はじめての敵 後編
追い払うといっても、できればの話でしかない。
相手を殺さないように戦えるのは、圧倒的な戦力差があるときだけだと聞いたことがある。今回は、殺さなくちゃいけないかもしれない。
結局、不死になっても死なないだけで、戦う能力なんてないのだ。
できることと言えば――
目の前の狼は僕の頭(グロ注意!)を後ろに放り投げると、再び飛び掛かろうと構えた。
僕は先ほど腕を食いちぎられたときに取り落としたナイフを再び構え、飛び掛かってくるのを待つ。
次の瞬間、
――きたっ!!
再び目の前に狼が飛び出してきた。
また首を狙うだろうと予想していた僕はナイフを突き出す。
大きく開けられた口の中に向かって。
「はああぁぁあああ!!!!!!」
大きく声を上げ、口が閉じられる前により奥へと突き出す。
そう。今、僕にできるのは自分の身を犠牲にした攻撃だけだ。
――ぐちゅり
狼の口の奥で嫌な感触がする。
ナイフが喉の奥に深々と刺さったのだ。
致命傷を受けた狼が口を閉じることはなかった。
が、飛び掛かってきた勢いは消えない。
「ま、マジかよおおぉぉおお!!!!」
体当たりを受けた僕は狼と共に坂道を転げ落ちる。
口に突っ込んだままの右腕からゴギンッと嫌な音がした。
「あがっ!!うおお……、げふっ」
右腕の痛みに叫び声を上げる間もなく、首の骨が折れる。
散々転げ落ちた末、大きな木にぶつかってようやく止まった。
「おー、いてて……。って、ん?」
首の骨や腕の傷は再生したものの、残った痛みに顔をしかめていると、あることに気がついた。
狼の死体が半透明化していて、どんどん透明になっていっているのだ。
ぽかんと見ているうちに、狼の死体はなくなってしまった。
そこに残ったのは、先程突き刺したナイフと、青い謎の結晶だ。
「おっと、そうだ。鑑定っと」
実は狼に閲覧を使うのを忘れていたのだ。
まあ、普通は命の危険を感じたら、咄嗟にそこまで考えが回らんよね。
そして、表示されたのはこれだ。
【ブラックウルフの魔石】
ブラックウルフの魔石。2級
―――――――――――――――
「魔石、ね……」
魔なんて字面から、やはりさっきの狼は魔物なんだったんだろうか。
2級ってのはそのまま、魔石なるものの等級だろう。どれぐらいレアなのかはわからないが。
とにかく、今回の戦闘で得られたのは魔石と不死の有効性ってところか。
激しく動いて腹も減った事だし、なんとなく自分のステータスを眺めながら食事を取る。
名前 皆川 千早
性別 男
種族 人間
年齢 17
HP ∞
MP 120
物理攻撃 41 ↑UP
魔法耐性 13 ↑UP
運 8
スキル
閲覧
鑑定
剣術 Lv.1
特性
言語理解
不死
女神の加護
―――――――――――
「おお、上がってる」
ステータスの内、物理攻撃と魔法耐性が若干上がっていた。
一体何が基準でステータスアップするのかわからないが、さっきの戦闘が原因なんだろう。
わからないことが多すぎるな。早く山を降りて、人と接触するのが最優先……かな。
いつの間にか太陽(的なもの)は南中を過ぎていた。
山を降りられないまでも、洞窟とか、どこか休めそうなところを探した方が良さそうだ。
僕は生き物を殺した罪悪感を振り払うように、その場を後にした。