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3話 ヘレンまであと少し

 指揮官用の武器にもレアリティが設定されている。

 これももちろんガチャで大量にゲット済みだ。


 右手には星6の片手剣『デーモンスレイヤー』を握る。

 両手剣のように長く大きいので、それを片手で持つ姿は異様に映る。


 左手にも星6の拳銃『ドラゴニックリボルバー』を持っている。

 両方とも物理系の武器ではあるが、魔法攻撃にも対応しているユーティリティウェポンだ。



 目の前の対戦相手はさっきから俺の歪な戦闘スタイルを見てニヤニヤしている。

 それだけならまだ良かった。

 ついには大胆にも挑発してきた。


「おいおい、クックック。お前そりゃなんの真似だ? 両手剣を片手で持って、もう片手に拳銃だと? 受付で武器の扱いから学んで来いよ」


 どこの世界にもいるんだなぁ。

 嫌味っ気たっぷりで人を馬鹿にするこの手のクズは。

 きっと弱者と見るや全力で叩くような人種に違いない。

 この挑発に決して多くない観客が一斉に笑い出した。


 まあいい。

 ヘレンとの再会の礎になってもらう。


『次の試合はゴッダス様とケイ様の試合です。異議がなければ両者準備完了とみなして進行します』


 大丈夫だ。いつでもいけるぞ。


『制限時間は10分。戦闘不能、もしくは降参したら負けです。死に至らしめる攻撃は失格、即ギルド追放となる為注意してください。それでは試合開始!』


 どうやら始めていいみたいだ。

 外野が一斉に騒ぎ始めて気が散るったらない。


 ゴッダスとか言う男はいかにも雑魚っぽい。

 まさにテンプレって感じの風貌をしている。

 安い皮鎧を厳つい身体に装備して、右手には両手斧を持っている。

 そしてなによりスキンヘッドで目付きが悪い。


 俺の中ではまさしくMobでしかない。


「何を睨んでやがる? アリーナは初めてかよボウズ? そっちから来ないなら遠慮なくいくぜ~!」


 不思議な事に気付いた。

 俺はこんな戦闘はおろか喧嘩なんてした事のない大人しいニートだ。

 そんな日常とかけ離れた出来事に対峙しているって言うのに、まったくと言っていい程に平静を保っている。

 それどころかいい感じに戦意が高揚しているのは何故なのだろうか。


 まあいい。

 とりあえずこいつを倒そう。


「おらおら~! 避けないと真っ二つになっちまうぞ~!」


 ゴッダスは両手斧を上段に振りかぶりながら突進してきた。

 観客からは大歓声が湧き起っっている。

 こいつのクラン仲間か何かだろうか?


 戦いに集中しよう。


 そう決めてゴッダスに視線を向けた時だった。

 猛スピードで突っ込んでくるゴッダスが急にスローモーションになる。


 なんだこれ?

 動きが遅すぎて逆に待ってられないな。この隙に拳銃魔法でも使ってみるか。


 半身の体勢で剣を肩に担ぎながら左手の拳銃を構える。

 撃鉄は念じるとこちら側に倒れ氷魔法『アイシクルバインド』を待機させた。

 照準をゴッダスの足元に定めて引き鉄を引く。


 氷の蔦を足に絡ませて対象の動きを封じる。

 さらに凍傷効果で徐々にHPを削る便利魔法だ。


 ゴッダスは雄たけびを上げながら突っ込んでくる。

 急に動けなくなり足元に目を移している。

 そして足元から生えて来る氷の筋に混乱し始めた。


「な、なんなんだこれぇ! 足がぁぁ! 俺の足がぁぁぁ! 動かなくなっちまったぞぉぉ!」


 まったくうるさい男だ。

 氷魔法は初見なのか?


 本来なら膝上くらいまでにしか効果は及ばない。

 だがゴッダスは腰上まで氷漬けになってしまっている。


 もしかすると雑魚すぎて効果範囲が広がったのかもしれない。


「うわぁぁ、まいった! 降参だ降参!」


 勝負は呆気なくついた。

 スピーカーから試合終了のブザーが鳴らされる。


『勝者ケイ様です。勲章をお送りしますのでアリーナカウンターまでお越しください』



 それからあっという間に勝利を重ねる。

 チート持ちと呼ぶにふさわしく無双した。


 ヘレンを部隊に編入するのにはコスト11を要する。

 この世界でもレベル1上がるごとに上限コストも1上がる仕組みになっているようだ。

 念願のコスト11まであと1と言う所まで来た。


「ど、どうしよう……なんか緊張してきたぞ」


 徐々に高まる期待とは裏腹に、ヘレンとの対面にビビり始めて来ている。

 年齢=彼女いない歴な男が憧れの女子とお近づきになれるなんてシチュに平常心でいられる訳がない。

 

