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【書籍化】カワイイ俺とキミの嘘!~超絶カワイイ女装男子の俺が、男装女子を攻略出来ないハズがない!~  作者: 千早 朔
第十章 カワイイ俺のカワイイ本当

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カワイイ俺のカワイイ本当⑨


「あ、やっと揃った感じ?」

「拓さん! スミマセン、ご迷惑おかけしました」


 駆け寄り頭を下げるカイさんに、「待ってください!」と俺も頭を下げる。

 彼女に責められる理由はない。


「全て俺の責任です。カイさんも、拓さんも、巻き込んでしまって……。本当に、すみませんでした」

「カイ、怪我は?」

「え? いえ、特にありませんけど……」

「ユウちゃんも、怪我はないね?」

「へ? あ、ハイ」


 予想だにしていなかった問いに思わず顔を上げると、拓さんは「ならいいよ」と大きく息を吐き出した。


「こーゆー仕事してれば、珍しいコトじゃないしね。お灸は据えてきたんでしょ?」

「あ、はい、一応……」


 拓さんは頭を掻いて、


「なら一旦は様子見かな。ユウちゃんトコにはあいらちゃんと俊哉くんがいるし、こっちにはオレがいるし。あとはオレとあいらちゃんの知り合いも使えば、ある程度は平気でしょ」

「え、ええと?」


 どうしよう、話しが見えない。

 疑問符を飛ばしながら首を傾けると、呆れ顔の時成が受付から踏み出しながら、


「警備ですよ、警備ー。 痴情のもつれってコワイですからねー。……まぁ、レナさんはのめり込んだら周りが見えなくなる節がありますけど、基本的には話が通じる人ですし、ユウちゃん先輩にガツンと言われたなら、このまま引いてくれるとは思うんですけどねー。一応、念の為ですー」

「俺はあんまりよくわからないけど、何事も、何かあってからじゃ遅いからね」

「そーゆーコト。ウチも、人気頭のカイに離れられちゃあ、困るしね」

「っ」


 労わるような声色。優しい、優しい空気。

 溢れる感謝を噛みしめながら「……ありがとうございます」と頭を下げると、隣でカイさんも低頭した気配がした。

 守られている。こんなにも、大切に。

 こみ上げてきた目奥の熱さに耐えていると、愉しげな声が場の空気を一変させた。


「そーれーでー?」


 横を通り過ぎながら俺の肩をポンと叩き、拓さんは時成と俊哉の隣へと歩を進め、


「二人は、収まるトコに収まったの?」

「いっ!?」


 そ、れは……っ!


「拓さん、それ訊く必要ありますかー? めちゃくちゃ駄々漏れじゃないですー?」

「いやーでもやっぱホラ、迅速な報告はお仕事のキホンだから。ね? カイ」

「えっ、と、その……」


 チラリと背後を振り返ると、当惑しながらも頬を染めるカイさん。視線を戻すと、拓さんの口角がニヤニヤと上がっている。

 時成の言う通り、わかっているだろうに言葉にしろと迫っているのだ。

 意地が悪い。恨めし気な俺の視線にも、拓さんはどこ吹く風で「ほらほら」と促してくる。


 ここは俺が助け舟を出す場面なのだろうか。うん、たぶんそうだろう。

 意を決してぐっと顎を上げる。と、フロアを進む足音がして、肩に指先が触れた。

 カイさんだ。俺を見下ろす顔がふわりと緩む。柔らかく、温かく、でも、愛おしげに無邪気に。


「『特別』な人の『特別』って、嬉しいですね」

「っ!」


 結局どの道、俺よりも彼女の方が何枚もウワテらしい。

 真っ赤な顔で湯気をあげる俺に、「ごちそーさま!」と笑う声が重なった。


***


 高く照りつける日差しに、汗ばむ肌。ナチュラルに見えるようにとバッチリ施した化粧が、汗に流れ落ちそうでハラハラする。

 短い袖が薄く透けるワンピースは、今日の為にと購入したばかりだ。なんだかんだで気合が入ってしまうのは、仕方ないだろう。

 だって今日は、大切な大切な、大好きなあの人との『デート』なのだから。


「……ゆうちゃん!」


 現れたその人は、常よりも短いスラックスに、白いリネンで作られたノースリーブのシャツを合わせている。

 露出の多い肌にうっかり心臓が跳ねたが、しっかりと心中を律して平常を装った。


「おまたせ」


 甘く和らいだ瞳に、軽く首を振る。待ち合わせ時間までは、まだ数分ある筈だ。

 こっそりと掌をスカートで拭い、少しだけの躊躇いを挟んでから、無防備な細い指先を握りこめた。

 湿り気を帯びた高温の外気にはホトホトまいっているというのに、この体温は、心地いい。


「行きましょうか、なつきさん」

「……うん」


 照れくさそうにはにかんだ彼女の薄く浮いた鎖骨の上で、銀に縁どられた海色が、キラリと光った。

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