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12話 クエストは終わったが

 見た感じが正反対だからって、性格までそうとは限らない筈だ。

 いや、そう思い込みたいだけなのかもしれない。


 清楚を体現してるようなヘレンとは逆に、活発で溌剌(はつらつ)なのがレイラだった。

 竜騎士というだけあって、竜鱗(りゅうりん)の軽鎧をまとっており、そこから見える肌は薄褐色で健康的だ。

 程よく引き締まった身体とボーイッシュな赤毛が拍車をかけて、目の前ではしゃいでいる彼女が明朗なのだと印象付ける。



 はしゃいでいると言ったけど実は嘘なんだ。


 ……。


「いい加減そのはしたない口調を治しなさい」

「ほんとヘレンは堅物ぅ~。だーかーら、男が寄ってこないんじゃなーい?」

「わ、わたくしにはケイ様がいるから問題ありません!」

「ケイくんはレイラがいいみたいだよー?」


 堅物VSはしたない……ファイッ!


 ヘレンが反対していたからあまり仲がよろしくないとは思っていたけど、ここまで犬猿の仲だと思わなかった。

 俺はゲームでの二人しか知らないし、こんな関係だなんて思いもしなかったからね。


 見た目通り性格も正反対なのか?


 そんな想いに耽りながら、俺達三人は漆黒の騎士団を救出する為に全力疾走の真っ只中である。


 もう少し緊張感を持ってくれないとなぁ。


「そろそろガーゴイルの攻撃範囲に入るから喧嘩してる場合じゃないぞ」


 しかし俺の一言で、二人の意識はガーゴイルに向けられる。素直で良かった。

 一応目的は理解しているのだろう。


「さっき説明した通り頼んだぞ」

「はい!」

「ハーイ」


 ガーゴイルの正面、騎士団の背後から接近し、俺はそのまま正面突破。

 ヘレンは騎士団の護衛、そしてレイラは迂回して背後に回る様に散開した。


 今回の装備は短剣の二刀流を選んだ。

 スタンスも特殊で『ツインダガーボム』と言う。短剣と魔法を併用する事を前提としたものだ。


 しかも今両手に持っている『バーストキリング』はこのスタンスでないと装備できない代物だった。


 疲弊しきった黒の集団を横目に、短剣を逆手に構えてガーゴイルの面前に躍り出る。

 さらに自己加速スキルを使って一気の接近を計った。


「ここは頼んだよヘレン」

「お任せ下さい」


 そう言いつつ盛大に吐き出された火炎攻撃を難なく防いでいる。

 絶体絶命と腹をくくっていたのか、九死に一生を得た騎士団達は緊張の糸が切れたようにその場へへたり込んでしまった。


 その様子を尻目に、そのまま突き進む。


 それに気付いたガーゴイルの標的が俺に切り替わった。

 必死で俺の事を目で追っているのがよく分かる。


 レイラの方はどうかな?


