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11話 竜騎士レイラ召喚

 あの黒鎧軍団にガーゴイルを倒せるかどうかは隅に置く。

 ひとまず街門まで戻って一休みする事にした。

 初めて悪魔と戦闘したからなのか、意外と体力を消耗したように思える。


 アリーナに籠った日に感じられなかったこの疲労感は、命を賭けた対価なのかもしれない。


 街門に戻るとはじまりの街を根城にする指揮官達が大いに労ってくれ、一時は歓声と喝采にまみれてお祭り騒ぎになってしまった。


 まだボスがいるってのに完全に戦勝ムードなのはいかがなものか。


 あまりにもうるさいので少し離れ、街を囲む壁にもたれて座っている。

 ヘレンは律儀にも正座をしてこっちの様子を窺っているようだ。


「お疲れのご様子ですが大丈夫ですか?」


 まるで自分の事の様に気遣ってくれるヘレンさんマジ天使です。

 そんな顔で見つめられるとつい頬が緩んでしまう。


「ちょっと緊張の糸が切れたのかもしれない」

「で、ではっ、是非ともわたくしの膝を枕にしておくつろぎください!」


 それはとても魅力的な提案だ。

 しかし、その期待に満ちた表情とさっきの心配そうな言葉の矛盾はなんなんだ。

 嬉しいのか気遣って心痛めてるのかどっちなんですかねぇ。


「いや、あっちの様子も観察しときたいからそれはまた今度お願いしようかな」


 ヘレンは残念そうな顔で頬を膨らませている。

 実を言うと、このまま膝枕で横になってしまったら本格的に寝てしまいそうな気がしたのだ。

 今は戦況を見つめて、いざと言う時の為に体を休めておくしかない。


「それにしても『漆黒の騎士団』と名乗るクランは、実際にレアガーゴイルを前にしても怯まず戦えるのでしょうか?」


 ヘレンはすぐに気を取り直して、俺の視線を追いながら平原の黒い騎士団を見つめている。

 まったく同じ危惧を俺も抱えているからこそ膝枕を辞退したんだけどね。


 今はあいつらが少しでも時間を稼いでくれることを祈るしかない。

 このままで俺の出番となれば、下手をすると致命傷を負いかねない気がする。

 それ程に疲労している自覚があった。


 

 平原の先の緩やかな坂の上から、赤黒い鳥の悪魔が姿を現した。


「始まるぞ」

「最悪の時はわたくしが先に介入いたします」

「その時は頼む」


 ヘレンも俺の調子がどこか変だと感じているんだな。

 それを踏まえての言葉だろう。


 ガーゴイルは鳥の形をした石像の悪魔だ。

 鳥と言っても象よりも巨大で鉤爪(かぎづめ)のある二本足で歩行する。

 空中戦も得意とし、上空から吐き出される炎にはきっと苦しむだろう。

 接近戦では羽根が巻き起こす突風と、両手からも伸びる鋭い爪が厄介だ。


「ん~やっぱダメかぁ」


 その全貌が現われるとガーゴイルを前にした漆黒の騎士たちは、ここからでも分かる程に混乱している様子だ。


 それが普通だと思う。

 誰だって命の危機を前にしたら冷静でいられる訳がないんだ。


 それでも男たちの中に逃げ出そうとする者がいなかったのは傲慢なりの誇りなのだろう。

 退くに退けないのも分かるけど、時にそんなプライドが命取りになる。


 あれだけ見得を切ったんだから時間稼ぎくらいはして欲しいもんだ。


 するとレッチが小走りでやってきた。


「やっぱりあなた何者なの? いえいいわ、それはまた今度聞かせて。それよりもあの援軍大丈夫かしら?」


 疑問を抱くのも理解できる。

 ほぼ俺の部隊だけでここまでの悪魔を退けたのだから。


「大丈夫、じゃないだろうな。レッチなら充分助太刀可能な戦力だと思うぞ」


 あの杖を操ったレッチはこのレベルにしては破格の火力持ちになったはずだ。


「あれはあなたが貸してくれた杖のお陰……あら? あなた怪我でもしたの? 顔色が優れない様だけど」

「いやちょっと疲れただけだよ。あっ!」


 平原の戦いから目を離さずにレッチの問いへ答えたのと同時だった。

 騎士団の一人がガーゴイルの爪に盾ごと串刺しにされる。

 幸い刺されたのは肩なので命は助かっただろう。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」

「うわあぁぁぁぁぁっ!」

「や、やられちまったぞ!」


 街門からは恐怖と絶望の叫びが上がっている。


 あんな盾じゃ防げるはずがないだろう。よくもまあ正面から受けようと思ったな。


 悔しさと呆れがない交ぜになった感情が湧き上がるが、俺の体力はまだまだ回復しそうにない。


「あんな傲慢な騎士団だけど……助けられないかしら?」


 ここまでの戦いを見ていたら当然そう思うのが自然だろう。

 明らかに騎士団は劣勢に回っている。

 レッチは申し訳なさそうにしながらも切実な視線を俺に向けていた。


 出来れば俺だって今すぐにでもガーゴイルに向かっていきたいんだけどね。


「どうにもさっきから身体に力が入らないんだよ。あの戦闘が終わったら急に疲れちゃってさ」


 レッチはなぜか不思議そうな顔をしている。


「典型的なスタミナ切れの症状ね。回復剤持ってないのだったら言ってくれればいいのに」


 スタミナ?


 ……。


 あっ!

 ああああああっ!


 もしかして?


