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自己紹介

洞窟を出て暫く歩いたところで腰をおろして休憩をする。


「えーっと……、そろそろ自己紹介くらいはしようと思うんどけど、いい?」


「はい、わかりました」


ある程度落ち着いたのか、女の子の返事に怯えなどは見えない。


「それじゃ、食事でもしながら話そうか」


ポーチから干し肉とリンゴ(らしきもの)を二人分取り出し、一人分を渡す。


「はいどうぞ」


「ありがとうございます」


「えーと、まずは名前かな。僕は皆川千早。よろしくお願いします」


「ご丁寧にありがとうございます。私はティアと言います。えと、先ほどは助けていただき、ありがとうございました」


女の子 ―― ティアは名乗った後、お礼を言ってペコリと頭を下げる。


「ところであの、もしかして貴方は貴族の方ですか……?」


そろそろと言い出すティア。

僕の自己紹介のどこかで貴族じゃないかと思ったのか、さっそく質問をしてきた。

と言うか、この世界には貴族がいるのか。


「いや、僕は貴族じゃないけど、どうして?」


「いえっ、名字があるようなのでもしかしたら、と……」


そう言いながら、首をブンブン左右に振っている。

随分可愛らしい仕草だ。


……それにしても貴族か。いきなり無知を晒してしまったな。このまま話してると不審に思われるかも。何とか誤魔化さないと。


「実は僕、記憶喪失なんだ。名前も千早としか覚えてなくてね。それっぽい名前を名乗ってるだけだから貴族じゃないんだ。それと、他の知識なんかもあやふやでね。いろいろ分からないことを覚えている最中なんだ」


ええいっ、勢いでごり押しだ!!

それにしても、よくもまあこんなにぽんぽんと出任せが出てくるもんだ。


「この山にいたのも、記憶を取り戻す為の旅をしていてたまたま迷い混んだだけなんだよね」


とりあえず、最低限の辻褄は合ったかな?

後は信じてもらえるのを祈るのみ!!

そう思い、そろそろとティアの顔を覗き込む。


「ご、ごめんなさいっ!!失礼なことを聞いてしまったようで……!!」


めちゃくちゃ申し訳無さそうな顔して謝罪を口にするティア。

なんて純真な子なんだろう。

少しも疑うことなく信じてしまった。

……まあ、信じてくれるなら楽でいいんどけどね。


「いや、気にしなくていいよ。それで、ティアはどうしてあんなことに?」


そろそろこちらの番かと思い、疑問を口にした……ところで気が付いた。

これって聞いちゃいけないやつなのでは。

もしかしたらトラウマになってるかも……。


「ご、ごめん。辛かったりしたら話さなくてもいいからっ!!」


慌ててそう付け加える。

しかし、ティアはそれを微笑みながら否定し、話始める。


「お気遣いありがとうございます。ですが、大変なことになる前に助けていただいたので、私は大丈夫です。……えと、こんなことになった原因はですね……」


ティアは山の麓の村の住民で、都市部にある学校に寮に住み込みながら通っているそう。そして、長期休暇になったので両親の手伝いとして薬草を採りに山に入り、二人の男に捕まったらしい。で、後は僕も知っている通り。目が覚めたらあんなことになっていたと言うわけだ。


「そういえば、ティアは麓の村の住民なんだよね。もしよかったらそこまで案内してもらえないかな?」


「はい、もちろんです。方角もわかるので大丈夫ですよ。多分明日の昼頃には到着すると思います。実はここも見覚えが有るんです」


「そっか。それじゃあ頼むよ」


「はいっ」


案内をお願いすると、快く承諾してくれた。


「じゃあ、日が暮れるまでは歩こうか。案内お願いするよ」


「はい、それでは着いてきてくださいね」


そう言って二人は歩き出したのだった。



暫く休憩を挟みながら歩くと、いつの間にかオレンジに染まった空は闇へと変わり始めていた。


「今日はこれぐらいにして休もうか」


そう言って立ち止まる。

さすがに今日は疲れた。お腹になにか入れたらすぐにでも休みたい。


「そうですね。わかりました」


ティアも疲れているのだろう。

早く村に帰りたいだろうに、休みをすぐに受け入れた。

そして、辺りに散らばっている木の枝などを集めてくる。


「何を集めてるの?」


「なにって、火を起こすので薪になるものを集めてるんですよ」


「……悪いけど僕、火を起こせないよ」


「私は火石を持ってますから大丈夫ですよ」


そう言ってスカートのポケットから赤い石を取り出す。

火打石みたいなものだろうか?


「それでは火を起こしますね」


ティアはそう言うと、石を握った手に力を込めたように見える。

するとどうだろう。

一瞬にして薪に火が着いていた。

よほど僕が驚いた顔をしていたのだろうか、それを見てティアは記憶喪失の設定を思い出したようだ。


「えと、これは火石といってですね、火の魔力が籠もった石です。魔力を流すと反応して火を起こせるんです」


火打石より便利なものだった。



火を挟んで僕ら二人は向かい合って座っている。

空は完全に闇に染まり、周囲は火の明かりが届かないところは真っ暗だ。


夜ご飯を食べ終え、二人はなんともなしに静かに燃え盛る炎を見つめていた。

ボーッとしていた千早はあることを思い出す。

ティアのステータスを見ていない。

別にプライバシーが、とか、覗き見は信用が、とかの理由ではなく単純に忘れていた。

癖になるまでは意識して積極的に使っていこう。

そう決意すると、少しばかりの罪悪感を感じながら呟く。


「閲覧」


―――――――――――――――

名前 ティア

性別 女

種族 人間

年齢 16歳


HP 110

MP 230

名前 皆川 千早

性別 男

種族 人間

年齢 17


HP ∞

MP 120

名前 皆川 千早

性別 男

種族 人間

年齢 17


HP ∞

MP 120

物理攻撃 36

魔法耐性 58

運 16


スキル

回復魔法 Lv.3

水魔法 Lv.2


特性

吸血鬼


――――――――――


あれ?想像よりもステータスが高い。

というか……


「吸血鬼?」


思わず呟いた言葉に、僕と同じく炎を見つめていたティアの肩がビクッと跳ねた。

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