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【書籍化】カワイイ俺とキミの嘘!~超絶カワイイ女装男子の俺が、男装女子を攻略出来ないハズがない!~  作者: 千早 朔
続編第三章 カワイイ俺のカワイイ襲来

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カワイイ俺のカワイイ襲来①

 多分、俺は自分でも気付かないウチに、『恋人』という言葉に酔っていたのだろう。

 恋人だから、だれよりも彼女を知っている。だれよりも彼女を、理解している。

 そんな傲慢めいた勘違いが、全ての間違いで。

 だというのに、この、喉奥にべっとりと張り付いている裏切られたような心地が、不快でたまらない。


「ユウちゃん、カイさんに理由聞けた?」


 お馴染みの半個室席で、俺の対面に腰掛ける俊哉が不安気に尋ねてくる。

 なんの、なんて聞かずとも。

 俺は努めて静かに、手にしていたアイスティーのグラスを置いた。


「……受けるか受けないかはともかく、直接話を聞いてあげないとって思ったらしい」

「カイさんって真面目で誠実って感じですもんねー」


 丁度のタイミングでカーテンを開けたのは、勤務中の時成だ。「はい、オムライスプレートとカレープレートですー」と順に机上に置き、俺へと視線を移してから、「で、どうなったんですかー?」と先を促す。

 持ち上げたスプーンが重い。


 あの後、店外でトシキさんと落ち合ったカイさんは、直接話を聞き、きちんと検討した上で断ったと言う。

 が、トシキさんは諦めきれなかったらしい。今度は正式な手順を踏んで、カイさんの"客"として現れた。曰く、『心変わりするかもしれないから』と。


「え、大丈夫でした?」


 まさか三十分間ずっと口説かれていたのでは。

 報告を受けた電話口で尋ねると、カイさんが笑った気配がした。


『うん、大丈夫。その話は最初だけで、後は普通に街中を散歩したよ。……面白い人だね、トシキさんって」


 ドキリ、と冷えた心臓。

 いや、カイさんはただ事実を述べただけだ、と妙に跳ねる鼓動を宥め、「ですよね。ウチの店でもすごく気さくで、優しいです」と相づちを打った。


(……なんか最近、調子が悪いな)


 どうにもことカイさんの言動に、神経質過ぎる。束縛は俺だって好きではない。もっとおおらかな気持ちでいないと。

 自分の動揺部分はすっぱり切って、カイさんと交わした会話をかいつまんで説明すると、時成と俊哉は複雑そうな顔をした。時成なんて、「……てゆーかトシキさんのソレって、本当にカットモデルの為なんですよねー?」と懐疑的だ。


 そんな事、俺に聞くな。なんならその答えは俺が欲しい。

 頭を抱えたい衝動をグッと堪え、「そう言ってるんだから、そうじゃないか」とオムライスをすくい、時成を席から追い出した。

 時成がココにいると、フロアにはコウだけになる。早く返してやらないと。


 再び二人に戻った空間で、カレーを咀嚼した俊哉が「……でもさ」と切り出した。


「俺も美容師さんの事情はわからないから、やっぱり心配になっちゃうよ。カイさんを疑うつもりはないけど……好きな相手が他の男の人とデートしてるのって、ちょっと嫌じゃない?」

「……"デート"じゃなくて"エスコート"だし、自主的なお出かけじゃなくて仕事な。それに、今回たまたま知ったってだけで、今までだって男性の"客"がいたかもしれないだろ」

「それはそうだけど……」

「俺だって女性のお客様がいるし、お互い様ってヤツ。いちいち"嫌"だなんて言ってたら、身が持たないって」


 俺達は互いの仕事を"理解"して上で付き合っている。

 そうだ。だから俺は不安にはならないし、互いに"遠慮"する必要もない。

 ただ、今回のトシキさんの件は"ユウ"が繋いでしまったようなモノだから、その"責任感"から気にかけているだけだ。

 それが答え。俺はいつもより味のしないオムライスを咀嚼しながら、何でもない顔で「大丈夫だって」と嘆息する。


「カイさんが嫌がってるようなら、ちゃんと守るよ」

「……それは、そうだろうけど」


 眉間に不満を刻んだ俊哉が、まだ何かを言いかけた刹那。

 