 視線をそちらに送る。

 もう少しで背後に回れる地点まで進んでいた。


 その確認作業はほんの一瞬の出来事だった。

 だがその隙を逃さないのはさすが希少種と言える。


 ガーゴイルから視線を外した途端に鉤爪が襲ってきた。


 先手を取るつもりでいたけど、まあいいか。


 その一振りをギリギリまで引き寄せる。

 爪と言うにはあまりにも巨大なそれは、寸分たがわぬコントロールで俺の顔面を捉えようとしている。


 その瞬間。

 右に持った短剣を力に任せて爪に突き刺す。

 突き刺した勢いで身体を宙に浮かせ、そのまま前に回転して短剣を支柱に逆立ちした。


 ここからがこの「バーストキリング」の真骨頂だ。


 鉤爪に突き刺した刃が光を放ち、爪の中で爆発が起こるとそれは木っ端微塵に吹き飛んだ。

 そのまま爆風を利用して一気にガーゴイルの眼前まで跳躍する。


 鉤爪に短剣を突き刺してからここまでの動作は、まさに電光石火と言っていいかもしれない。

 爪が吹き飛んだ次の瞬間には右目に短剣が刺さっていたのだから。


「右目終了っと」


 一切の躊躇なく起爆。

 右目が爆発し、今度はヘレン達がいる方へと飛ばされる。


 しかし。


 空中で刃を再度爆発させる。

 狙いを定めてバランスを取る。

 またしても爆風を利用し今度は左目に向かって飛んだ。


「左目終了」


 さっきと同じようにガーゴイルの目が爆発する。

 これで両目を潰す事に成功した。


 だが、まだ終わらない。


 苦しそうにのたうち回る悪魔の背後からはレイラが迫っている。

 俺が視界に入れた時には既に、真っ赤に染まった巨大ハンマーを振りかぶっているところだった。


 そして聞き馴染のある掛け声と同時にそれを振り下ろす。


「ばっこーん!」


 ハンマーの打撃部分は片方が平らなのに対して、反対側は円錐状に尖っている。

 レイラはそちらの尖った方でガーゴイルの後頭部に恐ろしい衝撃を与えた。


 前のめりに倒れる巨体。

 俺はそれを上空から眺めていた。


「トドメだ」


 空中でもう一度短剣が爆ぜる。

 重力も加算させ傾く巨体の頭頂部に飛び降りた。

 そのまま両の短剣を突き立てて間髪いれずに起爆させた。


 ガーゴイルの頭は先程からの2倍の爆発に見舞われた。


 これが致命傷となったのだろう。

 さっきまでうるさかった叫びが止んで、その巨体はうつ伏せに横たわっていった。


「終わったか?」


 身じろぎもしなくなったガーゴイルの傍に着地する。

 そのまま頭の方へと近寄った。

 

 が、次の瞬間、大きな羽根が一気に広げられて一回の羽ばたきで宙へと舞った。

 

 油断してなかったとは言えない。

 まさかあの状態から空中にまで移動する力が残っていたとは思っていなかった。


 そして更に予期せぬ事態が起こる。

 それを真っ先に知らせてくれたのがヘレンだった。


「ケイさま避けてくださいっ!」


 その言葉に気付いた時には、今にも火炎を吐き出そうとしていたガーゴイルの顔面が吹き飛んでいた。

 顔面があったであろう位置の目の前からは猟銃を構えた男が落下しているところだった。


 その男がガーゴイルの顔を一発で吹き飛ばしたのは明らかだ。


 しかし横槍はそいつだけではない。

 すぐ傍にもう一人男が迫ってきていた。きっとヘレンはこっちの事を言っていたのだろう。


 なんなんだこいつら。

 

 刹那、男は薙刀のような武器を振り下ろしてきた。

 咄嗟に両方の短剣でガードしてから爆発を起こして距離を置く。

 受け身の準備をしていなかったので、転がりながら吹き飛ばされていく。

 無理矢理に態勢を整え、すぐさま男の方へ視線を戻す。同時にヘレンとレイラが駆けつけた。


「なかなかやるじゃないか。何者だ貴様?」


 猟銃の男は既に薙刀の男と並んでいる。

 武器こそまったく違う系統を使っているが、二人とも真っ白な揃いのローブを着こんでいる。

 フードを被っているので顔は見えづらい。


 ただ、薄気味の悪い笑みを浮かべているのは口の形を見て分かった。


「そっちこそ何者だよ? さっきの一撃は殺す気だっただろ?」


 もしヘレンの声が届いてなかったら俺は本当に死んでいたかも知れない。


「死んでいたらそれまでの事。だが貴様は生きているじゃないか」


 何を言ってるんだこの薙刀男は?

 悪魔でもない俺を殺してなんの意味がある?


 そんな疑問を抱いていると猟銃男が初めて口を開いた。


「そろそろ戻るぞ」


 そう言うと白ローブの二人の足元に転移の魔法陣が出現し、瞬く間にその姿が消滅した。

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