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【書籍化】カワイイ俺とキミの嘘!~超絶カワイイ女装男子の俺が、男装女子を攻略出来ないハズがない!~  作者: 千早 朔
第十章 カワイイ俺のカワイイ本当

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カワイイ俺のカワイイ本当③


「ボロボロだね。そんなに必死な悠真をみたの、いつぶりだろ」

「!」


 俊哉は上体を伸ばして俺の肩を小突き、


「俺に気を回す暇があるなら、早く見つけないと」

「っ、ああ」

「俺はこの周辺の路地をもう一回探してみるから、悠真はカフェの方に戻りながら捜索範囲広げて。この辺は路地が入り組んでるから、普段通ってないとこもね」

「わかった」

「見つけたら連絡入れるから、スマフォはそのまま手に握ってて。落とさないようにね」


 肩を持たれ、クルリと身体を回転させられる。背を押しながら「はい、行って」と微笑む俊哉からは、普段の頼りなさは微塵も感じられない。

 そういえば長男だった。こんな時に思い出す。


(とにかく、早くカイさんを見つけないと)


 硬化していた脳にそれだけを刻みつけ、俺は顔だけで振り返り、


「俊哉」

「ん?」

「……ありがとな」


 せり上がってきた気恥ずかしさを悟られる前にと、返事も聞かずに駈け出した。

 けれども何となく、わかってしまうのだ。

 俺の背を見送る俊哉は暫く瞠目した後、小さく吹き出して、「がんばれ」と嬉しそうに相好を崩したのだろう。


***


 日頃の運動不足に悲鳴を上げ始めた両足を叱咤しながら、俺は必死に裏路地を走った。

 そういえば、美しさを妬まれた姫は『女王』に命を狙われ、狩人に逃された森を必死に駆けていたっけ。不思議の国に迷い込んだ少女も、ハートの『女王』に追われ、捕まるまいと逃げ惑いこれまた駆け回っていた。

 そんな事を頭の片隅で考えながら、周囲を見渡す。

 この場合、『ヒロイン』にあたるのは俺だろうか、彼女だろうか。

 見てくれで判別するのなら、俺だろう。しかし『女王』が狙う相手を物語のヒロインとするのならば、彼女だ。

 『王子』の姿をした彼女を見つけ出した暁には、『ヒロイン』の姿をした俺は王子になれるのだろうか。


 その場所は『Good Knight』と喫茶店の、中間あたりだろう。

 入り組んだ裏路地の奥まった角を曲がった時、人の話し声が聞こえた。

 高い。女性の声だ。認識した瞬間、心臓が可能性に跳ね上がった。

 緊張に空気が張り詰める。駆け回ったせいで荒く乱れる呼吸を抑えつけつつ潜めて、足音を立てないように近づき、緑々とした葉の覆う垣根から顔を覗かせた。


「っ!」


 先を阻む灰色にくすんだブロック塀の前で、向かい合う二つの影。

 腕を組んで凄む赤を纏う女性と、困り顔で見下ろす長身の人。


(みつけた!)


 安堵に気が緩んだのは一瞬。

 耳に届いたレナさんの剣呑な声に、再びピンと張る。


「そう……どうしても約束は出来ないというのね」


 カイさんが戸惑いがちに口を開く。


「……はい。こちら側に、規則違反ではない方を制限する決まりはありません」

「わからない人ね。これは『店』に頼んでいるんじゃないの。アナタ個人に言っているのよ」

「……ならば余計に、首を縦に振るわけにはいきません」


(約束? 頼み? なんのことだ?)


 レナさんは頑なに拒むカイさんを睨み続けていたが、「……そう」と赤い唇で呟くと、小馬鹿にするようにクスクスと笑い、


「可哀想な人ね。言い寄られた経験が少ないのかしら? 勘違いしているようだから教えてあげる。ユウちゃんは特別、アナタにだけ優しいんじゃないの。皆に等しく優しいのよ。そもそも、ユウちゃんがアナタと懇意にしているのだって、アナタ自身に興味があるんじゃなくて、アナタのその『特殊性』が物珍しいだけよ」


 息を呑んだのは俺だった。


「ユウちゃんは賢い子だから、大方、勉強材料にでもしているんじゃないかしら。なのにアナタときたら、そんな事にも気づかずにユウちゃんに付き纏って。迷惑極まりないのよ」


 止めないと。

 そう思うのに、両足はアスファルトに縫い止められ、微動だにしない。

 氷柱の杭を打たれたかのように、胸の内が冷え冷えとしている。

 罪悪感。後ろめたさ。後悔。

 それらがゴチャゴチャに混ざり合って、俺を飲み込んでいく。


 レナさんの言葉は紛れも無い事実だ。俺には、否定出来ない。だからこそ知られたくなかった。

 思い当たる節があったのか、カイさんはレナさんの言葉に俯いたまま、無言を貫いている。

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