カワイイ俺のカワイイ調査⑤
「と、とにかく! 俺はお前らに体良く踊らされてたってコトかよ」
「うーん、どうだろ? そんなつもりは無かったけど、そーいう事になるのかな?」
でも、と。俺の顔色を伺うように、俊哉は首を傾げてみせた。
「本当の事を知ったら、悠真はカイさんに会うのをやめてたでしょ?」
「まぁ……そうだな」
早い段階で知っていれば、なら無用だと即座に切り上げていただろう。依頼事態が消えるのだから、『約束』も無効になる。
俊哉は予想通りだと笑んで、
「そしたら『好きだ』って思える人を逃してたってコトだし。結果としては、良かったんじゃないのかな」
いつの間にお前はそんな策士になったんだ。
ニコニコと朗らかな笑顔を浮かべる俊哉に、目を見張る。本人にその意識はないのかもしれないが、俺からしてみれば完璧な"一本"だ。
してやられた。ズシリと重くなる頭。支えるように額をおさえた俺に、俊哉が静かに「良かった」と呟いた。
「……何が?」
「悠真がちゃんと、『好きだ』っていう気持ちを大事にしてくれて」
「!」
「上手くいくように、応援してるから」
そう微笑む俊哉の顔に、微かな既視感。
(……あ)
嬉しさだけではない、どこか寂しさが混ざり合った表情。
重なるのはあの日俺を呼び止めた、夕焼けを背にした拓さんの。
「……」
もしかしたら。
拓さんも吉野さんのように、俺がカイさんに抱いた恋情を感じとっていたんじゃないだろうか。
けれどあの時点で、俺はまだ自覚していなくて。水面のように揺れ動く不確かな好意を興味本位の"不誠実"ではないかと疑い、ああしてカイさんを"守る"ために"忠告"に来た。
全部、俺の憶測でしかない。だがそう考えると、しっくりくる。
「……俺、ちゃんと本気だから」
ポソリと宣言した俺に、俊哉が「うん、わかってるよ」と笑む。
本当は、拓さんに伝えるべきなのだろう。だが憶測のまま先走る事も出来ない。
"客"とのトラブルはご法度。ましてや恋愛沙汰なんて、タブー中のタブーだろう。似通った業種全てにおける、暗黙のルールだ。自ら暴露するなんて、初歩的なヘマはしない。
後はもう、感じ取って貰うしかないな、と。
改めてカイさんへの気持ちを固めた俺は、こうして俊哉への報告を無事に終えたのである。
余談だが、時成には「騙してたな」とメールを飛ばしたところ、即座に必死の弁解電話が来たので許すことにした。
知ってしまえば、カイさんという人をよく知らないまま逃していただろうという俊哉の意見にも、一理あるからだ。
ともかくこちらは準備万全。
あとは本当の意味でのカイさん攻略に向け、前進あるのみである。
(って、言ってもな……)
問題はどうやって、探りを入れるかだ。
『あんまり公にはしてないんですけど、実は僕、恋愛対象は女性なんですよ』
『そうなんだ? ユウちゃんカワイイし、彼女もカワイイんだろうね』
『やだなー、彼女なんて居ませんって。そういうカイさんはどうなんです?』
『ああ、オレは――』
(って、そんな上手くいかねーよなぁ)
脳内で繰り広げられる茶番劇を振りはらう。
刹那。突如大きく吹いた風に、スカートと髪がバサリと翻った。
「わっ」
慌てて手で抑えると、駆け抜けていっただけで穏やかに戻る。嵐の前の静けさ。なんだか次のタイミングを伺っているようだ。
ったく、勘弁してくれと内心で毒づいて、とりあえず髪は片側に纏めて寄せた。何度も吹かれ乱れた髪は、きっとボサボサだろう。吉野さんの店についたら結んでしまった方が賢明かもしれない。
そう思うのに、いやまだイケるか? と考えてしまうのは、いくら以前カイさんに問題ないと言われていても気乗りしないからだ。
(……やっぱり失敗だったな)
胸中に溜まる後悔を吐き出しながら、またいつ吹くかもわからない強風に備え、手にした鞄を後方に回し太腿付近を覆った。
これで後ろがめくれ上がる心配はなくなった。が、本来前後に振られるべき両腕を後方に固定している事に加え、歩を進める度に鞄がバシバシと腿を打ち、なんとも歩き難い。