 俺の「閃いた!」って顔にレッチもヘレンも驚いた事だろう。


 何で俺は今までスタミナの存在に気付かなかったのだ。

 何が「命を賭けた対価なのかもしれない(キリッ」だ!



 すぐさまウィンドウを開くと左上の隅にあるスタミナ値を確認する。


「スタミナ0じゃん……」

「もしかして気付いてなかったの? あんなに強いのに変な所で抜けてるのねあなたって人は」


 いやいや、きっとこの世界の常識に照らせばレッチの言葉は正論な訳だけども。ぐぬぬ。

 今は何も言い返せない。 

 しかしそれなら今すぐにでも元の状態に戻せるはずだ。


「ありがとうレッチ! 回復剤はいらないや」

「えっ? じゃあ持ってるの?」


 これ以上説明してる暇はない。

 今はまずインベントリの確認を最優先しよう。


「ごめんレッチちょっと待ってね」


 そう言いながらも既にウィンドウを操作して「課金インベントリ」を表示させている。


 なんで今までこれをスルーしていたのか。

 この中には更なるチートアイテムが格納されていたって言うのに。


「どうしたの? 急にニヤニヤして」

「ケイ様どうされましたか? やはり膝枕が必要なのでは……」


 訝しむ二人をよそに今必要なアイテムを片っ端から使っていく。


 どうやらヘレンは気付いたみたいだ。


 まず俺のスタミナは最大で20しかない。

 これは丁度、防衛クエストの2フェーズ分で無くなる量だ。

 なのでまずは「勲章の泉」なるアイテムを10個使って、レベルアップに必要な勲章を獲得する。

 すると一気に20までレベルアップする事が出来た。


 次に「スタミナ完全回復剤」を使って最大までスタミナを回復させた。

 するとどうだろう。

 さっきまでの疲労感が嘘のように力がみなぎってくる。


 レベルが上がったって事は、コストの上限も上がったって事になる。

 6から20に上がった分の14が加算されて上限は25になった。


 ヘレンには俺のウィンドウが丸見えになっているので、何が起こっていてこのあと何が起きるのかの見当がついてるようだ。


 ちなみにレッチだけ蚊帳の外状態になっている。


「まさか……レイラを?」

「だね」

「わたくしは反対です! あのお調子者が同じ部隊にいるなんてっ!」


 確かにレイラはお調子者かもしれない。

 俺の中ではギャルっぽいノリっていうのがしっくりくるんだけどね。

 でもやっぱり竜騎士の火力を先に入手しない手はない。

 決して俺の推しキャラランキング2位だからってだけが理由じゃあないのだ。


「俺が決めた事でも反対?」


 きっとヘレンは自分がわがままを言っている自覚はあるのだろう。

 まるで子供がお願いを聞いてくれなかった時の様な顔をしている。


「大丈夫、俺を信じてくれないか? ヘレンは副官だろ?」


 少し間があったが、観念したよう小さく頷いてくれた。


 既に編入の可否を問うテキストは表示させてあったので、この同意を受けてすぐさま「YES」の文字に指を重ねた。

 俺は特段驚く事はなかったが、すぐそばにいるレッチは目を剥いている。


 無理もない。

 いきなり光が射しこんできて、その中に人のようなシルエットが浮かび上がってるんだから。

 普通の戦士は指揮官と同じ人族か他の種族である。

 編入する際には指揮官と戦士とでウィンドウを介し契約するだけらしい。


 光の中からいきなり現れた人を戦士ですって紹介されたら更に驚いてしまうだろう。


 驚きと警戒を露わにしながらも、経緯を見守っていたレッチの前に竜騎士レイラが現れた。

 そんな事はお構いなしで、俺は場違いにも興奮を抑えずにいられない。


 レイラの容姿も個性的なキャラも俺は気に入っているのだ。

 そんなこと口に出して言えるはずもないけど。

 もちろん一番はヘレンだ。


 そして聞き馴染のあるセリフが聞こえて来る。


「やっほーっ! ケイくんレイラだよーっ! 竜の力が欲しくなっちゃった? じゃあ君だけ特別にレイラの力を分けて……ア・ゲ・ル。キャハッ!」


 ちなみに「ア・ゲ・ル」の最後にウィンクをする。


 か、可愛い!


 そう心の中で叫んでいたとしても、表情にそれが出ないように注意が必要だ。


 こうして二次元の推しキャラを、異世界ではあるが二人も目の当たりにした。

 内心では完全に浮かれモードになってしまった。


「ケイくんおっひさー! ねえねえレイラいなくて寂しかったぁ? あんな金髪の堅物女じゃ退屈だったよね~?」


 どうやらレイラはスキンシップの激しい女の子の様だ。

 腕にしがみ付き俺の顔にくっつく程の距離でヘレンを挑発してしまった。


 あ、でもいい匂いがする。


 じゃなくて、あまりヘレンさんを挑発しないでくれレイラさん。

 だけど二の腕に当たってる感触だけはもう少し味わっていたい。

 ヘレン程の肉厚感はないが程よく弾性に富んでいる。


 一瞬頬が緩んだのをヘレンは見逃さなかった。

 視線だけで一喝されたように睨まれてしまう。


 これじゃあ板挟みじゃないか。


 ……。


 こうして竜騎士レイラを召喚する事になった俺はクエストそっちのけでこの興奮に浸っている。


 ……。


 幸いにもこの事態が落ち着くまでに騎士団から死亡者は出ていない様だ。

 

 さて、そろそろ助けに行くとしようか。

 このまま浮かれてたらなんの為にレイラを呼び出したか分からないからね。

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