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4話 ヘレンちゃんに包まれて

「さ、さて、宿屋でも探すか」


 ど、どうしよう。

 指揮官レベルが6になりコスト上限も11になった。

 いざ対面となると緊張で思考がまとまらなくなってしまう。


 指揮官ギルドの外はまだ青空が広がっている。

 これから宿屋に行っても例のイベントにはまだ早すぎる。

 それまでに少しお話をして、親交を深めてからイベントに臨むっていう手もありだ。


 そもそも、ここでもイベントが発生するかまだ不明な訳だしな。


「さ、さて、宿屋でも探すか」


 ギルドの石壁に寄りかかったまま動けなくなること30分程が経った。

 街に「ゴーン」という鐘の音が響き渡る。

 

 控室で聞いた鐘の音が12時の報せなので、今のが15時の鐘なのだろう。

 この街に唯一存在する時計台でのみ時間を確認することが出来る。その時計台に吊るされている鐘が3時間おきに報せを届けてくれるのだと言う。


 少し街の散策でもしてみるか。

 ヘレンちゃんも副官任命イベントも逃げる訳じゃ無いしな。


 ようやく俺の背中はギルドの石壁から離れることが出来た。


 それにしても不思議な感じがする。

 異世界に来て、普通じゃ考えられない様な戦闘もしてきた。

 それ以上にこの街並みを見て実感する。


「異世界なんだよな、ここ」


 木造の建物の中に少しだけある石造りの建物や石畳で舗装された道路。

 そこを車なんか通る訳がなく、代わりに馬車が蹄鉄を鳴らしてゆっくり走っている。


 大通りから少し逸れると、大きな川が並走するように流れている。

 向こう岸には大きな森が屹立していて、新鮮な景色ばかりが目に飛び込んでくる。


 小高い丘を登ってそこから見下ろすと緩やかなせせらぎの綺麗な川が落ちかけた陽光を反射していた。


 こんな所で好きな子とデートしたら楽しいだろうな。


 川岸では小さな子供たちが水遊びをし、それを少し離れた所で眺める母親たち。


 ギルドへ向かうときは全くいなかった住民たちだが、いつの間にか街が活気づいている。


 アリーナに籠り始めたのが11時頃だったから、この世界の人たちは朝が遅いのだろうか。

 元いた世界とここで色々と違うのは当たり前かもしれない。


 そうだこれから俺はこの世界でヘレンと暮らしていくのだ。


 そう考えたら唐突にこの景色をヘレンにも見せてあげたくなった。

 気分が高まってきたから、ただ単にこの景色を一緒に見たいだけなのかもしれない。


 そんな勢いに任せてウィンドウを表示させる。

 戦士一覧を星の多い順にソートさせると一番最初に出て来るのが聖騎士ヘレンだ。


 いつまでもビビってたってしょうがないんだ。

 むしろこんな幸せが他にあるか?


 聖騎士ヘレンに指を触れると『部隊に編入しますか?』というテキストが表示された。


「編入させます!」


 清水の舞台から飛び降りるつもり、ってのはまさにこの事なんだな。

 小刻みに震える指がYESの文字に触れた瞬間。


 目の前に一筋の光が現れる。

 これは祭壇に出現したオネスティの時と同じだ。


 光が霧散するとそこには、愛してやまない聖騎士ヘレンの姿が現れた。


「お呼びいただきありがとうございますケイ様。この身朽ち果てようともあなたの盾となりますことを誓います」


 うおおおおおっ!

 こんなところまでゲームの時と同じじゃないか!


 その美貌はゲーム画面で見たそれとは比べ物にならない程に美しい!

 興奮がおさまらなくて言葉が出ない。


 こんなの失神してもおかしくないぞ。


 暖かい風に抵抗する事なく流れる真っ直ぐで綺麗な髪。それが腰まで金色に輝かせていている。

 そんな神々しい光をバックに俺を見つめる慈悲深い笑顔。

 極めつけは背中にはためく二枚の翼。その周囲には煌めく粒子が舞っている。


 俺には直視できない。

 そう思っていたが、不思議な力に引き寄せられて逆に視線が釘付けになる。

 まさに天使そのものじゃないか。


 露出度の高い真紅の軽鎧に真紅の大盾を持ち、ロングブーツを履いている。

 どこをとってもゲームの時のままだ。


 いやそれ以上だ。



 呆然としている俺にヘレンは改めて微笑んでくれた。

 徐々にその笑顔の度合いが増していき、まるで歓喜してるような顔つきになっていった。


 この後俺にここまでの人生で最高潮の瞬間が訪れた。


「お待ちしてたのですよケイ様! わたしはあなたのような指揮官をずっと待ち続けていたのです!」


 そう言いながらヘレンはもの凄い勢いで俺に駆け寄る。

 抑えきれない感情をそのまま俺に向けて来た。

 その瞬間はきっと死ぬまで忘れないだろう。

 

 『ドンっ!』という衝撃と共にいい匂いがした。

 ヘレンの両腕が俺の後頭部に回されてきつく抱きしめられていた。

 

 こんな事あるのか……。

 甘い香りがするんだなぁ。女の子っていい匂いするんだなぁ。


 きつく抱擁されながら、視界は真っ暗になっている。

 

 非現実すぎて気付くのが遅れたが、どうも俺の顔は何か柔らかい物に埋まっている気がするんだ。


 ……。


 そう、俺はヘレンの谷間に顔を埋めているのだ。

 その感触がゆっくりと神経に達する。

 それに合わせて腰掛けていた土手に倒れ込んでしまう。

 ヘレンもそのままもたれかかるように覆いかぶさった。


 な、なんなんだこの柔らかさは!

 軽鎧着てて尚こんな感触が伝わるなんて!


 やばいやばいやばい。

 意識が薄れてきた。血液がどこかに集中しちゃってるのかもしれない。


 いや、そうじゃないかった。

 これ単純に呼吸できてないだけじゃないのか?


 必死に手足でもがくけどヘレンは気付いてなさそうだ。


 意識が遠のいていく。

 ダメだ。これ気絶しちゃう……わ。



 こうして刺激的を通り越して衝撃的な再会(初対面だけど)となったのだった。

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