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【書籍化】カワイイ俺とキミの嘘!~超絶カワイイ女装男子の俺が、男装女子を攻略出来ないハズがない!~  作者: 千早 朔
第七章 カワイイ俺のカワイイ調査

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カワイイ俺のカワイイ調査⑨


 何か、特別な思い入れでもあるのだろうか。

 引っ掛かりを覚えながらもシルバーをもうひとセット取り出し、「カイさん」と声をかけ、


「どうぞ」

「あっ、ゴメンね」

「いーえ。じゃあ、いただきます」


 両手を合わせながら軽く頭を下げ、皿のふちにかけていたシルバーを再度手にし、トーストへとナイフを入れた。

 耳の部分はカリッとした感触。スッと引くとしっかり卵液を含んだ生地が、柔らかくナイフを通す。

 切れ目に流れこむメープル。熱にジワリと溶け出したバターをナイフで少しだけ乗せ、口に運んだ。

 生地はふわりととろけるように軽く、メープルと混ざり合ったバターの塩気が甘さにアクセントを加えている。すかさずベリーをフォークでさして口に放り込めば、広がる酸味がメープルの甘さを拭い去っていった。


「おいしい」


 呟けば、同じく口にしていたカイさんが「うん、美味しいね」と頷いた。その顔には先程のような憂いはなく、すっかりフレンチトーストに心奪われているようだ。

 良かった。カイさんにも楽しんでもらわないと、意味がない。

 安堵しながら使われていないミルクピッチャーをそっとカイさんの前に置き直す。カイさんはハッとしたように俺を見た後、恥じるように瞳を伏せ手にすると、姿勢を正して無言のままコーヒーへと傾けた。


「……ふっ」


 その様子が可笑しくて思わず吹き出した俺に、カイさんはスプーンでコーヒーをかき混ぜながら、「……ユウちゃん」と咎めるように言う。


「スミマセン」

「……いいけど」

「拗ねないでください」

「拗ねてないよ」


 こうした何気ないやり取りが、とてつもなく好きだ。

 ふふっと笑う俺に、カイさんはコホン、と態とらしく咳払いをして、


「そういえば。ユウちゃん、仲の良い女の子とよくお茶しにいくの?」

「……へ?」


 突然の追及に、素っ頓狂な声が出た。


(ななななんだ急に!?)


 まさかカイさんも俺の恋愛事情が気になるとかそういう――?


「さっきの。ネイルのコトとか、随分と具体的だったし。オレの知る限りではユウちゃんってネイルしてたことないから、なら女の子とお茶でもしてた時に、そういう事があったのかなって」


(ですよねー)


 純粋な疑問だと語る瞳に、湧きでた期待を取り消す。

 そして逆に窮地に立たされたと知り、脳を必死でフル回転させた。

 ネイルの件は主にレナさんのお陰だが、当然、言えば自身の首を絞めるだけである。さて、なんて返すのが無難か。


 その一、「飲食店でのアルバイト経験があって」。詳細まで踏み込まれてボロが出る可能性があるからバツ。

 その二、「あーそうなんですよー。よくアチコチ引っ張って行かれて……」。まるで特定の子がいるみたいじゃないか? バツ。

 その三、「友人の妹が結構凝っていてー……」。……高校生ってネイルしていいんだっけか?


 みっつのバツを並べるまでかかった時間は、ほんの一秒足らず。

 空虚へと視線を彷徨わせ「ああー」と曖昧に紡ぎ、引っ張りだしたのは"その四"だ。


「学校の食堂とか講義前とか、よく女子グループの子達が見せ合ってるんですよ。僕はネイルをしないので、あまりわかりませんけど、変える度に見せ合う"儀式"が必要みたいですね」

「綺麗にしたから、見て欲しんだよ。新しい服を買った時みたいに」

「ああー……それならわかります。……カイさんってネイルとかやるんですか?」

「え?」


 カイさんの瞳が揺らぎ、それからクスリと笑う。


「基本的にはやらないね。やってた事はあるけど単色塗りだし、見せ合うようなモノではないかな」

「なら、カイさんのお客さんってネイルしてる方が多いんです?」

「どうして?」

「だって、さっきの言い方は『みてみて』って言われた経験がある感じですもん」

「……妬いてるの?」

「そうですね、カイさんの回答次第では拗ねるかもしれません」


 互いに冗談だと承知の、軽い掛け合い。


「それは困るけど、ユウちゃん相手だと見抜かれちゃうからね」


 コーヒーを傾けるカイさんは、愉しそうだ。


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