だ!」
金髪の少女の発言に、黒髪の青年が「プッ」と噴き出した。
金髪の少女は敏感に反応し、顔を真っ赤にする。
「何がおかしい!?」
「だって……ビクトリア帝国って、お前の名前に帝国を付けただけじゃん」
「駄目なのか!!?」
「駄目じゃないけどさ……っ」
プルプルと震える黒髪の青年。
それに釣られて、他の子供達も震えはじめる。
「ええい! お前ら!! 失礼だぞ!! ふーんだ!! 私は絶対この名前は変えないからな!! 絶対だ!」
金髪の少女が腕を組んでツンとそっぽを向くと、子供達は腹を抱えて笑い始めた。
これは温かい過去の記憶であり、そして新時代の開幕宣言だった。
数十年後、広大極まりない三千世界の五割を支配下に置く大帝国が現れる。
帝国の名は、ビクトリア帝国。
貧困の惑星で誓われた少女達の約束は、果たされたのだ。
今から始まるのは、この大帝国を舞台とした物語。
主人公は、少女達の兄的存在である黒髪の青年だ。
暗殺者になることを誓った彼を主人公に、物語は進んでいく。