表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/48

第二章 泣き虫の神さま 〈8〉

     5



 (なぎさ)が少しの(かん)パンと水で一応(いちおう)の朝食をとっていると、かたわらのサバイバルブランケットがカシャクシャと音をたてた。カナエが目をさましたらしい。


「おはよ~、(なぎさ)。いや~、(ねむ)るのってはじめてだったけど、気もちよいね」


(……おはよう、カナエ)


 (なぎさ)返事(へんじ)はやさしかったが、どこか明るさが感じられなかった。


「ん、どったの? 朝から表情(ひょうじょう)暗いね。寝不足(ねぶそく)? 昨日(きのう)の夜はゆれをなるべくおさえたつもりだったんだけど、(ねむ)れなかった?」


(あ、いや。むしろカナエのおかげでゆっくり(ねむ)れたと思う。ホントありがとう)


「なんか元気なくない? ……あ、わかった。おしっこ行った時、虫におちんちんさされたんでしょ? ()てあげよっか?」


()なくていいよっ! て()うか、べつにそんなことないしっ!)


 (なぎさ)はあわてて股間(こかん)をかくしてあとずさった。カナエならうむを()わせず(なぎさ)のズボンを下ろしそうだ。


 (なぎさ)のようすに笑顔を見せたカナエだったが、(ひとみ)(おく)は笑っていなかった。


「じゃあ、どうしたの?」


 (なぎさ)は目をふせたまま、ためらいがちにつぶやいた。


(……なんて()うか、もうカナエとさよならしなくちゃならないのかと思うと、ちょっと、ね……)


「え、なんで?」


 カナエが小首をかしげて聞きかえす。


(だって、ぼくがここからはなれたら、カナエのこと見えなくなっちゃうんだろ? それにぼくはこれから母ちゃんをさがしに弁天町(べんてんちょう)まで行かなくちゃならない。カナエはウブスナガミだから、となり町までいっしょにこられないんだろ?)


 一瞬(いっしゅん)(なぎさ)()っている意味(いみ)がわからなくてきょとんとしたカナエの表情(ひょうじょう)がなごんだ。


「なに()ってんの。ちゃんと(わたし)(なぎさ)といっしょにお母さんをさがしてあげるって」


(え、だって……?)


 今度は(なぎさ)がきょとんとする番だった。


「たしかに〈顕現(けんげん)〉のアイテムであるご(かみ)体の銅鏡(どうきょう)(なぎさ)がはなれてしまえば、(わたし)(なぎさ)から見えなくなる。でも、(なぎさ)とご(かみ)体の銅鏡(どうきょう)がはなれなければ〈顕現(けんげん)〉は効力(こうりょく)(うしな)わない」


(……どう()うこと?)


「ようするに、こう()うこと」


 カナエはサバイバルブランケットをはだけて立ち上がると、(なぎさ)防災袋(ぼうさいぶくろ)から(なぎさ)防災頭巾(ぼうさいずきん)をとりだした。


 中には綿がつまっていて、ふだんはざぶとん代わりに教室のイスにしいてあるものだ。


 文机(ふみづくえ)の上へ()いてあった銅鏡(どうきょう)防災頭巾(ぼうさいずきん)でくるむと、防災袋(ぼうさいぶくろ)(おく)へていねいにしまった。


「ね。こうやって(なぎさ)背負(しょ)って歩けば〈顕現(けんげん)〉の効力(こうりょく)(うしな)われずにすむってわけ」


 その手があったか、と(なぎさ)は感心した。(なぎさ)の常識には、神聖(しんせい)なご神体(しんたい)神社(じんじゃ)からもちだすと()う発想がなかった。


(なぎさ)()うとおり、(わたし)はまだまだ力の弱い〈産土神(うぶすながみ)〉だから、人について町の外へ行くことはできないけど、千年の長きにわたって人々の真摯(しんし)(いの)りがそそがれつづけたご神体(しんたい)といっしょなら、町の外へでることもできる。……あ、そのクシャクシャもかたづけちゃお。(なぎさ)そっちもって」


 てきぱきと防災袋(ぼうさいぶくろ)中身()を入れなおすカナエが、(なぎさ)をうながして大きなサバイバルブランケットをふたりできちんとたたんだ。もう1枚のサバイバルブランケットもたたみながら(なぎさ)がたずねる。


(それにしても、ご神体(しんたい)勝手(かって)にもちだしていいの?)


「この神社(じんじゃ)に祀られてる(かみ)さまの(わたし)がもって行くんだから、こっちとしては問題(もんだい)ないんだけど、神社(じんじゃ)の人とかがご神体(しんたい)のないことに気づいたら、そっちじゃちょっと問題(もんだい)だよね」


(でしょ?)


 一応、カナエにも常識的な感覚があったか、と(なぎさ)は思う。


「ちゃんと『しばらくお借りします。カナエ』って、書き()きのこしておくから」


(そんなんじゃダメだってば!)


 ドロボウの書き()きと疑われかねない。立派(りっぱ)犯行声明文(はんこうせいめいぶん)だ。


「あっはっは、冗談(じょうだん)冗談(じょうだん)。このカナエさまにぬかりはないって」


 防災袋(ぼうさいぶくろ)に2枚のサバイバルブランケットをしまいながらカナエが笑った。


(どうすんの?)


 カナエは(なぎさ)へほほ笑みかけると、両手で大きな玉を小さくかためるような仕草を見せた。


 胸の前で上下からたいらに押しつぶすよう手のひらをまわすと、そのすきまから強い光がもれた。光が消え、カナエが上にかぶせた手を広げると、そこに銅鏡(どうきょう)があらわれた。


(わ、スゴイ! なにそれ!? どうしたの?)


「空気を超圧縮(ちょうあっしゅく)してつくったの。とどのつまりはニセモノだけどさ、これならバレないと思わない?」


 くすんだ緑青の質感がとてもリアルなニセモノの銅鏡(どうきょう)を、CDみたいに片手(かたて)でひらひらともてあそびながら、カナエが得意げに()った。


 ニセモノだろうとなんだろうと、一応(いちおう)(かみ)さまのつくったものであれば、銅鏡(どうきょう)と同じくらいアリガタイものじゃないのか? と思わなくもなかったが、(なぎさ)は軽口をたたいた。


(ホント、たまに(かみ)さまっぽいことするよね)


「24時間・年中無休で(かみ)さまだっつーの」


(……まだ開店4日目じゃないか)


「あはは、ホントだね」


 いたずらっぽく笑うカナエの表情(ひょうじょう)に、(なぎさ)は内心ドキッとした。


 カワイイ幼なじみと会話しているような気分になるが、実際は昨日(きのう)会ったばかりで、生まれてからまだ4日しかたっていない(かみ)さまなのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