表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/48

第二章 泣き虫の神さま 〈1〉

挿絵(By みてみん)



     1



(……やっぱり子どもじゃないか)


 (なぎさ)は目の前で起きたふしぎな光景に、内心とてもおどろいていた。


 しかし、あらわれた相手が自分と同じ年ごろの女の子だったこともあって、なんとか平静を装ってみせることができた。


「しょうがないでしょ。こっちにだって、いろいろ事情ってもんがあるんだから」


 カナエはぷーっとむくれた。もっとおどろかれると思っていたのに、反応があっさりしすぎでつまらなかったのだ。


「でもこれで、私が神さまだって納得したでしょ?」


(そうだね。一応)


 (なぎさ)がばく然とイメージする神さまは、もっとおごそかで近よりがたい雰囲気をかもし出しているものだが、カナエは単なるコスプレ美少女にしか見えなかった。


「はじめての〈顕現(けんげん)〉が、これだけ上手にできたんだから、もう少しほめてくれてもよくない? それこそユーレイみたいにスケスケになるかもって、心配してたんだよ」


 (なぎさ)は首をかしげた。カナエがなにを云っているのか理解できなかった。


「実を云うと、私は3日前に生まれたばっかりなんだよねー。だから子どもの姿なの」


 カナエの唐突な告白に渚は面くらった。


(3日前!? ……ぼくと同い年くらいにしか見えないけど)


 その上、(なぎさ)よりずっと物知りっぽい。


「人間と同じ尺度で考えるのは無意味。だって、私は一応、神さまなんだから」


(でも、神さまって、生まれたり死んだりするわけ?)


「『古事記』にだって、神さまから神さまが生まれる場面はたくさんあるよ。(なぎさ)、読んでないの?」


(『王子とこじき』なら読んだことあるかも)


「コジキちがいね。……それ冗談のつもり?」


 (なぎさ)は答えなかった。肯定しても否定してもバカにされそうだ。


「まあ、トト神さまも、新しく神さまが生まれるのはマレなことだって云ってた」


(トト神さまって?)


「私の生みの親。私はトト神さまの左の手のひらから生まれたんだって。新しい神さまが生まれるって云うことは、トト神さまが〈おおいなるみなもと〉へ(かえ)る日が近づいているんだろうとも云ってた」


(……〈おおいなるみなもと〉?)


 カナエが口を開くたびに(なぎさ)の知らない言葉がとび出してくる。カナエは(なぎさ)のハテナに答えないまま話をつづけた。


「世界にはいろんな神さまがいるらしいんだけど、私たち〈産土神(うぶすながみ)〉は、その地に根ざし、その地に住まう生きとし生けるものを祝福し、守護(しゅご)するのがお役目なんだって。トト神さま……って云うか、私の管轄(かんかつ)がこの宝船町なの」


(宝船町だけ?)


「うん。となりのえびす町にはえびす町の、弁天(べんてん)町には弁天(べんてん)町の〈産土神(うぶすながみ)〉がいる。まだあいさつには行ってないけど」


(それって、人のつくった市町村別にわかれているわけ?)


便宜(べんぎ)的に。その方が神さまたちもやりやすいんだって」


(やりやすいとかあるんだ?)


「人間に感化されている部分があるのかもしれないけど、大地にやどる精霊(せいれい)と云う特質上、境界(きょうかい)のハッキリしている方が、力を行使しやすいんだと思う」


 またむずかしいことを云い出した。(なぎさ)にはカナエが生まれて3日目とは思えない。


「私たちは実体をもたない思念体(しねんたい)だから、おちこちにすることができる。私は今、(なぎさ)のとなりにいると同時に、宝船町のみんなひとりひとりによりそっているの」


 (なぎさ)の頭上でハテナ・マークが輪になっておどっていた。


まったく理解できていないことに気づいたカナエは、(なぎさ)の意識をさぐって言葉を選ぶ。


「……ようするに、忍法(にんぽう)多重影分身(たじゅうかげぶんしん)の術〉みたいなもんよ。〈分身の術〉で、宝船町にいるすべての人のそばにいるわけ。分身の私は、それぞれ独自に行動できるけど、根っこの部分で意識を共有してる。マンガとかでそう云うの読んだことあるでしょ?」


(うん)


 今度は(なぎさ)にもつうじたらしい。


(じゃあ、カナエはみんなにも見えているの?)


 カナエはかぶりをふった。


「だれにも見えていないし、私の声もほとんど聞こえてない。(なぎさ)だって、私が3日前からずっとそばにいたこととか、トト神さまがその前からずっとそばにいたことにだって気づかなかったでしょ?」


(そうなの?)


「夢とか無意識のところで、私の声をキャッチしてくれた人たちが数人いるだけ。ふつう、そう云う人たちは、カンがよいとか、霊感が強いとか云われる」


(……ぼくは云われたことないけど)


「ホント、ふしぎだよね」


 カナエが、さもありなんと云う風情でうなづく。


「でも、私が(なぎさ)の前で、これだけハッキリ〈顕現(けんげん)〉できたってことは、なにかあるんだよ」


 カナエの左のたなごころに透明(とうめい)宝玉(ほうぎょく)があらわれた。黄緑(きみどり)色にあわく光る宝玉(ほうぎょく)を、左手の親指だけで器用(きよう)にくるくるとまわしながら、話しつづける。


「私たちが〈顕現(けんげん)〉するためには、ふたつの条件(じょうけん)が必要なの。ひとつは長いこと人の(いの)りや(おも)いがそそがれて、それ自体が神性(しんせい)をおびたアイテム。そして、もうひとつは私たちと深く心をかよわせることのできる人。ここでは、そのアイテムがこの神社のご神体である銅鏡(どうきょう)で、心をかよわせることのできる人が(なぎさ)ってことになるんだよね」


 カナエの(ひとみ)銅鏡(どうきょう)(なぎさ)交互(こうご)に見た。


(アイテムが銅鏡(どうきょう)って、なんかRPGみたい……)


 カナエが手のひらで転がしていた宝玉(ほうぎょく)の光がオレンジに変化した。カナエの親指の動きがとまる。


「……そっか。(なぎさ)は小さいころから、よくこの神社で遊んでたのか。トト神さまにすっごく愛されてたんだね」


(……?)


「トト神さまは、ちっちゃいころの(なぎさ)とかくれんぼして遊んだこともあるんだって。むかし〈顕現(けんげん)〉したトト神さまと何度も会ってたから、私の声も聞きとってくれたし〈顕現(けんげん)〉もラクだったんだ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