13話 ヘレンさんへの土下座を覚悟します
防衛クエストが終わり、俺達ははじまりの街に戻った。
レッチも含めて四人で歩いている。
「最後に出て来た白ローブの二人組……あいつらかなりの手練れだな」
まるで独り言のようになってしまったのは、俺以外の三人がずっと難しい顔で考え事をしているからだった。
初防衛クエストをクリアし、ひょんな事から新たに得た物も多かった。
本来なら讃え、労い合って街に凱旋していたはずだ。
それなのに辛気臭い雰囲気が漂っているのは確実にあの二人組が影響している。
そんな中、ヘレンが沈黙を破る。
「あの転移魔法陣……ケイ様はあれに見覚えがありませんか?」
転移魔法陣かぁ。
確かゲームでは自分の領地内の好きな場所にワープ出来るアイテムだったはずだ。
これのお陰で無駄にスタミナを消費しなくて済む。
でもそれをあの二人組が入手できるはずがない。
「覚えてる。でもあれ課金アイテムじゃん」
「そうです。正確には精霊アイテムとここでは呼びます」
ん?
何か今聞き逃してはならないワードが出たぞ。
「ちょっと待ってヘレン。ここでそう呼ぶって事は、この世界にも課金アイテムが存在するって事?」
「はい。精霊石と引き換えですが、ゲーム内で存在したほぼ全てのアイテムが入手可能です」
「ガチャにあったヘレン達の様な精霊も?」
「それは不可能です」
それじゃあ精霊石はどこで入手できるのか。
そう聞く前にレッチが何か閃いたようだ。
「思いだしたっ! 白いローブにあの強さ。前にこの国以外のいくつかを治めていたグループが揃いの白ローブを着ていたらしいの」
今現在人類が治めている国はここローゼンしかない。
少し前までそいつらが国を持っていたと言う事はかなりの実力者なのだと予想できる。
未だにそいつら以外で領地を持っている者がいないのだから。
なおもレッチの話は続く。
「確か『ヴァイス』だったと思うの。今あるクランでは最大で最強と謳われているわね。そのヴァイスが急に領地を失くしたのよ。それは人類側に少なくない驚きを与えたはず……」
驚きと言うよりも疑問だ。
まだ低レベルとは言え、これだけのチートを持つ俺よりもあの薙刀男は強かった気がする。
猟銃のほうもたった一発でガーゴイルの顔を吹き飛ばしたのだ。
あいつらが指揮官なのか戦士なのかは分からない。
しかしあれだけの強さを持っていて、しかもクランで纏まっていれば領地の一つや二つ持っていないと不自然だ。
それは飽くまでも俺のゲーム感覚基準でしかない。
ただ、あの強さで悪魔に太刀打ちできないとなれば到底俺はこの世界の救世主にはなれそうにない。
すると今度はレイラが何かを思い出したようだ。
「あっ!」
「どうしたのレイラ?」
真面目に考え込んでいたレイラが珍しかったのか、ヘレンはさっきからずっと気にかけていた。
そのレイラが急に声を上げて咄嗟に反応する。
「さっきの薙刀のあいつねー、なんか見た事あるなーって思いだしてたの」
レイラから難しい表情は消えない。
「ケイくんは知らないだろうけど、わたしたち精霊は元々ダンジョンレイドのボスだったんだよー」
どう言う事だ?
「領地の支配権に必要なアイテムが出る、あのダンジョンレイド?」
「それそれー。あれね元々レイラたちがボスだったんだよー」
この世界について俺は知らない事だらけだ。
まさかヘレンやレイラがあのダンジョンの主だったなんて。
ゲームでのレイドボスは悪魔だったのだが何故に精霊がボスなんだろう。
「それでねー、あの薙刀男なんだけど、何回かレイラと戦ってるはずなんだよねー。その時にヴァイスって言ってたもん」
「それでレイラは勝ったの?」
咄嗟に勝敗が気になってしまったのは、俺が奴との差を意識しているからかもしれない。
「もっちろん! ボッコボコだね」
心無しか安堵してしまった。
レイラが負けて欲しくなかったと言うのもあるけど、レイラ以上に強かったら俺との差はかなりあるって事だからね。
ちなみにレッチには俺の戦士が精霊である事だけ話してある。
もちろんいつか周知されるだろうけど、それまでは心に留めて貰う事もお願いした。
「なるべく早めに王都へ行ってみるか。そのヴァイスってクランの事を調べてみようと思う」
「わたくしはケイ様の行くところならどこへでも」
「行こう行こう! 王都はおいしいご飯がいっぱいあるんだよー」
正直な所、ヘレンが良ければこの街でのんびり過ごしたい。
しかしあのヴァイスって奴らが俺に牙を剥いた理由も気になる。
だって襲われる理由ないからね。
「あら? なんだか向こうの方がずいぶんと騒がしいみたいね」
ひとまずの方針を決めたところで、レッチが大通りの先に人垣を見つける。
もしかしたらさっきの二人組がいるのかもしれない。
そう思うと脚の動きが自然と早くなってしまう。
「なんだろう?」
騒ぎが起きてるのは、昨日俺達が食事をした高級レストランの辺りのようだ。
近づくにつれて、そこが騒ぎの中心地になっている事に気が付いた。
人混みの中から俺達を見つけた女性が大きな声を上げる。
「みんな来たわよー! 英雄が帰ってきたわよー!」
英雄?
「よっしゃー! 祭りだ、祭りを始めるぞー!」
「早く英雄を担いで来い! こっちに座ってもらえや!」
祭りだって?
戸惑っている間に俺達は囲まれて無理矢理に高級レストランへ引っ張られていった。
中に入ると怪我の処置を終えた漆黒の騎士団連中も既に酒を浴びている。
あの気品あふれる店内は人でごった返しになり宴会が始まった。
「うっほーい! ご飯だー、お酒だー! これ全部もらっていいのー?」
いち早くこの場に馴染んだのはレイラだった。
我先にとテーブルに並べられた豪華な品々を胃袋に流し始めている。
気が付くと隣にいたはずのヘレンは、鼻の下を伸ばした野郎どもに囲まれている。
あの盾を構えたヘレンを見たらそりゃ一目惚れするよね。
レッチも知り合いと思われる集団にクエストでの活躍を根掘り葉掘り質問責めされている。
そして俺は……。
「今夜はお姉さんと一緒に過ごしましょ? ね?」
「ちょっとあんたケイちゃんはあたしが先に目をつけたんだからね!」
「そんな野蛮な女は放っておいてこっちに座りましょ?」
「ねえこの子けっこういい物持ってるわよ! ほらあんたも触ってみなさいって」
色っぽいお姉様たちに絡まれてしまった。
しかも皆ほとんど下着しか付けていない様な恰好でだ。
あっ……そこは触らないでください。
なんてエロいんだこの世界は。
まずい……。
ヘレンがとうとうこっちに気付いちゃった。
憤怒の顔で睨まれているのだが、俺別に悪くないよね?
一応こっちからのタッチは控えてるからね。
それにしても、どうやらローゼンの人たちはお祭りが大好きなようだ。
こんな体験した事ないけど、この雰囲気はけっこう好きかもしれない。
ひとまずヴァイスの件は置いといて祭りを楽しむ事にしよう。
俺にとっても初めてのクエストクリアだったしな。
そしてヘレンさんには帰ってから土下座するしかない。
お読みくださってありがとうございます。




