はじめての敵 前編
ステータスを見ていてあることに気づいた。定番のアレがないのだ。
そう、レベルだ。
ゲームでは敵を倒してレベルを上げ、ステータスを上げていた。この世界ではどうやってステータスを上げるんだろうか。
考えてもわからない疑問は置いといて、生きる意味を見つけることについて考えよう。
恐らく、これは女神が納得しないと見つけたことにならないだろう。不死を無くせるのは女神だけなんだからな。
こんなものすぐに見つかるわけがない。好きな人を亡くして自分も後を追ったのだから、そう簡単に見つかってたまるかってんだ。別の女の人を恋愛対象として見るのも無理だろう。
とりあえずこれからやることはこの世界を見て回ることかな。そもそも女神から何の説明も受けてないし。
目下の問題はこの山がどれぐらいの規模で、抜けるのにどれぐらいかかるか、だ。
サバイバル知識もないし、坂道を下ることしかできないから、とにかく歩こう。
そうして、道なき道を歩いていると、背後からガサガサっと草を揺らす音がした。
こんなステータスなんかがある世界なんだから、もしかしたら魔物なんてものがいるかもしれない。
そう考えていた僕はその場で立ち止まり、腰に下げていたナイフを構えた。
息を殺して相手の出方を伺う。
暫しの空白の時間が訪れる。
そして次の瞬間、黒い塊が飛びかかってきた。
「グルアアァァアア!!!!」
噛みつかれるギリギリのすんでのところで横に回避し、相手を見る。
狼だった。
真っ黒い毛並み、全体で2mほどはある大きな狼だ。
ヤバい!!
頭のなかで警鐘が鳴り響く。
たった17才の日本人が狼相手に余裕かますなんて土台無理な話だ。
逃げに徹すべし!!
そう判断した僕は木で身を隠しながら全力で下に向かって走る。
が、
「うあああああぁぁぁあ!!!!!!」
右肩に激痛が走った。
右腕が、ない。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!!
余りの痛みに噛み締めた唇を噛み切り、血が流れる。前に目を向けると、僕の腕をくわえた狼が立っていた。追い越し様に腕を食いちぎったのだろう。
絶体絶命。
痛みで朦朧とした意識のなかで、そんな言葉がふと浮かんできた。
狼は今にも飛び掛かろうと構えている。
次はどこを食いちぎるんだろうか。
どうしようもないと悟ってか、我ながら妙に余裕のある考えが浮かんでくる。
何を悠長な……なんて思いが自分の頭の中をよぎった瞬間、目の前に口を大きく開けた狼がいた。
――あかん。これヤバいやつや。
そして避ける間もなく大きな衝撃と共に、視界はブラックアウトしたのであった。
BAD END
……いやいや、ちょっと待ってくれ。
転生一日目でいきなり狼に食い殺されるなんて、ツッコミの一つでも入れないと気が済まない。
というか、死んでないから!!
……なぜこんな余裕たっぷりで漫才みたいなことをしているかと言うと、思い出したのである。
何について?
不死について。
食われる瞬間、僕はこう思った。
あれ?そういえば僕って不死じゃん、と。
その瞬間にバクリッですよ。
どうも頭はなくなったみたいだけど、意識はなくならなかったみたいだ。
そうこう考えているうちに、視界が戻った。
頭が再生したのか、生えてきたのか、それはわからない。知りたくもない。
ちなみに右腕は服ごと戻っていた。なんて便利設計。
目の前には頭をくわえた狼がいた。
……若干怯えてるような気がしないでもないな。
まあ、細かいことはあとだ。
さっさと追い払おう!!