14話 ヘレンとの逃避行
人生初めてのドンチャン騒ぎを経験した次の朝。
これもまた初めての二日酔による頭痛に目を覚まされた。
その時既にヘレンは隣で正座していた。
いつからそうしていたのかは不明だ。
それからみっちり2時間。
ヘレンのお説教を受ける事になった。
俺に近付く女は全て悪と思い込んでいる節があるようだ。
――嫁さんってこんな感じなのかな。
今のところレイラとレッチにはうるさく言ってない。
いや、レイラとは事あるごとに言い争いをしているけど。
そして次の日、俺達は王都へ来ていた。
課金アイテム『高速馬車』を使えばスタミナの消費を0に抑えて、隣の街や領地までを10分で移動できる。
それでもはじまりの街から王都までに5つの街がある。
結局1時間ほどかかってしまった。
ゲームの時は即移動出来たけど、ここではそうもいかないらしい。
「ここがローゼン王都か」
ヘレンとレイラはもちろん、案内人としてレッチも同行してくれた。
「ここは水の都って言われるほどに潤沢な水源があるのよ。観光客も多くてここら辺は商業施設が豊富ね」
レッチが言う通り、街には幾筋もの水路が伸びている。
様々な商店や、娯楽施設の看板も目に付く。中には温泉の広告もあった。
――さすが水の都だな。しかも木造建てが一つもない。
奥へ行くにつれて、いくつかの山がそびえ立っている。
まるでこの王都を守護しているようだ。
「あの山の中央の大きな建物が宮殿ね。まああそこに用事はないでしょうけど」
ちょっと興味はある。
しかし今回の目的は『ヴァイス』なる白ローブ集団の情報収集だ。
「とりあえずここの指揮官ギルドはどこかわかる?」
「こっちよ」
慣れた様子のレッチに案内される。
それにしてもヘレンとレイラは少々目立つ存在のようだ。
通りすがりの人たちからやけに視線を注がれている。
「なんでこんなに注目されてるんだ?」
「そうね、皆ヘレンさんとレイラちゃんに興味深々みたいね」
微妙にヘレンとレイラへの呼び方が違う。
レッチはレイラと談笑する事も多いから、自然と仲良くなったのだろう。
「ケイ様、もしかしたらわたくしたちの存在を知っている者がここには多いのかもしれません」
「そうかもねー。だってレイラもヘレンも担当してたダンジョンここから近いからー」
ここには精霊との契約を目当てにしたレイドダンジョン挑戦者がかなりいるのだろうか。
だとしたら目立っているのも頷ける。
ダンジョン最深部まで到達すれば精霊の姿形は見れる訳だから。
と言う事は。
その精霊が何故ダンジョンから出て来て王都にいるって事にならないだろうか。
噂を聞きつけた野次馬が徐々に人だかりになっていく。
「わたしったらうっかりしてたみたい。精霊がここにいるって事は誰かと契約したって事なのよね」
「それって俺だよね?」
レッチに責任はない。
それを言うなら俺だってその考えに至るべきだったんだ。
「ここは一旦人気のない所でやりすごしてはいかがですか?」
ヘレンの提案はもっともだ。
このままじゃ俺の存在も広まっていくだけで、この後の目的に支障が出かねない。
「みんなこっちよ」
思い当たるあてがあるのかレッチは迷う事なく誘導を始めた。
ひとまず好奇心に満ちた視線からは逃れることができた。
しかし、数人は俺達の後を追ってきているようだ。
――このままじゃまた囲まれるかもしれないな。
「二手に別れよう。俺とヘレンはこっちで、レッチとレイラはあっち」
「わかった。あとで落ち合いましょ」
俺と同じ組だったことにヘレンは笑みがこぼれている。
対してレイラは意外にも不服そうな顔をしなかった。
こうして俺とヘレンは土地勘のない街を駆けだしていった。
そもそも、追いかけて来た奴らの目的はなんなのだろう。
追手の数は4人。
それら全てが俺達のほうへ尾いてきた。
精霊を力づくで横取りするのか?
いや無理だろう。
じゃあなんなんだ。
「ケイ様こっちです!」
やや広めの通りを走っていると、住居区画に迷い込んだようだ。
入り組んだ小道がいくつも通されている。
すると追手たちも焦っているような声をあげた。
「この先に行かれたらまずいぞ!」
「なんとかして捕まえろ!」
どうも穏やかではない言葉が混ざっている。
捕まえるだと?
だとしたらいったいどっちを?
そもそもここまで来たら逃げる必要なんてないんじゃないだろうか。
街での敵対行動はご法度な訳だし、話せばわかるかもしれない。
小道は人が通りすぎるくらいには幅がある。
俺はそこをヘレンと並んで走っていた。
二人同時に後ろを振り返ってしまったその時。
目の前にいた人物に気付かず衝突してしまう。
ドンッ!
「いった~いぞ~」
ぶつかった相手はまるで痛みなどないような間の抜けた声をあげる。
しかも、よくみると人のようで人ではない。
熊のような人が突っ立っていた。
小道には隙間がない。
これではまるで行き止まりの壁と同じだ。
「すみませんそこを通ってもいいですか?」
なんて呑気に許可を得ようとしてる間にも追手との距離は詰まっている。
「獣人の方、前を急いでいますので横を失礼します」
ヘレンは丁寧に断りを入れて俺の手を引き再度駆け出そうとした。
――へぇ~、これが獣人かぁ。
そんな感想を心の中で呟いた時だった。
どこからともなく熊じゃない別の声が耳に入る。
「あんたらこっちだよ!」
ぶっきらぼうな女性の声だ。
しかしどこから聞こえるのか見当がつかない。
俺もヘレンも懸命に目と首を動かして探す。
「上だよ上ぇ! 抱えて運んでやりな熊ぁ!」
その言葉通り、見上げると石造りの家の屋上に女性がいた。
同時に俺とヘレンは熊の獣人に抱えられる。
「おい、なんだよ」
「こらっ、なんてハレンチな!」
熊の腕力はかなりのものだった。
俺とヘレンの二人がかりでも解けないのだから。
「とぶよ~」
熊がまた間抜けな声をだした。
次の瞬間、その巨体からは想像もできない速度でジャンプする。
家と家の間を身軽にステップして、あっという間に女性がいる屋上まで到達してしまう。
目の前には、ワイルドと言う言葉がぴったり当てはまる女性がいた。
彼女は葉巻の煙をくゆらせて、俺達を追って来た連中を見るや軽く舌打ちする。
「あんたたち追われてるんだろ? だったらこっちで匿ってやるさ」
どこの誰だかはわからないが、結果的に助けてもらった事になる。
断るに断れず、彼女の後へとついていった。




