閑話
美星は何でもやりたがる女の子だった。
小学校の頃は学級委員や応援団。中学校では生徒会長やボランティアなど、人がちょっと嫌がるようなことも積極的に立候補していた。
高校に入学してすぐの頃だろうか、何で自分から面倒なことをするのか尋ねたことがある。
すると、美星は笑っていった。
「やっぱりかっこいいからかな。でね、そんな自分が好きになれるから」
かっこいいと思って行動してるらしい。
何とも彼女らしい答えだった。
そんな彼女は当然モテた。
そりゃ、容姿も整っていて、常にみんなの前に立つ明るい女の子なんてモテるに決まっていた。
よく告白の手紙をもらっている姿を見たものだ。
困ったような顔をしてどこかに向かう姿もよく見た。
大方、告白のために呼び出されたのだろう。
なぜか心の奥がざわつく様な、モヤモヤしたものが付いて離れなかった。
しかし、美星は誰とも付き合わなかった。
学校一のイケメンと名高いバスケ部の先輩に告白されても、頑として付き合わなかった。
僕はなぜだか嬉しかった反面、どうしても疑問に思った。
そしてそれはある日の帰り道、ついに質問として口にする。
「なあ、何で美星は誰とも付き合わないの?あんなにモテてるのに勿体ない」
すると、美星は顔を少し赤らめて言った。
「いい女っていうのは恋をしているものだから。もう好きな人がいるのに、他の人とは付き合えないよ」
そう言って顔を背けた。
――もしかして。
そんな思いが僕の頭の中を占めた。
いやいや、そんなわけない。自意識過剰すぎだろ!!
そうやってその場で浮かんだ考えを必死で否定するのだった。
僕と美星の関係が変わったのは高校二年の時だ。
修学旅行の時である。
「私、千早が好きなんだよね」
「はっ!?」
突然だった。
バスでの移動中、僕と美星は隣同士の席だった。
その時僕はボーッと景色を眺めていた。
そこでいきなり告白されたのだ。
吃驚して隣を見る。
ニコッと笑った美星がそこに居た。
いきなりで吃驚したが、冗談か何かだったのだろう。
「いきなり驚かすなよ。それに、せっかくの冗談ならもっと笑えるやつを頼む」
冗談とはいえ、告白されたのだ。
僕は少しドキドキしながら答えた。
すると、
「冗談なんかじゃ、ないよ」
美星は僕を上目遣いで見ながら答えた。
「それでね、私と付き合ってください。……返事はすぐじゃなくていいよ。よく考えてね」
そう言って目を逸らした。
私と付き合ってください。
その言葉は何度も頭の中をぐるぐる回る。
なぜ僕を?とか、
いつから僕のことを?とか、
本当に冗談じゃないのか?とか、いろいろな疑問が頭を埋め尽くす。
僕自身の気持ちもよくわからない。
少なくとも嫌いではない。
嫌いならそもそもこんなに長い付き合いはなかっただろうから。
でも、好きかと聞かれたら……わからない。
僕にとって美星は隣にいて当たり前だった。
でも、だからと言って好きかどうかはわからないのだ。
僕が美星と付き合った未来なんてあまり想像できない。
そこまで考えてふと、ある想像ができた。
それは、ずっと二人が寄り添っている未来。
付き合っているかはわからないが、ずっと一緒にいる未来は想像できる。
これが答えなんだろうか。
――これが、好きって気持ちなんだろうか。
だとしたら伝えないといけない。
心臓を鷲掴みされるような緊張が襲う。
カラカラに乾いた喉を震わせ、必死で声を出した。
「あのさ……美星。」
「ん?どうしたの?」
美星はいつもと同じように返事をするが、何だか表情が堅い。
もしかしたら僕も同じような表情をしているのかも。
「僕は、美星を好きかどうかはわからない。でも、ずっと一緒にいる未来は想像できた。もしかしたらこれが好きって気持ちなのかもしれない。きっと、僕は美星が好きなんだと思う。そんな僕でよかったら、付き合ってください」
言い切った。
どこか緊張で声が震えていたかもしれない。
顔も恐らく真っ赤だろう。
でも、思ったことはきちんと伝えられたはずだ。
「……嬉しい」
美星は呟くようにそう言った。
「ありがとう千早。私のことをはっきりと好きっていってもらえるように頑張るから、これからもよろしくねっ!!」
そして、向日葵が咲いたような眩しい笑顔を浮かべるのだった。
こうして、皆川千早と長峰美星は恋人同士になった
。
ちなみに、当然この告白は周りにしっかり聞こえていたようで、クラスメイトには修学旅行中ずっとからかわれ続けたのだった。