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8話 ヘレンの願いは俺を強くさせる

 多くの指揮官と共に街門へと急ぐ。


 ふと斜め前を見るとレッチと思しき少女がいる。

 この街であの装備は珍しいのでこんな時でもかなり目につく。


「レッチ!」


 脚を速めて接近した所で声を掛けた。

 レッチは驚いたようにこちらへ振り向くと、厳しい顔をしながら軽く会釈して前を向きなおした。


「どうなってるんだ?」

「かなりまずいかもしれないわね。この街が襲われる事なんて今まで無かったのに……」


 全速力で走りながらもなるべく現状を把握する事に努める。

 襲ってくる悪魔の強さによってはかなりの被害を出す事になるだろう。


「まずいって具体的には?」

「この街にいる指揮官のレベルは低いだけでなく、ここには編入可能な戦士がいないの」


 忘れてた。

 そう言えばゲームもそういう仕様だったな。

 だけど数多くある街の内、ここだけは防衛クエストが発生しないとも言われていた。


 しかしこうして実際に悪魔が襲って来た訳だ。


「しばらくすれば転移ゲートを使って王都からの援軍が来るはず。問題はそれまで持ちこたえられるか……」


 ついに悪魔軍が街門へ攻撃を始めた。

 視線の先からは何かが衝突するような爆音とともに真っ赤な炎が立ち昇る。


 それでも尻込みして引き返すなんて言う指揮官がいなかったのが唯一の救いか。


 ひとまずの安堵を抱く。

 するとヘレンが密着に近い距離で何やら耳打ちをしてきた。


「わたくしの予想では援軍到着前に街門は破壊されこの街は占領されると見ています」

「根拠は?」

「今までこの街の指揮官達を見て来たからです。志の高い者は次々とここを後にして、より強い戦士を得る為に冒険に出るからです」


 確かにその通りだ。


「ですからケイ様。どうかお力を(ふる)っていただけませんか?」


 正直言って、俺がこの街の為に戦う理由やこの世界を救う事への動機は薄い。

 しかしヘレンがそう言うのであれば話は別だ。

 元いた世界の俺だったら逃げ惑う民衆に紛れて避難していたことだろう。

 アリーナでも思ったが、この世界にきてチートを手に入れてからは不思議と戦意が湧いてくるのだ。

 ヘレンの願いを聞いた今、それは膨れ上がっている。


「分かった。どこまで出来るか判らないけど今できる最大の努力をしてみようか」


 ヘレンは一瞬うっとりしてから満面の笑みを浮かべた。


「さすがは我らの指揮官様です! わたくしも可能な限りお力添えいたします!」


 光の守護者と言う二つ名は伊達じゃないって事を俺は知っている。

 あの能力がここでも発揮されるのであれば、こんなに頼りになる味方などいない。


 そうと決まれば前線へ出る前に作戦を立てておかなきゃな。


「レッチちょっと止まってくれ」

「どうしたの? 急がないとみんなが……」

「作戦を立てるぞ」


 レッチの言葉を最後まで言わせずに、有無もない迫力を以て制した。


「ヘレンは上空から状況を偵察してきてくれ」

「はい!」


 返事と同時に純白の翼を大きく広げる。

 一気に真上へと上昇し、街門へ弾き飛んでいった。


 レッチはそれを呆然と見つめている。


「あの子何者なの?」


 しかしすぐに我を取り戻すと率直な気持ちを吐露した。


「ヘレンは精霊だよ」

「こんな時に冗談言わないでよ。ハーピー族の戦士とかじゃないの?」


 この世界には様々な種族がいる。

 人類もハーピー族もその中のひとつでしかない。

 ただし多くの戦士は人間以外の種族が担当している。

 と、高級レストランでレッチから教わった。


「ひとまずそれは置いておこう」

「わかったわ」


 レッチが落ち着いたところで俺はインベントリから無数の武器を地面に出し続けた。

 最大まで拡張した総所持数は1000を超えている。

 この中にはガチャで輩出した武器が多数眠っていたのだ。


「何なのこれ?」

「レッチはそこらへんの指揮官をとっ捕まえてこの武器を前線へ運んでくれ。壊れようが盗まれようが気にするな。不要なものだからな」


 ボロボロと出て来る武器の山に、それまで素通りしていた指揮官もさすがに立ち止まって異様な光景を見つめている。


 ちょうどいいこいつらにも運ばせよう。


「おーい! ここの武器好きに使っていいから皆で門まで運んでくれー!」


 見る間に人だかりができた。

 各々えり好みする暇もなく片っ端から武器を抱えて走り出していく。


「なんかよくわからんがありがとよ兄ちゃん」

「よっしゃぁぁっ、これで悪魔をぶっ殺すぞぉ!」

「この弓すごい攻撃力じゃねえか、これなら悪魔もボコボコだぜぇ!」


 この程度で士気が上がれば安いもんだ。

 そして最後、レッチにはとっておきを渡しておく。


「レッチはもしかして『エレメンタル』って言うスタンス持ってるんじゃないか?」


 キョトンとした反応を示すが、すぐに首肯して不思議な顔を浮かべている。


「そうだけど、なんで分ったの? 誰にも口外してなかったのに」

「なんとなくだよ」

「嘘……勘だったの?」


 よほど知られたくなかったのか少し落ち込ませてしまったらしい。


 実は以前アリーナでの戦いを観戦した時に一目見て分かったんだけどね。

 杖の構え方で使用スタンスが分かるなんて信じてもらえないだろう。


 ひとまず今はこれでいい。

 真実は後で丁寧に解説すればいいだけの事だ。


「勘でもなんでもいいさ。それよりもこの杖を持っていくといいよ」


 俺は懐から隠し持っていた「ロードオブエレメンタル」と言う星6の杖を取り出して渡した。


「これは?」

「レッチのスタンスが最大限活かされるとてもありがたい杖だよ。ウィンドウで使い方をよく確認しておいてね」


 さあ、こうしている間にも悪魔の猛攻は続いてるはずだ。

 俺はレッチの返答も待たずにスキルを準備する。


「先に行ってるからな」


 称号スキル『ヘイスト』を発動させ、一瞬でレッチを置き去りにしていった。


 目指すは街門真上の見張り台だ。

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