「先輩! ユウちゃん先輩ーっ!」


 慌てた声がシャッ! と勢い良くカーテンを開け、俺達は盛大に肩を跳ね上げた。

 ビックリした。てか何事だ。


「あ、あいら。そんな乱暴に……」

「大変ですー! 先輩!」


 珍しく肩で息をする時成が、涙目で「助けてくださいーっ!」と俺の左腕を掴んで揺さぶる。


「ちょっ、なんだどうした」

「いまっ……なんか女の子が、殴り込みに……っ!」

「はあ?」


 殴り込み? ここは単なるオトコの娘カフェだぞ?

 拍子抜けした俺を咎めるように、時成は俺を席から立たせようと、必死に腕を引っ張る。


「いいから来てくださいーっ! このままじゃコウがー!」

「っ、コウ?」


 何だかよくわからないが、コウのピンチだと言うのなら、急いで行かないと。

 即座に立ち上がった俺は廊下へ飛び出し、駆け足でフロアに向かった。

 と、明らかに常時とは異なった、興奮したような声が耳に届いてくる。


 女の子の声だ。フロアへ飛び込むと、出入り口付近に焦りを浮かべたコウの後ろ姿が見えた。その対面には小柄な女の子。黒髪のボブで、ちょっと気の強い小動物のような目を更につり上げている。

 歳は俺より少し下……コウと同じくらいだろうか。

 彼女は俺達に目もくれず、フリルたっぷりのミニスカートから伸びる脚を踏ん張り、コウの腕を強引に掴んだ。


「ほらっ! 帰るわよこーちゃん!」」

「ちょ、ちょっと待ってよ……!」

「待たないわよ! どーせ、ここで働いてるのも内緒にしてるんでしょ!」

「そ、れは……っ」

「……悪いけど、いったんストップ」


 引っ張られるコウの腕を掴んで割入ると、コウは驚いたような顔をした。が、刹那、複雑そうに顔を崩す。

 なんだろう。ほっとしたような、でもバツの悪そうな。色んな感情が織り交ぜられているようだが、今、その一つ一つを紐解く暇はない。

 コウの腕を支える俺の手を引き剥がそうとしながら「ちょっと、邪魔しないでくれる」と凄む彼女の、針のような敵意が全身に突き刺さってくる。


「ち――」


 慌てたように言いかけたコウを、俺は視線で制止した。

 大丈夫。こんな"トラブル"対応は、朝飯前だ。

 俺は目の前の"子鹿"ちゃんへと視線を映し、にっこりと綺麗に笑んでみせる。


「この店で彼の教育担当を担っている"ユウ"といいます。"コウ"に何か御用ですか」

「……あんたには関係ないでしょ」

「お言葉ですが、彼はきちんと雇用契約を結んだウチの従業員で、現在は勤務中の身です。勝手に職場を放棄をされては困りますし、僕には"お客様"が強引に連れ出そうとしているように見受けられます。責任者として、"トラブル"を見過ごすワケにはいきません。コウが何かご迷惑をおかけしたのなら、店としてきちんと対応をさせて頂きますが――」

「……なんなのよ」


 射抜く双眸。声を揺らす、制御から溢れた憤怒。

 彼女はやっとのことで退いた手を、自身の腿横で握りしめた。


「っ、アンタなんて、こーちゃんのことっ、なんも知らないくせに……っ! こーちゃんを守れるのは、私だけなんだから!」

「ちーちゃんっ!」


 なるほど。『こーちゃん』『ちーちゃん』と呼び合う間柄ね……。

 どうやら事態は思っているより複雑そうだ。悟った俺は膝を屈め、彼女をしっかりと見据えながら「……それならば」と切り出した。

 ふんわりと瞳を和らげる、色を浮かべた"ユウ"の笑み。彼女の戸惑いを察知しつつも、全力で"口説き"の体制に入る。


「ひとまずは僕と、お茶でもどうですか?」


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