女神の世界
「……白い」
目を開けると真っ白な空(と言えばいいのだろうか)が広がっていた。
回りを見渡しても、地面を見ても、あるのは白、白、白。
ひょっとするとここが死後の世界なんだろうか。
「目が、覚めたようね」
突然背後から声が掛けられた。
振り替えるとそこには一人の女の人が立っていた。
美しい。
素直にそう思った。
優しい目付き、口元には微笑みを浮かべた、銀の髪をした涼やかな雰囲気を纏った人だ。
「おはようございます。皆川千早君」
「えっ?」
初対面のはずなのにフルネームを呼ばれた。
「え、えっと……、あなたは誰ですか?それと、ここはやはりあの世なんでしょうか」
「私はレーナ。女神をしています。そしてここはあの世ではなく、私だけが存在する世界です」
微笑みをたたえながら女性が答える。
「あなたは確かに死にました。ですが、私はあなたの死が許せませんでした。長峰美星はあなたを心配し、幸せを願っていました」
……っ!!
なぜここで美星の名前が出てくるんだ!?
「なぜ美星を知っている?って顔をしていますね。いいでしょう。はじめから説明しますね」
女神は語り始めた。
どうやら、このなにもない真っ白な世界にはたまに、死後の魂が迷い込んでくるそうだ。そして、美星はこの世界に迷い込み、女神と出会ったようだ。
「美星は千早君のことを随分楽しそうに話していましたよ。お互いに想いあっていて、毎日が幸せだったと」
「そう、ですか……」
「そして同時に、あなたを心配していました。自分が死んでしまって、千早君がこの先しっかり一生を全うできるか、と。」
思わず俯いてしまう。僕は彼女の思いを無視してしまったのだ。
「美星はあなたの幸せを望んでいました。しかし、あなたがとった行動はそれを裏切るものでした。だから許せなくて、死んだあなたをここに呼び寄せたのです。」
「僕をどうするつもりですか?」
「あなたを別の世界に転生させます。そこで、新たに生きる意味を見つけてきてもらいます」
転生。そんなことができるのだろうか。ここに来てから信じられないことばかりで混乱してくるな。
でも、もしそんなことができるならもしかして――
「もしかして美星は転生してるんですか?」
若干の希望を持たせつつ女神に聞いてみる。
しかし、彼女は首を横に振った。
「いいえ、美星は転生していません。彼女は自分の一生に満足し、輪廻の輪に乗りました。よって、長峰美星はもう存在しません」
小さな希望は打ち砕かれた。やはりもう、2度と美星には逢えないのだと。
「……もし転生しても、またすぐに死ぬかもしれませんよ?」
「そんなことはさせません。あなたには不死の特性を与えます。生きる意味を見つけない限り、あなたは死ねません。これから時間をかけてたくさん苦労をし、命の大切さを知ってもらいます」
不死、ね。そんなファンタジーがあるもんか。
まあどちらにしろ、美星のいない世界に意味なんてない。生きる意味なんて見つかるわけがないんだ。
「さて、そろそろ転生してもらいましょう。必要最低限のものは用意してあるので安心してくださいね。転生者には閲覧、鑑定のスキルが付与されます。ステータスと念じれば自分のステータスが表示されますからね。それでは、女神の加護があらんことを」
あんたが女神だろ!なんてツッコミをする暇もなく、眩しい光に包まれ、意識を手放した。