 指揮官は所持キャラを一人だけ副官に任命できる。

 この人選をヘレン以外にする選択肢はない。

 ただ、副官任命のイベントが刺激的過ぎるのだ。

 俺にそれを耐えるだけの余裕があるか心配になってきている。


 それをよそに指揮官ギルドは謎の有能指揮官の話題で持ちきりになっていた。

 俺の事なんだけどね。


 初戦から29連勝。

 片手剣と拳銃を同時に装備して尚且つ魔法も扱うとなれば話題性充分なのだろう。


 今使ってるスタイルは他の指揮官から大きく注目を浴びていた。

 

 この組み合わせで武器を持つには『スタンス』と呼ばれる課金アイテムが必要だ。

 俺のスタイルは『ガン&スラッシュ』と言う最上位のスタンスを持っていないと出来ない。


 片手剣の二刀流スタイル『デュオスラッシュ』ですら見かける指揮官は極わずかだった。


 そもそもスタンスについて根幹から認識が違うのだ。

 俺は飽くまでも課金要素の「後付け」としてこれを扱っている。

 ここにいる指揮官たちは「生まれつき」でスタンスが決められていると思っている。


 例えば初戦の相手ゴッダスは「ダブルアックス」と言われるスタンスを使っていた。

 生まれ持ったスタンス以外がどこかで入手できたりするのを知らないし、生まれつきあるスタンスに適応した武器しか扱おうとしないのだ。


「ちょっといいかしら?」


 控室で次の試合を待ちながら色々と考えていたら、フード付きのローブを羽織った少女が声を掛けて来た。


「何……って君はたしか」


 こいつよくもヌケヌケと俺に話しかけて来たな。

 会釈を完全無視した魔法☆少女だ。


「さっきはごめんなさい。その、わたしは男性に不慣れなもので……」

「気にしてないけど。それよりも何か用なのか?」


 いや気にしてるけどさ。

 素直に謝罪したしとりあえず水に流してあげよう。

 しかし男性に不慣れの癖に割とあっさり俺に声かけて来てるのは突っ込まない方がいいのかな。


「今もありったけの勇気を振り絞ってあなたに声をかけたのだけど……その、聞いてもいいかしら?」


 よく見ると手をギュッと握りしめている。

 心なしか足が震えている様にも見える。


「とりあえず座りなよ。答えられる範囲なら何でも聞いてくれ」

「不躾で申し訳ないけど失礼するわね」


 魔法少女は俺の隣に腰を掛ける。一人分の隙間を空けて。


 不慣れなのは分かるんだけど、なんかナチュラルに俺傷ついてるぞ。

 この距離感で会話相手に座られると意外と効くもんなんだな。


「わたしはレッチよ……その、もし良かったらあなたの名前もいいかしら?」


 試合のアナウンスで既に互いの名前は知っているはずだ。

 一応の礼儀なのかもしれない。


「俺はケイだよ。よろしくねレッチ」


 ……。


 なんだこの沈黙は。


 ふと横顔を覗いてみると、フードを目深に下ろして俯いている。

 かろうじて見える範囲でも分かるくらいに顔が赤い。

 

 ……。


 不慣れで緊張してるのは分かってるけど、なんで黙ってるのか。


「どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」


 少し間があったが呼びかけには応えてくれた。


「そのケ、ケイ殿はいきなり名前を呼び捨てにして……だ、大胆なのね……」

「別に俺の事もケイって呼んでくれて構わないよ?」


 そしてまたレッチに沈黙が訪れる。

 それだけならまだしも先程より赤みが増してきた。 

 顔に留まらず、首筋も耳までも真っ赤になっている。


「大丈夫か? 本当は具合悪いんだろ? 横になって休んでほうがいいよ、ほら肩貸すからさ」


 するとレッチは両目を見開いて固まってしまう。が、すぐに我を取り戻したようだ。


「や、やややや、大丈夫よケイ殿……そ、そうだ! 急用を思い出してしまったの。また今度話をお願いするわね」 

 

 そう言うと彼女は風のように去っていった。


 いったい何だったんだ。

 でもまた今度って言ってたからいつか会えるだろ。



『次の試合はテイロス様とケイ様の試合です。異議がなければ両者準備完了とみなして進行します』


 あ、呼ばれた。これでブロンズともおさらばだな。

 さっさと片付けて昇格してくるか。

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