初の対人戦
DQNがこちらを敵と認識しているのはわかった。
今回の相手は人間だ。できれば殺したくない。
あえて戦わずに逃げるという手もあるが、見張りみたいに洞窟の前に立っているのはどうにも怪しい。
ここは無力化を狙って話を聞いてみよう。
そして、今回は忘れずに閲覧を使う。
「ほい、閲覧っと」
名前 ギーグ
性別 男
種族 人間
年齢 23
HP 126
MP 160
物理攻撃 74
魔法耐性 47
運 16
スキル
剣術 Lv.2
風魔法 Lv.2
――――――――――
ヤバい。
勝ってるところがHPしか無いんですが。
そして風魔法!!
ステータスにMPと魔法耐性の項目があったし、異世界だからあるんじゃないかなーなんて思ってたんだよね。
せっかくの異世界だし、魔法は使えるようになりたい。
「っんだてめえェ!!ボーッとしやがって。そんなに死にてェなら殺してやんよ!!」
おっと。
考え事してたらDQNがヒートアップしてる。
そろそろこちらも構えねば。
腰に差していたナイフを抜き、構える。
構えた瞬間、DQNはナイフを横に振るう。
すると、激痛が走る。
僕の胸が一文字にざっくりと切れていた。
「があっ!!」
痛みに膝を着きそうになるが、それを堪える。
恐らく、今のは風魔法だろう。
その証拠に、DQNのMPは5減っている。
わざわざナイフを振ったところから、風の刃を飛ばしているのかもしれない。
厄介な。
僕は臍を噛む。
こちらはナイフしか攻撃方法が無いのに比べ、向こうは風魔法による遠距離攻撃がある。
……どうするべきか。
悩むまでもない。
できるだけ魔法に当たらないように回り込みながら接近するしかない。
そうと決まれば行動するだけだ。
胸の傷の痛みに歯を食い縛りながら走り出す。
「なんだガキ、てめえ、魔法が使えねェのか?くはは、そりゃァいい!!なぶり殺しにしてやるぜェ!!」
僕が魔法を使えないのに気付き、口が優越感で歪む。
MPの残量なんか知ったことかとばかりにナイフが振るわれる。
肩、左腕、太股にざっくりと傷が付く。
わざと急所を外しているのだろう。末端にばかり傷が付く。
動けるならそれでいい。
ある程度近づいたところでナイフを腰だめにする。
あとはどんな攻撃が来ても突撃するのみ!!
足に力を入れ、地面を大きく蹴る。
特効に出たと気付いたのか、DQNがナイフを振りながら言った。
「敵わないと見て、特効か!?だが、残念だったなァ!!」
狙いはナイフを握っている右腕と首。
産み出された風の刃は真っ直ぐ突っ込んでいく僕に、狙い通りに届いた。
何の抵抗もなく落ちる右腕と首。
首が落ちる前に見えたのは、虐殺とも言えるほどの戦いに満足し、笑みを浮かべるDQNの顔だった。
だけど、まだ終わらない。
不死の特性によって死なない僕は、意識を保ち続ける。
そして残った左腕で、全力でDQNの鳩尾に向かって拳を振るう。
首を落とし、勝ったと油断していたDQNは避けることができない。
「ごふっ……!!」
為すすべなく、DQNは白目を剥いて崩れ落ちた。
首が再生し、視界を取り戻した僕は、DQNを見下ろす。
また致命傷を受けたけど、何とか殺さずに勝てて良かった。
そう思い、安堵の溜め息をついた。
そうして僕は思う。
この先僕は、人を殺さずにいられはしないのだろう、と。
早いところ、覚悟をきめないとな。
そう決意し、DQNを見る。
これじゃあ、話を聞けないよな。目を覚まされても戦闘になるだろうし。
このまま進んだ方がよさそうだ。
そしてゆっくりと、洞窟に足を向けるのだった。