女神のアドバイス
時間にして1,2時間歩き続けたところだろうか。
突然脳内にノイズが走るような、ザザザっ、というような音が鳴り響くと共に、声が聞こえてきた。
「……くん、千早君、聞こえますか?」
どうも女神の声っぽい。
女神の加護を通して話し掛けてきているのだろう。
こんなに早く接触してくるとは思わなかった。
「はい。聞こえますよ。あなたは女神レーナですか?」
「はい、そうです。あなたに与えた不死の特性がきちんと発動したのを確認したので、こうして話し掛けました。どうですか?転生も不死も、現実でしょう?」
「ええ、これが現実なのは痛いほどわかりました。」
そりゃあ、あんな激痛を何度も感じれば、嫌でも現実だってわかるよね。
「ふふっ、よろしい。それでは本題に入りましょう。あなたに与えた課題『生きる意味を見つける』ですが、漠然としていて、何をすればいいかわからないでしょうから、ちょっとしたアドバイスをしますね」
「アドバイス……ですか?」
「ええ、アドバイスです。ですので、それを聞いて実行するかどうかは、あなたの好きにすると良いでしょう。もっとも……」
「もっとも……?」
「……いえ、何でもありません。それではよく聞いてくださいね。こほんっ。それでは千早君。あなたは『困っている女の子を助けなさい』。きっと生きる意味を見つける上で、大きな意味を持つことになるでしょう」
女の子。
それを聞いた瞬間、胸に何か重たいものが沈み込むのを感じた。
美星を失った僕に、別の女の子と仲良くしろってことか?
……無理だ。彼女を差し置いて、のうのうと別の女の子と仲良くなるなんて、裏切るのと同じじゃないか。
彼女の後を追った僕が言える立場ではないが、とてもできそうにない。
「……そうですか。アドバイスありがとうございます」
「いいえ、どういたしまして。あなたからは何かありますか?」
「そう、ですね……」
僕は今日1日で疑問に思ったことを頭に浮かべ、質問してみる。
「あなたの疑問に答えることはできません。一からそれらを調べることも罰のうちの一つですから」
ですが、と女神は続ける。
「せっかくなので、レベルについての疑問には答えましょう。結論から言うと、私はレベルが嫌いなのです。戦ってもレベルが上がらず、ステータスが上がらないこともあれば、突然レベルが上がり、不自然にステータスが上がることが。戦ったら戦っただけ、鍛えたら鍛えただけ強くなる方が自然だと思うのです。ですからこの世界ではスキルは例外ですが、レベルという概念はありません」
「じゃあ、ステータスはどう言った基準で上がるんですか?」
「それはズバリ、『どれだけ命の危険がある戦いをしたか』『どれだけステータスに該当する場所を鍛えたか』です。つまり、この世界の強者は体を鍛え、何度も死線を潜り抜けてきた者達を指します」
そこで僕は疑問を覚えた。
「もしかして、僕の不死では命の危険がある戦いなんてできないんじゃないですか?」
疑問を口にすると、女神は答えてくれた。
「いいえ。あなたの不死は明らかな致命傷、それこそ首がなくなったりすると、死の一歩手前になります。それ以上はHPが減らないので死にませんが。ですので、あなたは戦うほどに強くなる可能性が秘められています。いわゆるチートですね」
チート。
生前、異世界モノを読んでいたときのテンプレとしてでてきていたやつだな。
自ら命を絶った僕に不死のチートなんて、文字通り罰でしかない。
「さて、そろそろ伝えることも無くなりましたので、通信を終わりますね。最後に一つだけ。この世界のステータスは見てわかる通り、項目が少ないです。つまり、ステータスは絶対ではありません。その事をきちんと頭に置いておいてくださいね。それではまた。頑張ってください」
一方的に喋っていくと、声は途切れた。
なんだか、疲れたな……。
いつの間にか空は薄くオレンジ色に染まっていた。
結構長く話していたようだ。
そしてふと疑問が頭に浮かぶ。
この世界、一日は何時間なんだろうか。