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18/22

18話 ヴァイスには近づくな

 昼を迎える鐘が聞こえる。

 ここもはじまりの街と同様に、時計台が時刻を知らせるようだ。


 今日から本格的にヴァイスの情報を集めようと思っていた。

 しかし情報を握っていそうなアデルスは未だ眠りの中にいる。


 起きたらヘレンしかいなかったので、アデルスの部屋を覗いてみた。

 そこにはあられもない姿の女子達がベッドに並んで横になっていたのだ。

 部屋には酒の臭いが充満していた。


 話を聞けそうな状態ではないので、起きるまで放置すると決める。


 やることもなくダラダラと過ごしてきてやっと昼になった感じだ。


 ソファに座ってウィンドウを開きインベントリを漁っている。

 装備の強化でもしようと思うが、強化屋に出向かないといけないらしい。


 隣ではヘレンが俺に寄り添って読書している。

 なんでも、歴代指揮官の英雄譚が書かれた人気の本なのだそうだ。


「おもしろいか?」

「ええ。これまでの悪魔との戦いや、或いは人間同士の領地争いは興味深いです」

「へえ~、悪魔だけと戦ってたって訳じゃないんだな」


 領地争いの内容を聞くと。

 貴族が指揮官を雇って、領地を強奪するものが多い。

 中にはクエスト中の国王(領地の主である指揮官)を暗殺する事件まであったらしい。


「これじゃあ悪魔につけこまれるよなぁ」

「まったくその通りです。同じ人間が足を引っ張り合っているのですから」


 それでもヘレンが憎むのは悪魔だけだそうだ。


「人の中にある小さな悪を見つけて誘惑するのも悪魔の手口なのです」

「悪ってのは?」

「嫉妬であったり、野心であったり、醜い欲望は悪になりやすいかと思います」


 まさに悪魔のささやきって奴だろうか。

 

 俺もまさに昼寝という睡魔のささやきが聞こえてきている。


「なんか天気もいいし眠くならないか?」

「いえ、わたくしはケイ様が起きている間に寝ると言う欲望など湧きません」


 相変わらずの忠誠心だった。

 なんて感心していると、アデルスとの部屋に繋がる扉が開かれる。


「いや~よく飲んでよく寝たね~。ん? あんたらもう起きてたのかい?」


 ――もうって、今昼なんだけど。


「レイラとレッチはまだ寝てるのか?」

「ぐっすりさ。あの程度の酒でまだ起きれないなんて情けないよ」


 ――だからもう昼だって。


「それよりもアデルス。シャツ一枚はケイ様の目に毒です。何か履いてください」


 いつ指摘しようかとも思ったが、代わりにヘレンが言ってくれた。


「ふぁぁぁぁ~。じゃあちょっと風呂でも浴びて来るかねぇ。何か軽い食べ物でも注文しといてくれないかい?」


 言いながらシャツを脱いで脱衣所へと向かった。

 俺達の返事も聞かずに扉が閉まる。


「仕方ないですね」


 ため息を吐きながらもヘレンは呼び鈴を鳴らしてホテルのメイドを呼びつけた。





 結局あの後、レイラとレッチも起き抜けの風呂に入り、もう一度メイドを呼ぶ羽目になった。


 その二人よりも先に食事を済ませたアデルスは、赤いフルーツを手に取ってテラスに移動する。

 俺とヘレンもそれを追った。


「調子はどう?」

「最高にいいねぇ。こんな日の風呂は気持ちいいよ」


 外を眺めると、王宮に近い山間にこのホテルはあるようだ。

 いくつもの水路の先には商業区画が一望できる。


「ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいかな?」


 アデルスは何も言わずに、フルーツをかじった。


「ヴァイス、の事かい?」

「なんで分ったんだ?」

「酒場でも竜騎士とその話をしたからさ」


 そう言う事なら話が早い。

 

「かなり有名なクランなんだろ?」

「そうだねぇ、そりゃここら近辺の領地を一時期とは言え複数持ってたからねぇ」


 フルーツを食べ終えたアデルスは、次に葉巻に火を点けた。


「レイラから話は聞いてるんだろ? 何かあいつらの情報を教えて欲しいんだ」


 漂っている煙に一息吹きかけて、アデルスは何か言葉を探している様だった。

 その結果。


「あいつらに関わるのはやめておきな」

「なぜ?」

「ヴァイスの目的は普通じゃない。奴らはただ戦いを求めているだけさ。そこに悪魔も人間も関係ないんだよ」


 だからってこのまま手を引くのは腑に浮落ちない。


「関わったら襲われるってことか?」

「さあねぇ。でも、あんた達は確実に狙われると思うよ」


 そう言ってアデルスはヘレンとレイラを順に見やった。

 そして続ける。


「あんたにこの二人を守れるってのかい? あたしにすら勝てない癖にねぇ」

「ちょっと待って。アデルスでもヴァイスの奴らには敵わないのか?」

「状況によるやね。ただサシでやったら勝ち目は薄いと睨んでるよ」


 ――まじか。あんなに強かったアデルスにこうまで言わせるのかよ。


「あたしはあんた達を気に入ってるんだ。特に、今はまだあいつらには近づかない方がいいよ」

「俺がもっと強ければな……」


 葉巻がもう随分と短くなってきている。

 それに気が付いたアデルスはテラスの策で揉み消した。


「だからそりゃ昨日も言っただろ? あたしが強くしてやるってさ」


 そうだった。

 こんな身近に、こんな凄い人がいて、その人が稽古をつけてくれると言っている。

 このチャンスを活かさないでどうする。


「強くなれるかな?」

「誰が師匠だと思ってるんだい? それにあんたは色々とやっかいな戦闘スタイルだしねぇ。もしかしたらあたしなんてすぐ追い抜くよ」


 アデルスの性格上、これはお世辞じゃないだろう。

 その期待には応えなければ。


「よろしくお願いします!」

「いい心がけだね。ひとまずヴァイスの事は忘れて強くなりな!」


 隣にいるヘレンはこの会話を黙って見守っていた。

 口を挟まなかったのを見ると、ヘレンもアデルスに信を置いているのだろう。


 それにしてもヴァイスの目的は一体なんなんだ。

 いや、今それは頭の片隅にしまっておこう。

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